会社が破産した場合の従業員対応
会社が破産に至った場合、従業員への対応は極めて重要な課題となります。従業員は生活基盤を賃金に依存しているため、説明のタイミングや方法、未払賃金への対応、各種手続の適切な実施が求められます。本記事では、会社が破産した場合の従業員対応について、以下の点を解説していきます。
- 従業員に対する説明のタイミング・内容・方法
- 未払賃金・退職金への対応
- 雇用保険・社会保険・税金関係の手続
従業員に対する説明
説明のタイミング
法人破産をする場合に従業員に対して説明を行う上で、最も重要なのはタイミングの見極めです。
1.原則:申立て直前または申立てと同時期
一般的には、破産申立ての準備が整い、方針が確定した段階である申立て直前、あるいは申立てと同時期に説明を行うのが適切です。この時点であれば、破産の方針が確定しているため説明内容がぶれにくく、事業停止や資産保全措置との整合が取れるためです。
2.早期に開示するリスク
これに対し、申立て直前ではなく、申立てよりも何ヶ月も前に説明を行うことは、一見すると会社側の誠実さを示せるように見えますが、実際には以下のようなリスクがあります。
- 従業員の動揺により業務が滞る
- 多数の退職者が出て、重要な人材も流出するおそれがある
- 取引先や金融機関への情報漏洩による資産散逸や回収不能を招いて従業員に不利益をもたらす
3.開示が遅くなった場合のリスク
逆に、申立て後に十分な説明を行わなかった場合、以下のような問題が起きる可能性が高いでしょう。
- 突然の事業停止による混乱
- 従業員から会社に対する不信感の増大
説明内容
説明としては、以下のように整理すると良いでしょう。
1.破産に至った経緯と理由
まず、なぜ破産に至ったのかについて、以下の点を中心に説明します。
- 業績悪化の経緯
- 資金繰りの状況
- 会社再建の可能性がないと判断した理由
ここでは、極力感情を入れずに、事実ベースで簡潔に伝えることが重要です。
2.今後の見通しと賃金・退職金の取扱い
次に、従業員に直接関係する事項を明確に示します。
①今後の見通しについて
- 事業は原則として停止する
- 雇用契約は終了する
- 残務処理のために一部の従業員が継続雇用される可能性(ある場合のみ)
②賃金・退職金の取扱いについて
- 未払賃金の有無と見込み
- 退職金の扱い
- 支払が困難な場合の未払賃金立替払制度の利用可否と申請方法の概要
従業員にとって最も関心の高い事項の1つが「未払賃金や退職金を支払ってもらえるか、全額が無理とすればどの程度支払われるか」にあるといえます。仮に全額の支払いは困難で、どの程度まで支払いができるかが不確実である場合であっても、その不確実性も含めて正直に伝えることが信頼維持につながります。
3.従業員自身に行ってもらう手続
各従業員が今後行う必要がある手続について、具体的に説明します。
- 離職票の交付時期
- 雇用保険(失業給付)の手続
- 健康保険の切替(国保・任意継続)
- 年金手続
- 源泉徴収票の交付
法人破産後の従業員の生活に直接関わる部分であるだけに、十分な説明が必要です。
4.連絡体制の明確化
混乱を防ぐため、従業員の対応窓口を明確にします。
- 問い合わせ先(法人破産を依頼した法律事務所の連絡先・破産管財人)
- 連絡方法(メール・電話)
- いつまで対応可能か
説明の方法
説明のやり方として、「全体に対する説明」と「個別対応」を組み合わせるのが基本です。
1.全体説明会の実施
まず、全従業員を対象とした説明会を実施します。説明会は対面で行うのが望ましいですが、難しければオンラインや通常のメール等の業務フローでもよいでしょう。説明は、代表者本人が担当するのが原則です。もし、代表者自身で説明するのが困難であれば、我々弁護士から説明を致します。ウカイ&パートナーズ法律事務所では、法人破産をご依頼頂いた場合に、経営者に代わって従業員に対して会社倒産の説明会開催を行うことが可能です。従業員全員に対して一律に説明を行うことで、不公平な情報伝達による噂や誤解の拡散を防ぐことができます。
2.説明資料の配布
口頭説明だけでは不十分なため、以下のような資料を配布するのが望ましいです。
- 破産手続の概要
- 今後のスケジュール
- 未払賃金や退職金の扱い
- 利用可能な制度(未払賃金立替払制度、失業給付等)
3.個別フォロー
全体説明会を行った後、個別相談の機会を設けることも多いです。未払賃金の額、退職金の有無や金額、再就職に向けた事情等は従業員ごとに異なるためです。もし、代表者自身で面談をするのが困難であれば、我々弁護士が面談を致します。ウカイ&パートナーズ法律事務所では、法人破産をご依頼頂いた場合に、経営者に代わって従業員に対して会社倒産の個別面談や整理解雇の条件提示を行うことが可能です。
