
「会社の飲み会の帰り道、酔っぱらって他人の家に入ってしまって通報され、住居侵入で逮捕されてしまいました。謝罪して示談金を払って不起訴になったのですが、逮捕されたことが会社中に広まって、懲戒解雇されてしまいました。やったことについては反省していますが、その飲み会で上司に酒を無理強いされていたのもあり、懲戒解雇は納得できません。会社に解雇を撤回してもらいたいのですが可能でしょうか?」
当法律事務所において、我々弁護士は、このように、懲戒解雇されて処分が不当だと思われる方からの相談を頂くことがよくあります。懲戒解雇は会社による重大な刑罰ともいえる処分であり、再就職する場合にもマイナス要素になってしまいます。懲戒解雇が不当だと思った場合、どのように対処すればよいでしょうか。
本記事では、懲戒解雇された場合の対処法について、以下の点を中心に解説します。
まず、「懲戒解雇」とはどのような処分を指すか、懲戒解雇の定義や他の解雇との共通点・相違点を見てみましょう。
懲戒解雇とは、労働者が企業秩序に反する行為を行った場合に、会社が懲戒処分として行う解雇をいいます。懲戒処分には戒告、けん責、減給、出勤停止、降格等がありますが、懲戒解雇はその中で最も重い処分となります。
解雇には、懲戒解雇の他に普通解雇・整理解雇があります。
懲戒解雇と他の解雇の共通点として、「原則として失業保険の特定受給資格者(いわゆる会社都合退職扱い)となる」ことが挙げられます。
整理解雇の場合は、専ら会社の経営上の都合による解雇であることから、必ず会社都合退職扱いとなります。
普通解雇と懲戒解雇については、雇用保険法第23条1項の「労働者の責めに帰すべき事由による解雇」(重責解雇)に該当する場合は自己都合退職扱いとなる他は、原則として会社都合退職扱いとなります。
懲戒解雇と普通解雇・整理解雇の相違点として、以下が挙げられます。
退職金は、就業規則または退職金規程の定めに従って支払われます(労基法第89条3号・3号の2)。普通解雇の場合は支払われる旨定められていることが多く、整理解雇の場合は、通常、支払われる旨定められています。
これに対して、懲戒解雇の場合、就業規則等の会社規則で「退職金を支給しない」旨定められていることが多いです。ただし、会社規則に「懲戒解雇された労働者に対しては退職金を支給しない」旨の定めが存在しない場合には、判例上、会社は退職金請求を拒否できないと解されています(最高裁第一小法廷1970年6月4日付判決)。
会社が労働者を解雇する場合、原則として解雇日の30日以上前に予告するか、予告をしない場合は30日分の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払わなければなりません(労働基準法第20条)。
ただし、労基法第20条但書の「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」は、労働基準監督署の「解雇予告除外認定許可」を受ければ、解雇予告・予告手当支払いなしで解雇が認められます(同条但書・第2項・第19条2項)。
従って、懲戒解雇の場合は、解雇予告除外認定許可を受けた上で解雇予告手当を支払うことなく即時解雇が認められることになります(逆に言えば、懲戒解雇の場合であっても、労基署の解雇予告除外認定許可を受けていないのに解雇予告手当を支払うことなく即時解雇することは認められません)。
懲戒解雇と他の解雇の共通点・相違点をまとめると以下の表のようになります。
| 退職金支払いの有無 | 即時解雇の可否 | 失業保険の受給資格 | |
| 懲戒解雇 | 就業規則・賞罰規程等の会社が定める規定による(「支払わない」旨定められていることが多い) | 労基署の解雇予告除外認定を受けた場合解雇予告手当なしで解雇できる | 重責解雇(雇用保険法第23条2項)にあたらない場合は会社都合退職扱い重責解雇にあたる場合は自己都合退職扱い |
