
「外資系企業で退職勧奨されてしまったので、転職を考えています。ただ、すぐに退職してしまうと、転職で条件が悪くなりそうなのですが、退職勧奨を拒否して退職までの時間稼ぎをするしかないでしょうか?」
このように、我々弁護士は、外資系企業で退職勧奨された方から、転職に不利にならないために会社の在籍期間を延ばすことができないかという相談を頂くことが多くなっています。外資系企業が設けている退職パッケージの中には、有給で労働を免除する「ガーデンリーブ」と呼ばれる休暇制度があります。ガーデンリーブを上手く活用することで、転職までに有給で在籍期間を延長できます。ただし、会社が退職勧奨時にガーデンリーブを提示しなかった場合、取得のために会社と交渉する必要があります。
本記事では、外資系企業のガーデンリーブについて、以下の点を中心に弁護士が解説します。
ガーデンリーブ(またはガーデニングリーブ)とは、会社が退職する従業員に対して、就労を免除した上で給与を支給する期間を与えることをいいます。法律に基づく制度ではありませんが、特に外資系企業で広く導入され、退職勧奨の際に提示する退職条件に含まれていることもあります。
ガーデンリーブは、退職勧奨の際に会社が提示する退職合意書に記載された条件に最初から含まれている場合と、弁護士が交渉によって取得する場合があります。
退職合意書に「最終出勤日4月30日・退職日6月30日」と記載されている場合、最終出勤日翌日の5月1日から退職日の6月30日までは、ガーデンリーブとして給与が支給され出勤が免除されるという意味です。なお、給与が不支給(無給)で退職日だけを延ばす場合もあります。これは、転職のために在籍期間を延ばす目的であったり、在籍期間が極端に短いと履歴書の見栄えが悪くなるために退職日を後ろにずらす目的で定められた条件となります。
ガーデンリーブは、もともとは外資系投資銀行等で、以下のような従業員に対して、機密情報保護や競合他社への転職を防ぐために適用されることが多かった制度です。
ただし、現在は外資系企業でリストラの一環として、退職を促すためのパッケージの一部として提示するケースが増え、対象となる従業員の職種も拡大しています。
ガーデンリーブは、企業側からみれば労働者に給料だけ支払って労務を免除するため、給与分の損失を被ることになります。それでも多くの外資系企業がガーデンリーブを設けるのは、以下のような目的があるためです。
ガーデンリーブは、もともとは高度なスキルを持ち、会社の機密情報にアクセスできる従業員が、退職して競合他社に移籍する可能性が高い場合に、最新技術の流出を防ぐ目的で設けられていた制度です。数か月間のブランクによって技術やノウハウを陳腐化させることにより、企業情報を保護するとともに、人材流出に備えた対応をすることができます。また、ガーデンリーブ制度があることで、人材の流出に対する抑止効果も期待できます。
また、特に解雇規制の厳しい日本では、訴訟等のトラブルを避けるために、会社側からみて退職してほしい従業員に有給で労働を免除する期間を与えて転職活動に利用してもらうことで自主的な退職を促すためにガーデンリーブを提示する場合があります。
ガーデンリーブは上記のような目的で与えられることから、労働者側からみるとメリット・デメリットがあります。以下、それぞれ見ていきましょう。
労働者にとってガーデンリーブの一番のメリットは、キャリアにブランクが生じないことといえるでしょう。外資系企業では1つの会社での勤続年数が短いことが一般的ですが、入社1年未満等、あまり短い期間で退職すると転職先が見つかりにくくなることは否定できません。ガーデンリーブによって在籍期間を延長することで、ブランクなしに転職活動を進めることができます。また、ガーデンリーブ期間後の競業避止義務を課されない場合は、転職や起業を自由に行うことができます。
ガーデンリーブを取ることで、資格取得講座を受講する等のスキルアップも可能になります。
一方、労働者からみると、ガーデンリーブを与えられることにより、以下のような不利益を受ける可能性があります。
現代の高度情報化社会において、業務レベルで必要となる技能は目まぐるしく変化します。企業内情報にアクセスできない期間が2、3か月程度であっても、前職で得たスキルや経験に価値がなくなってしまう可能性があります。
ガーデンリーブが付与された場合、期間中の給与が支払われる代わりに、退職パッケージに含まれる特別退職金を減額される可能性があります。外資系企業は、特別退職金とガーデンリーブ期間中の給与を合計して「賃金何か月分」と設定していることが多いです。そのため、たとえば3か月間のガーデンリーブを付与された場合は3か月分の給与相当額が差し引かれることになります。
もっとも、ガーデンリーブが付与されない場合に転職が不利になるデメリットを考えると、特別退職金が減額されるとしても、3か月程度のガーデンリーブがあるほうがメリットが大きいといえるでしょう。なお、特別退職金については、交渉次第で増額あるいは減額幅を少なくできる可能性もあります。
次章で述べるように、ガーデンリーブ期間中に支給される給与からは、それまでの給与と同様、給与所得としての所得税や社会保険料が差し引かれます。特別退職金の場合は退職所得として扱われるため、所得税率は給与所得よりも低く、また社会保険料は控除されません。このため、特別退職金を受給する場合に比べて、手取り金額が少なくなります。また、失業保険給付を受けられないこともデメリットといえます。
会社が退職勧奨を行う場合、本社から目標達成期限つきで人員削減命令が出ていることがしばしばあります。そのため、最初から転職に必要な期間のガーデンリーブを付与してくれることは稀です。ガーデンリーブの提示がなかったり、1ー2ヶ月程度の提示であることが多いため、労働者側が必要とする期間のガーデンリーブを取得するためには会社と交渉する必要があります。ここで、ガーデンリーブの条件交渉の方法をご紹介していきます。