| ウカイ&パートナーズ法律事務所では、法人破産に際して、従業員への説明会や連絡窓口等、法人破産特有の対応をすることが可能です。「長年連れ添ってきてくれた従業員に直接倒産の話をするのは・・・。」、「会社が倒産するなんて何て説明すれば良いか分からない・・・。」、「会社をたたむと言ったら従業員から突き上げが来る・・・。」等、法人破産に際しての従業員対応でお悩みの方は、ぜひ、ウカイ&パートナーズ法律事務所にご相談下さい。弁護士が代表者様や経営者様に代わって対応致します。 |
電話相談はできませんので、渋谷の事務所にご来所下さい。
未払賃金への対応
未払賃金が残っている場合、会社に一定の資産が残存するか否かによって対応が異なります。
会社に資産が残っている場合
会社に一定の資産(破産財団)が存在する場合、未払賃金はその性質に応じて優先順位が異なります。
1.破産手続開始3ヵ月前以降に発生した給料
この期間の未払賃金は、原則として「財団債権」として扱われ、配当手続を待たずに支払を受けることができます。つまり、会社に一定の資産がある場合には最も保護されやすい部分です。ただし、破産する法人に換価財産に乏しく配当が見込めない事案では結局支払われないことが多いです。
2.破産手続開始3ヵ月前以前に発生した給料
破産手続開始3ヵ月前以前に支払日が到来した給料については、「優先的破産債権」に該当し、配当手続の中で一般の破産債権よりも優先的に支払を受けることができます。ただし、破産する法人に換価財産に乏しく配当が見込めない事案では結局支払われないことが多いです。
会社に資産が残っていない場合
会社に十分な資産がなく、破産手続で配当を受けるのが難しい場合は、未払賃金立替払制度を利用することによって、未払賃金の一定の範囲の支払を受けられます。
1.未払賃金立替払制度の対象者
法人破産で本制度の利用対象者となるのは、以下の要件を満たしている場合です。
- 破産した会社に「労働者」として雇用されていたこと。ここでいう労働者は、事業継続1年以上の労災保険適用事業者に雇用され、労働の対価として賃金の支払いを受けていた人を指します。正社員・アルバイト等の雇用形態は問われません。
- 退職日が破産手続開始日の6ヵ月前の日から2年以内であること
- 労働者が賃金の支払を受けないまま退職したこと
2.立替払いを受けることができる額
未払賃金立替払制度によって立替払いを受けられる額は、「未払賃金総額または未払い賃金総額の限度額のいずれか少ない方の金額の80%」です。未払賃金総額の限度額は、退職日時点の年齢によって以下のように定められています。
| 45歳以上 | 370万円(立替払いを受けられる額の上限296万円) |
| 30歳~44歳 | 220万円(同176万円) |
| 29歳以下 | 110万円(同88万円) |
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退職金への対応
会社に資産が残っている場合
退職金については、会社に退職金規程が存在し、かつ規程に定められた要件を満たしていれば、定期賃金と同様に優先的に支払を受けられます。ただし、破産する法人に換価財産に乏しく配当が見込めない事案では結局支払われないことが多いです。
会社に資産が残っていない場合
この場合は、定期賃金と同様に未払賃金立替払制度の対象となります。ただし、未払賃金立替払制度の「賃金総額の上限」には退職金も含まれる(退職金単独の枠は存在しない)ことに注意が必要です。つまり、未払の定期賃金があれば[定期賃金と退職金を合計した額、または賃金総額上限額のうち少ない方]の80%が立替払額となります。
例:退職日時点で45歳で、未払賃金が380万円(定期賃金80万円、退職金300万円)
45歳以上、未払賃金総額の限度額370万円を超えているため、限度額370万円の80%に相当する296万円が立替払額となります。
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未払賃金立替払の申請・受給方法
未払賃金立替払の申請手続は、立替払を受ける従業員が行う必要があります。
申請の流れ
1.証明書の取得
まず、破産管財人による未払賃金証明または労働基準監督署の確認通知書の発行を受けます。
2.申請書の提出
「立替払請求書」及び、「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」に必要事項を記入した上で、上記の証明書または確認通知書を添付して、労働基準監督署に提出します。
3.審査・支給