| 普通解雇 | 就業規則・賞罰規程等の会社が定める規定による(「支払われる」旨定められていることが多い) | 原則として解雇予告手当を支払わなければ認められない | 原則として会社都合退職扱い |
| 整理解雇 | 支払われる | 認められない | 会社都合退職扱い |
懲戒解雇は労働者に対して重大な不利益を課す処分であることから、裁判では懲戒解雇が認められるためには以下の条件を満たすかどうか判断しています。
まず、就業規則に懲戒解雇に関する規定が存在し、その規定で懲戒解雇事由が列挙されていなければ、懲戒解雇処分を科すことは認められません。
事業所の従業員の数が「常時10人に満たない場合」は、就業規則を作成して労基署に提出する義務がありません(労基法第89条)。従って、従業員数(有期雇用含む)が常時9人以下の会社は就業規則の作成義務がない一方、就業規則を定めていない会社では従業員を懲戒解雇することは認められません。
会社が就業規則を定めた場合は、労働基準監督署に届け出た上で、以下のいずれかの方法によって労働者に周知しなければなりません(労基法第106条1項、同法施行規則第52条の2)。
就業規則に懲戒解雇事由の規定が存在しても、その就業規則が上記の方法で周知されていなかった場合、その状況で行われた懲戒解雇は「効力を発生していない就業規則に基づく解雇」として無効となります。これは、就業規則を改正した場合も同様です。懲戒解雇事由の規定の部分の変更がなかったとしても、改正後の就業規則について労働者への周知がなされていなかったと判断されれば、その状況で行われた懲戒解雇は無効となります(最高裁第二小法廷2003年10月10日付判決:次章参照)。
懲戒解雇事由については、個別具体的に示す必要まではありません。ただし、懲戒解雇は企業による刑罰の側面があることから、判例上も、懲戒解雇事由は限定列挙、つまり列挙されている事由以外の事由で懲戒解雇されることはないと解されています。そのため、普通解雇の場合は違法にならない「その他前各号に準ずる場合」のような包括的文言をおくことはできません。
就業規則に懲戒解雇事由の規定が存在することに加えて、当該労働者の行為が、列挙された懲戒解雇事由の1つ以上に該当していなければなりません。
労働者の行為が就業規則の懲戒解雇事由に該当するとしても、客観的合理的理由と社会的相当性が認められなければ、懲戒解雇は解雇権濫用として無効になります(労働契約法第16条)。この合理性・相当性の具体的な判断基準として、手続上の相当性と、解雇理由の合理性・相当性が挙げられます。
ただし、労働基準法第20条1項但書に基づいて労働基準監督署が定める「労働者の責めに帰すべき理由」に基づいて解雇する場合は、解雇予告または解雇予告手当の支払義務はありません。
懲戒解雇に限らず、会社が労働者に対して懲戒処分を行う場合は、当該労働者に対して弁明の機会を与える必要があります。「弁明の機会を与える」とは、懲戒処分に先立って、懲戒対象の労働者から問題行動に至った理由や動機、その行動に対する現時点での反省の意向等を聞く機会を設けることをいいます。
懲戒解雇は、労働者に対して重大な不利益を科す処分です。そのため、解雇理由の合理性・相当性は、次のような観点から判断する必要があります。
懲戒解雇処分に相当する理由については、会社の事業場ごとに就業規則で定めなければなりません。ただし、一般的には、労働基準監督署の解雇予告除外認定要件に定められた「労働者の責めに帰すべき事由」に提示されていることが該当します。もっとも、解雇予告除外認定は、「解雇予告なしで、または解雇予告手当の支払いをせずに懲戒解雇する」ことが認められるための要件であるため、有効な懲戒解雇であっても、解雇予告除外認定を受けられない場合があります。
まず、解雇予告除外認定要件に準じる解雇理由として、以下が挙げられます。
その他の解雇理由としては「正当な理由なく業務命令に従わない場合」が挙げられます。会社には、労働契約に基づいて労働者に対して業務遂行のために指示命令する権利(業務命令権)があります。一般的に、以下のような指示や命令が業務命令権に含まれると解されています。