退職勧奨された場合、「この会社に在籍し続けたい」という理由以外に合理的な理由がなかったとしても、退職に応じる必要はありません。そして、「この会社に在籍し続けたい」と考える理由として、給料等の条件の良さや業務に対するモチベーション、職場環境等の積極的な理由以外に「転職するにはまだ在籍期間が短すぎて良いオファーが得られない」「転職活動に半年程度必要になる」等の、キャリアに対する不安を表示することも問題ありません。そのような不安を表示した上で、「キャリア上の補償がなされること」を退職条件とすることも可能です。
キャリア上の補償の1つとして、転職活動に必要と考えられる期間のガーデンリーブ付与を要求することになります。
ガーデンリーブは、法律上の制度ではない点で労働基準法第39条に基づく(年次)有給休暇と異なりますが、「働かずに給料をもらえる期間」である点では有給休暇と同じと言えます。退職勧奨された時点で未消化の有給休暇がある場合、その日数をガーデンリーブに加算してもらうよう交渉してみましょう。
外資系企業は、特別退職金とガーデンリーブ期間中の給与の合計額を「賃金何か月分」と設定していることがよくあります。このため、合計額が変わらなければ、特別退職金の一部をガーデンリーブに割り当てることに対しても応じる可能性が高いです。この場合、割り当てた給与相当の日数分ガーデンリーブを延長してもらうことになります。
ただし、労働者からみると、特別退職金を支給された場合とガーデンリーブを付与された場合では、以下の点で条件が異なることに注意が必要です。「失業保険給付なしで給料から税金や社会保険を差し引かれるとしても、ガーデンリーブのメリットが上回る」といえるかを考える必要があるでしょう。
| 特別退職金 | ガーデンリーブ | |
| 所得税控除 | 退職所得となるため税率が低い | 給与所得となるため特別退職金に比べて税率が高い |
| 社会保険料控除 | なし | あり |
| 失業保険給付 | 受けられる | 受けられない |
また、ガーデンリーブの付与や期間について交渉する際には、期間中に転職先が決まった場合の取扱いの調整について、退職合意書への記載を求める必要があります。ガーデンリーブ期間中に転職が決まった場合、残りの待期期間が長いとスキルの陳腐化等のリスクがあります。
労働者としては、次のような条件を申し出て交渉するのが得策と考えられます。
なお、雇用保険法の改正により、自己都合退職で失業保険の支給制限期間が従前の2か月から1か月に短縮されたため、自己都合退職によるデメリットがより少なくなっています。
ガーデンリーブ期間中は、在籍する会社での労働は免除されますが、会社との雇用契約は継続しているため、以下のような義務が課される可能性があります。
まず、会社からメール等の連絡が来た場合の返信や、業務引継ぎのための出勤日を設ける等の条項が規定される場合があります。連絡や出勤に関する義務については、会社とのトラブルを避けるためにも事前に確認しておきましょう。
退職後の競業避止義務については、憲法第22条1項で補償された営業の自由を侵害するおそれがあるため、判例上有効性が厳格に判断されています。ガーデンリーブの期間中の競業避止義務については、退職前としてもあくまで在籍期間中であることから、営業権侵害の主張は難しいでしょう。ただし、競合他社や類似の業務での就労を除く副業については、就業規則等で禁止されていない限り認められる可能性があります。
外資系企業で退職勧奨が行われるときは、ある日突然zoom等のオンラインミーティングで退職合意書へのサインを要求するといった、労働者を心理的に圧迫する方法によるのが一般的です。しかし、圧力をかけられても退職に応じる義務はありません。「退職条件について検討したい」として回答を保留し、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。外資系企業の退職パッケージ交渉について弁護士に相談することには、次のようなメリットがあります。
まず、退職勧奨が強圧的なやり方で行われ、労働者側も退職に同意できない場合は、違法な退職強要にあたるか否かを弁護士に判断してもらうことができます。
退職に合意する場合も、パッケージで提示された特別退職金の金額に納得できない場合や、未払いの残業代がある場合は増額を要求できます。しかし、労働者本人が増額交渉することは容易ではありません。弁護士が代理人として交渉することで、会社と対等に交渉し、正確に算定した残業代等の加算を含めて増額できる可能性があります。
上記のように、パッケージにガーデンリーブが含まれていなかったり、提示された期間が労働者にとって短すぎる場合は、ガーデンリーブ付与や期間延長等の条件交渉ができます。この場合も、会社側は人員削減目標を達成する必要があること等から、労働者側の主張する条件に同意してくれない可能性があります。また、退職後の競業避止義務を含む退職合意書に署名すると、転職の選択肢が制限されてしまいます。
退職勧奨を受けた際に弁護士に相談することで、ガーデンリーブ付与、期間延長、競業避止義務条項の削除要請等の要求を通してもらえる可能性が高まります。
ガーデンリーブは、もともとは企業秘密の流出防止を目的とする制度です。現在も、職種によっては退職後の競業避止義務が課されたり、退職日前の退職を禁止する等の条件を課される場合があります。また、退職パッケージとして提示された場合は、期間が短すぎる等、労働者にとって条件が不十分である可能性があります。いずれの場合も、決してすぐに退職に合意せず、弁護士にご相談ください。
ウカイ&パートナーズ法律事務所では、所属する弁護士全員が、外資系企業の退職勧奨の適法性や、ガーデンリーブが提案された場合の金額増額が可能か否かを的確に判断し、とりうる対処法について懇切丁寧にお答えします。当所では、初回30分無料相談をお受けしています。外資系企業で退職勧奨されて対処にお困りの方、特別退職金増額・ガーデンリーブ延長等パッケージ交渉を有利に進めたい方は、是非当所の無料相談をお申し込みください。