申請書提出後、独立行政法人労働者健康安全機構から申請者に対する照会及び審査を経て、支給が決定されます。
注意点
1.立替払制度対象者の要件の「2年間」と請求可能な期間の「2年間」の違い
2.証明資料の早期確保
会社が混乱している状況で申請を行うため、給与額を証明できる資料(賃金台帳、雇用契約書、給与明細等)を早期に確保することが重要です。
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従業員対応で必要となる手続
法人破産に伴い、従業員の雇用保険・社会保険・税務の手続を行う必要が生じてきます。同時期に様々な手続を行わなければならず、また会社側が行う手続と従業員自身が行う手続が混在しています。そこで、従業員対応にあたっては、各手続を「誰が」「いつ」「どのように」行うかを正確に整理することが不可欠です。
手続をいつ・誰が行うか
前提として、手続主体(誰が手続を行うか)は時期によって異なります。
- 破産手続開始決定前:原則として会社(代表者または担当者)が実施
- 破産手続開始決定後:原則として破産管財人が実施
もっとも、実際には破産手続開始決定前は申立代理人弁護士が事前準備を行い、破産手続開始決定後は管財人と会社側が協力して処理することも多く、手続主体が完全に分断されるわけではありません。
雇用保険
1.必要な手続と手続主体
①資格喪失届の提出
- 誰が:破産手続開始決定(以下「開始決定」)前→会社 開始決定後→破産管財人
- 提出先:ハローワーク
- 期限:原則として離職日の翌日から10日以内
②離職票の作成・交付
- 誰が:同上(実際には管財人が中心となる)
- 内容:賃金額、離職理由等を記載
- 失業給付の申請上、従業員への交付が必須
2.注意点
①離職理由の記載
法人破産に伴う解雇による離職は、「会社都合退職」となります。誤って自己都合退職と記載すると従業員が失業手当受給等で不利益を受けるため、注意が必要です。
②未払賃金との関係
未払賃金がある場合、賃金額は「実際に支払われた額」を記載します。未払賃金については立替払制度で対応するため、離職票は遅滞なく発行しなければなりません。
社会保険(健康保険・厚生年金)
1.必要な手続と手続主体
①被保険者資格喪失届
- 誰が:開始決定前は会社、開始決定後は破産管財人
- 提出先:年金事務所
- 期限:資格喪失被から5日以内
②健康保険証の回収
2.注意点
①従業員が行う必要がある手続を説明する
従業員側で、以下のいずれかの保険への加入手続を行うことを説明する必要があります。
- 国民健康保険
退職日の翌日から14日以内に加入手続する必要があります。 - 任意継続被保険者制度
退職後20日以内に申請します。保険料は全額自己負担となります。
②資格喪失届提出遅延のリスク
資格喪失届の提出が遅れると、保険資格の空白や医療費全額自己負担等の問題が生じます。
③会社側の保険料滞納と被保険者資格
会社が経営難で保険料を滞納していた場合でも、被保険者資格自体は原則として有効です。被保険者資格は守られる旨を説明することで、従業員の不安軽減につながるでしょう。
税金関係の手続
1.所得税関係
①源泉徴収票交付
- 誰が:開始決定前は会社、開始決定後は破産管財人
- 期限:退職後1ヵ月以内(目安)
源泉徴収票は、従業員の確定申告や転職先で提出が求められます。
②年末調整
年度の途中で事業停止した場合、原則として年末調整は行われません。この場合、従業員自身の確定申告により清算します。
2.住民税
住民税については、特別徴収から普通徴収への切替が必要です。
退職後は、再就職先の会社で給与から控除される場合を除き、従業員自身が納付することになります。従業員の負担が増えるため、全体説明会で説明する必要があります。
3.注意点
①未払給与は原則として課税対象にならない
未払の給料は、実際に支払われる時点で給与所得として源泉徴収されるため、支払われるまでは原則として課税されません。
②源泉徴収票を確実に交付する
源泉徴収票の未交付はトラブルの原因となるため、管財人に確実に引き継ぐ必要があります。
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まとめ
法人破産における従業員対応は、従業員の生活や将来に大きな影響を及ぼします。適切なタイミングでの説明、未払賃金や退職金への誠実な対応、各種保険・税務手続の確実な実施が求められます。混乱を防ぎ、従業員との信頼関係を維持していくためにも、従業員対応の適切な方策について弁護士にご相談ください。
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