正当な理由なき業務命令違反を懲戒解雇理由とすること自体は相当性があるといえます。ただし、合理性・相当性を判断する上で、以下のような点が問題となります。
①業務命令違反に対しては、「正当な理由を欠く」といえることが必要です。家庭の事情を理由に残業指令や休日出勤指令を拒否した場合等は、労働者側の事情を考慮する必要があります。また、正当な理由がない場合であっても、軽微な違反に対しては、より軽い処分のみ認められます。例えば健康診断を受診しなかった場合等は、まず口頭や文書による注意を行うことが相当です。
②また、以下のような場合は、業務命令自体が適法・適正なものとはいえないため、業務命令違反を理由とする懲戒解雇は違法と判断される可能性が高いでしょう。
この理由は解雇予告除外認定要件に含まれていないため、即時解雇することはできません。
ここでは、懲戒解雇の有効性が争われた裁判例をご紹介します。
労働者が深夜酒に酔って他人の家に侵入し、住居侵入罪で罰金刑を科されたために会社が行った懲戒解雇処分の効力が争われたケースです。
タイヤ製造を業とするY社の工場作業員として勤務していたXは、勤務時間外の深夜に酩酊した状態で民家に侵入したため逮捕され、住居侵入罪で罰金2,500円(1965年当時)を科されました。社内でその噂が広まり、Y社はXの行為が同社従業員賞罰規則の懲戒事由の1つである「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した」に該当するとして、Xを懲戒解雇しました。Xは、解雇無効と従業員の地位確認を求めて提訴しました。
第一審、控訴審ともにXの請求を認容したため、Y社が上告しました。
最高裁は、以下の理由で「Xの行為は当該懲戒解雇事由に該当しない」と判断し、上告を棄却しました。
Xがその責任を問われた事由は、Xが1965年8月1日午後11時20分頃他人の居宅にゆえなく入り込み、これがため住居侵入罪として処罰されるに至ったことにあるが、右犯行時刻その他の態様によれば、それは恥ずべき性質の事柄であって、当時Y社において企業運営の刷新を図るため、従業員に対し職場諸規則の厳守、信賞必罰の趣旨を強調していた際であるにもかかわらず、かような犯行が行われ、Xの逮捕の事実が数日のうちに噂となって広まったことをあわせ考えると、Y社がXの責任を軽視できないとして懲戒解雇の措置に出たことに、無理からぬ点がないではない。
しかし、翻って、右賞罰規則の規定の趣旨に照らして考えるに、Xの行為は、会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行われたものであること、Xの受けた刑罰が罰金2,500円の程度にとどまったこと、Y社におけるXの職務上の地位も蒸熱作業担当の行員ということで指導的なものでないことなどを勘案すれば、Xの行為が、Y社の体面を著しく汚したとまで評価するには当たらないというほかない。
(判決理由ここまで)
本件では、労働者の行為が「私生活上の行為であったこと」「科された刑罰が罰金刑に留まること」及び「会社で指導的な地位になかったこと」から判断して、「会社の体面を著しく汚した」という就業規則の懲戒解雇事由にあたらないと判断したものです。このことから、従業員が犯罪行為を行った場合、その態様や刑罰の程度、社内での地位次第では懲戒解雇が有効と認められる余地があるといえるでしょう。
会社が就業規則を改正して労働基準監督署に届け出た直後、事業所に備え付けられていなかった状況で行われた懲戒解雇の有効性が争われたケースです。
化学プラント・産業機械プラントの設計、施行を業とするY社に1993年2月入社した原告Xは、門真市に開設された設計請負センター(以下「Zセンター」)で設計業務に従事していました。Y社は、1986年に作成・届出を行った就業規則を変更し、1994年4月1日から実施することとして労働者代表の同意を得た上で6月8日に労働基準監督署に届出を行いました。同就業規則には、所定の事由があった場合に懲戒解雇が可能である旨の記載がありました。
Y社は、Xが1993年9月から1994年5月30日までの間、得意先の担当者とトラブルを発生させたり、上司の指示に従わず反抗的態度をとり、暴言を吐く等職場の秩序を乱したとして同年6月15日、Xを懲戒解雇しました。一方、Xが解雇前にZセンターに適用される就業規則について質問した際、当該就業規則はZセンターに備え付けられていませんでした。
Xは懲戒解雇の無効及び従業員の地位確認等を求めて大阪地裁に提訴しました。
第一審、控訴審ともに懲戒解雇を有効としてXの請求を棄却したため、Xが上告しました。
最高裁は、以下の理由により、就業規則の効力を認めた控訴審の判断を「是認できない」として、原審を破棄差戻しました。
使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する(最高裁第三小法廷1974年10月30日付判決)。そして、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生じるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていることを要するものというべきである。
原審は、Y社が、労働者代表の同意を得て旧就業規則を制定し、これを大阪西労働基準監督署長に届け出た事実を確定したのみで、その内容をセンター勤務の労働者に周知させる手続きが採られていることを認定しないまま、旧就業規則に法的規範としての効力を肯定し、本件懲戒解雇が有効であると判断している。原審のこの判断には、審理不尽の結果、法令の適用を誤った違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
そこで、原判決を破棄し、上記の点等についてさらに審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
(判決理由ここまで)
本件では、改正された就業規則が原告労働者の所属する事業場に備え付けられていなかった状況で懲戒解雇が行われたことにつき、有効要件の1つである「懲戒解雇事由を定めた就業規則が労働者に周知されていること」を満たすか否かが問題となりました。原審が、改正される前の旧就業規則が効力を持つとして懲戒解雇を有効としたのに対して、最高裁判所はこの判断を「法令の適用の誤り」としました。この判決は、就業規則を改正した場合は、懲戒解雇事由を定めた規定の変更の有無にかかわらず、改正後の就業規則を労働基準法施行規則第52条の2所定の方法で周知していなければ、懲戒解雇が認められないと判断した点で、懲戒解雇の有効要件の解釈の一つの指針となるといえます。
老人ホームの運営者が、従業員の怠業等を理由とする懲戒解雇処分や訓告・減給処分等の処分を行った事実を施設入口に張り紙をして公表した行為に対して、懲戒解雇等の懲戒処分の前提となる事実の存否、及び公表行為に対する不法行為(名誉棄損)の成否が争われたケースです。
原告X1~X6は、特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人Y(以下「Y法人」)の従業員で、それぞれ以下の時期・職種で採用されました。2001年2月当時、入所者は50名(うち、より重度の要介護4・5の者22名)、及び職員として介護員18名、看護師2名、非常勤看護師1名が勤務していました。入所者には認知症患者や薬の嚥下に注意を要する者が多く、これらの入所者の薬の服用にあたっては介助を要し、薬は食事前に与薬されていました。ただし、甲事件当時、勤務していた看護師は訴外Zの1名のみでした。
X1~X3:甲事件原告
X1 1991年10月 寮母(現介護員)
X2 1991年4月 同
X3 1991年9月 同
X4~X6:乙事件原告
X4 1986年4月 生活指導員、介護長
X5 1990年10月 介助員、介護保険認定審査委員会委員
X6 1995年4月 寮父(現介護員)、副介護長
①甲事件(与薬拒否を理由とする懲戒解雇)
2001年2月7日昼食は特別行事食で、通常より早く食事が始まるため与薬も早めに始めることになっていたが、X1・X2・X3が共謀して同日昼食前及び翌8日昼食前の与薬を拒否したことを理由として、Y法人はX1・X2・X3を懲戒解雇しました。なお、X1・X2・X3に対しては、Yが懲戒解雇事由に含めていながら裁判で主張・立証していない以下の事実がありました。
②乙事件(与薬拒否への加担を理由とする減棒・訓告処分)
Y法人からX4・X5・X6に交付された辞令には、「X4らは上記甲事件原告の与薬拒否に対して指導的かつ管理上の役割を果たさず、それを是認して介護現場に大きな混乱を巻き起こしたため、文書による訓告と3か月間の減給処分に処する」旨記載されていました。
③丙事件(甲事件・乙事件での懲戒処分の公開)
Y法人は、以下の内容の張り紙を施設の入り口に張り出して施設内に周知しました。
「2001年7月17日付で、X1・X2・X3に対して、与薬拒否の就業規則違反行為、不当介護行為、老人虐待等へのクレーム、町当局への匿名の投書という園に対する名誉棄損事件につき、懲戒委員会及び社会福祉法による第三者委員会の議を経て懲戒解雇処分に処する。また与薬拒否に加担したX4・X5・X6は減棒3か月及び訓告処分となったため、その役職を同年7月19日付をもって任を解いた旨、その辞令を公開する」
これに対して、X1・X2・X3は与薬拒否の事実を否定し、解雇無効を主張しました。また、X4・X5・X6は与薬拒否への加担の事実を否定し、訓告処分及び減給処分の無効を主張しました。さらにX1~X6は、Y法人の一連の行為により原告らの人格や名誉を著しく傷つけられたとして、Y法人に対して原告1人につき慰謝料100万円の支払を請求しました。
札幌地裁は、以下の理由により原告全員の解雇を無効として、期末手当・寒冷地手当等を含むバックペイ及び、原告1人につき慰謝料100万円の支払を命じました。
施設入所者に対する与薬は、従来介護員が行っていたが、介護員から、与薬を看護師が行うほうが良いとの意見が出され、その調整が行われていた。これについてY法人は「与薬業務は介護員の職責である」と主張するが、他方で与薬が入所者に対する身体、健康の維持の上で重要なものであるとの認識も示している。また、Z看護師も「本来看護師が行うべきもの」と証言している。これらに鑑みれば、介護員と看護師の間で役割分担について調整する事項にあたる。
そして、Z看護師が2001年2月7日昼食前「私がやるからいいよ」と言って与薬を始めた場合、介護員がZ看護師に与薬業務を委ねたことをもって、直ちに与薬拒否、ひいては不当な怠業ということはできない。
以上より、同日の与薬についても、原告らの与薬拒否があったという実態にはなかったと認められる。
そもそも本件懲戒解雇は、その理由として本件与薬拒否とともに、X1・X2・X3が利用者の骨折事故について当別町に匿名の投書をしたこと、及び施設内の「目安箱」にX1・X2・X3に対する苦情が多く寄せられていることを列挙する。しかし本件(裁判)では、Y法人は与薬拒否のみを主張し、それ以外の事由の主張も立証もない。そのこと自体本件懲戒解雇処分に疑問を持たざるを得ず、また本件与薬拒否についても、2月8日の与薬拒否は全くこれを認めるに足りる証拠がない。
このことから、本件処分は、Y法人が調査や証拠の厳密な精査もないまま推測を重ねて行った上でなされたと考えられる。その上、2月7日の与薬についてもこれを認めるに足りる証拠はないから、本件処分はY法人の懲戒権ないし制裁処分権の濫用というほかはなく、いずれも無効である。
Y法人は、懲戒解雇が認められない場合に備えて通常解雇を主張するが、X1らには本件処分の前提となった制裁事由自体が認められないのであるから、通常解雇事由にも該当しない。
就業規則によると、訓告処分は制裁と位置付けられている。よって、乙事件の原告X4・X5・X6が、将来にわたり「かつてY法人から制裁を受けたことがある者」として何らかの不利益な扱いを受けるであろうことは容易に想定できるから、本件訓告処分の無効確認をする利益は認められる。
本件処分は制裁事由が認められないのであるから、本件張り紙の内容は虚偽である。本件張り紙は、施設内の誰でも見ることができる状態で掲示され、Y法人は本件処分事由の事実関係について、さらに調査し、あるいは証拠を精査すれば、上記のような張り紙をすることはなかったから、少なくとも過失が認められる。本件張り紙の記載内容を客観的に通常人の観点から見れば、X1~X6が不当な行為に及んで制裁処分を受けたというものであり、X1~X6の名誉を侵害していることは明らかである。
これに対して、Y法人代表理事Aは「X1・X2・X3が辞令の受領を拒否したことから告示し、X4・X5・X6はいったん事例を受領しながら返上したことから告示した」「X1・X2・X3の与薬拒否は入所者に対する虐待であるから、規律維持、秩序保全の観点から本件張り紙をした」と陳述する。
しかし、辞令の受領を拒否したというのであれば、本件処分を掲示すれば足りることであり、本件張り紙までする必要はないし、本件張り紙の内容が虚偽である以上、原告らの名誉を棄損することは明らかである。かえって、X1~X6が処分に納得できず、組織していた労働組合を通じて2001年7月17日に団体交渉をして解決したいと申し入れたところ、翌18日に本件張り紙が掲示されたことからして、本件張り紙は労働組合に対する牽制のための側面も有するものと考えられる。
以上を前提にすると、Y法人代表理事A及びY法人には、不法行為責任が認められる。X1~X6の名誉を棄損したことに対する慰謝料は各自50万円が相当である。
(判決理由ここまで)
解雇が無効と判断され、バックペイの支払いが認められる場合、不当解雇に対する慰謝料請求が認められるケースは多いとは言えません。しかしこの事件では、使用者側が、虚偽の事実に基づいて懲戒解雇等の懲戒処分を行い、さらに懲戒処分を公表したことに対して名誉棄損(民法第723条)が成立し、この名誉棄損行為に対する慰謝料請求が認められることとなりました。
懲戒処分の社外公表に対しては、企業秩序の回復を図り、同種行為の再発を防止する観点から、一定の必要性が認められます。従って、懲戒解雇処分を社外公表すること自体が直ちに名誉棄損、プライバシー侵害にあたるとして不法行為となる、つまり慰謝料請求できるとはいえません。しかし、この事件のように、懲戒解雇自体が根拠に欠ける不当解雇であった場合は明らかに名誉棄損に該当するといえるでしょう。
懲戒解雇そのものが有効と判断された一方で、処分の社外公表が名誉棄損にあたるとして慰謝料請求が認められたケースとして、エスエイピージャパン事件(東京地裁2002年9月3日付判決)等があります。
懲戒解雇を告げられた場合は、以下の対処を行うことをおすすめします。
まず、会社に対して解雇理由証明書の発行を請求してください。解雇理由請求書は、解雇理由を具体的に記載した書類です。会社は、労働者が発行を請求した場合には、遅滞なく発行しなければなりません(労基法第22条2項)。「遅滞なく」の期間について明文の定めはありませんが、2週間以内と解されています。
解雇理由証明書の発行を受けたら、記載された解雇理由を確認しましょう。もし、解雇理由に該当する行動を起こした原因に会社による違法行為があったとすれば、不当解雇にあたる可能性があります。例えば、解雇理由証明書に記載された解雇理由が「長期の無断欠勤」であった場合、実際にはその従業員が上司からの長期にわたるパワハラでうつ病になり、会社に戻りたくないので退職代行業者を使って退職しようとしたら、欠勤した期間を無断欠勤扱いされてしまったとします。この場合には上司のパワハラがあった事実を証拠とともに主張すれば、解雇が無効になる可能性があります。
従って、会社側に違法な行為があった場合は、弁明の機会に事情を説明してください。その上で、その後の対処について弁護士に相談することをおすすめします。
前述のように、懲戒解雇の場合は、個別に会社が労働基準監督署の解雇予告除外認定を受けた場合に限り、解雇予告手当を支払うことなく即時解雇が認められます。従って、もし解雇予告及び予告手当の支払いなしで即時解雇する旨の通知を受けた場合は、自身の解雇について解雇予告除外認定を受けているか否かを問い合わせてください。
解雇理由証明書の発行を受けた場合でも、以下のような場合は適正手続を経ていない不当解雇にあたります。
従って、解雇理由証明書の発行を受けたら、すぐに就業規則や労働契約書及び、賞罰規程が別途作成されている場合は賞罰規程を確認してください。
懲戒解雇処分を受けた場合、労働者側で納得できない理由があるとすれば、不当解雇または解雇以外で会社の不法行為があった可能性があります。また、労働者自身は「仕方ない」と思ったとしても、会社側で何らかの違法行為が行われていた可能性も否定できません。
懲戒解雇処分を受けた場合は、決してそのままにせず、必ず弁護士にご相談ください。弁護士と他の相談機関との違いは、「すべての法的手続で労働者を代理して、労働者の立場で権利を行使できる」ことにあります。
懲戒解雇の対処について弁護士に相談する具体的なメリットについては、次章をご参照ください。
会社を懲戒解雇されてしまった場合、気が動転して何も考えられなくなってしまうかもしれません。しかし、懲戒解雇の有効性に対しては、裁判でも厳格に判断されています。不当解雇にあたる可能性や、解雇自体が有効であっても、処分の公表等の名誉棄損行為等で損害賠償請求や慰謝料請求ができる可能性もあります。懲戒解雇された場合、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。
懲戒解雇の対処について、弁護士に相談することには以下のようなメリットがあります。
懲戒解雇されるまでの経緯について詳しく話すことで、過去の判例や弁護士自身の交渉経験等に基づいて、解雇が適法か、不当解雇の可能性があるか、会社に対してどのような請求ができるかを的確に判断してもらうことができます。
解雇に対して納得できない点があっても、労働者が単独で会社と交渉して請求を認めてもらうことは困難です。労働組合のある会社では組合に交渉を依頼することも可能ですが、これに対しては会社側が組合対応の経験が豊富な弁護士を立ててくるでしょう。弁護士に依頼することにより、会社と対等な立場で交渉することができます。また、交渉に必要な証拠の収集方法についてもアドバイスを受けられます。証拠となる資料を会社側が持っている場合は、弁護士による開示請求が可能です。
会社との交渉がまとまらなかった場合、労働審判申立てや訴訟等の法的手続をすべて任せることができます。
弁護士に相談すると費用がかかりますが、ウカイ&パートナーズ法律事務所では初回30分無料相談を受け付けています。無料相談の範囲内で、解雇の適法性や可能な請求についての判断と対処についての説明を受けられるでしょう。相談したうえで、弁護士に依頼するか検討しましょう。
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懲戒解雇処分を受けた場合、解雇に至った直接の原因は労働者側の行動にあったといえます。しかし、その行動に至った背景には、サービス残業や家庭の事情を無視した業務命令、過大な要求等のパワハラ行為等、会社側の違法・不正な行為が存在することも少なくありません。また、労基署の解雇予告除外認定を受けずに即時解雇された、弁明の機会を与えられなかった等の手続要件違反の可能性もあります。
そこで、もし懲戒解雇の通知を受けたら、すぐに会社に対して解雇理由証明書を請求するとともに、対処について弁護士に相談することをおすすめします。
ウカイ&パートナーズ法律事務所では、所属する全弁護士が、解雇の有効性や、未払い賃金・慰謝料等の請求が可能か否かを検討・判断した上で、とりうる対処法について懇切丁寧にお答えします。当事務所では、初回30分無料で法律相談をお受けしています。懲戒解雇されて対処にお困りの方は、ぜひ当事務所の無料法律相談をお申込みください。
