
「勤め先の外資系企業で、退職合意書にサインしてほしいといわれて断ったら、自宅待機を命じられました。社用携帯やPCを取り上げられ、メールもできなくなっています。自宅待機中は、給料も出ないのではないでしょうか。しかし、このまま辞めさせられるのは理不尽です。自宅待機中の給料や退職金等の請求はできますか?」
外資系企業では、解雇通知や退職勧奨を行った際に「ロックアウト」と呼ばれる締め出し行為を行うことがあります。当法律事務所でも、外資系企業でロックアウトに遭った方から上記のような相談を頂くことが増えています。
そこで、本記事では、外資系企業で行われる「ロックアウト」について、以下の点を中心に弁護士が解説します。
ここではまず、外資系企業のロックアウトの方法や目的、適法性について解説します。
ロックアウトという言葉はもともと、労働組合が争議行為を行った際に会社が対抗手段として行っていた行為を指していました。会社が一時的にオフィスや工場を閉鎖し、労働者が働けない状態にして賃金支払いを拒否するというものです。
外資系企業が行うロックアウト(ロックアウト型解雇・ロックアウト型退職勧奨)とは、個々の労働者を退職させる手段として行われる措置です。
ロックアウトは、解雇通知後に行われる場合と、退職勧奨の一手段として行われる場合があります。両者は、従業員から貸与品を回収して会社オフィスから退出させる点では共通していますが、以後オフィスへの立入りを禁止するか否かの点で違いがあります。
ロックアウト型解雇の場合、労働者は人事担当者から面談室に呼び出され、その場で解雇通知書を渡された上、貸与PC、スマホ、セキュリティカード、ロッカー等の鍵類を置いていくように言われます。ここまでは通常の解雇と変わらないのですが、通常の解雇では口頭で解雇理由の説明があることが多いほか、即時にオフィスからの退去を要請されることはなく、同僚等への退社挨拶の時間が与えられます。これに対してロックアウト型解雇の場合、解雇理由の説明は行われず、即時にオフィスからの退去を命じられます。会社によっては、不当解雇を争われたり会社都合退職者が出ることを避けるため、ロックアウト型解雇の形式をとりつつ「自主退職を申し出れば自己都合退職扱いとして、退職金を支払う」等と言い渡すこともあります。
ロックアウト型退職勧奨は、自宅待機命令とも呼ばれます。労働者は人事担当者から面談室に呼び出され、「あなたを雇用し続けることが難しくなったので、この退職合意書にサインしてほしい」旨伝えられます。退職合意書にサインした場合はその場で退職扱いになります。しかし、拒否した場合は自宅待機を命じられ、貸与品をオフィスに置いていくように言われる他、メール・チャット等の社内ネットワークへのアクセス権をはく奪されます。
その後、1週間程度の頻度で電話で面談のための出社を命じられ、退職の意思や転職活動の状況についての確認を繰り返されることになります。退職を拒否し続けていると解雇されることもあります。
ロックアウトの目的として、主に以下が挙げられます。
ロックアウトによって従業員を会社から遮断し、孤立させることによって会社でのその後の処遇に対する不安を抱かせ、自主的な退職へと追い込む目的があります。
解雇や退職勧奨による退職は、雇用保険法上会社都合退職となります。一方、転職先を決めた上での自主退職は、自己都合退職扱いにすることができます。出社を禁じることで、転職の意思を持たせ、転職活動をしてもらうことで自己都合退職へと誘導するという目的もあります。
労働契約法第16条は、解雇が客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠く場合は解雇権の濫用として無効となると定めています。ロックアウト型解雇は、解雇権の濫用にあたらないでしょうか。
ロックアウト型解雇において、ロックアウト行為自体は違法というわけではありません。労働者の意思に反して就労できなくされるとしても、就労は法的権利ではないからです。言い換えれば、労働者は雇用契約に基づく義務(債務)として就労する立場にあり、権利(債権)として認められるのは、就労という債務を履行することの対価である「賃金支払請求」になります。
ロックアウトは、見方を変えれば会社が就労義務を免除したといえます。これによって賃金の支払義務がなくなるか否かの問題は別として、「就労する権利を侵害した」と考えることはできないためです。
ロックアウト型解雇が違法になるのは、主に解雇自体が法令違反または解雇権濫用により不法行為(民法第709条)にあたる場合です。解雇権濫用の場合について、判例は、「解雇が民法第709条の『他人の権利または法律上保護される利益を侵害する』行為に該当するためには、労働契約法第16条に違反するだけでなく、その趣旨・目的、手段・態様等に照らし、著しく社会的相当性に欠けるものであること」が必要と判断しています(三枝商事事件:東京地裁2011年11月25日付判決)。従って、解雇の違法性を判断する上で、解雇の手段態様が考慮されることになります。
ロックアウト型解雇では、ロックアウトの際の会社側の態度や行動によっては、違法性を肯定する方向に判断されやすい事情となるでしょう。
退職勧奨は、自発的な退職を促す行為である限り適法とされます。それでは、ロックアウト型退職勧奨は適法といえるでしょうか。
ロックアウト型退職勧奨は、解雇の場合と同様の理由で、原則としては適法です。
以下の場合には、ロックアウト型退職勧奨は違法(不法行為)となります。
まず、退職勧奨が「退職強要」にあたる場合には違法となります。判例は、「自発的な退職意思の形成を慫慂(しょうよう:促す)する限度を超え、心理的圧力を加えて退職を強要したといえる場合には違法となる」と判断しています(下関商業高校事件:広島高裁1977年1月24日付判決)。
厚生労働省が定義する「職場におけるパワーハラスメントの6類型」※の3番目に「人間関係からの切り離し」があります。厚労省の告示では、人間関係からの切り離しに該当する行為として、以下が挙げられています。
※令和2年(2020年)厚生労働省告示第5号
ロックアウト型退職勧奨では自宅待機命令とともに会社のネットワークにアクセスできない状態にするため、上記の該当例にあたる可能性があります。
ロックアウトされた従業員は出社を禁じられる上、会社情報にもアクセスできなくなるので仕事ができなくなってしまいます。解雇の場合は、解雇が適法である限り解雇日以降の賃金支払義務がなくなるため、給与は支払われません。解雇日以降の給与の支払を請求する場合は、解雇の無効を主張して会社と交渉する必要があります。それでは、退職勧奨の場合は、ロックアウト期間の給与の支払を請求できるでしょうか。
ロックアウト型退職勧奨の場合、会社側は「業務を行っていない以上、ノーワークノーペイの原則により賃金は発生しない」等と主張して、給与支払いを拒否する可能性があります。しかし、労働者側に退職勧奨に応じる義務がない以上、会社側は労働者に業務指示を出して労働させることができる状況にあります。労働者側としては、就労の意思があることを示した上で、自宅待機期間の給与の支払いを請求できます。
また、ロックアウト行為が上記のパワハラ類型の「人間関係からの切り離し」に該当する場合は、ロックアウト行為自体の違法を主張できるので、損害賠償として自宅待機期間の給与の支払いを請求できる可能性があります。
外資系企業で解雇通知や退職勧奨とともにロックアウトされた場合、次の対処を行うことをおすすめします。
ロックアウト型解雇の場合、ロックアウト行為を含む解雇の適法性を判断する上で、解雇理由証明書の交付を受ける必要があります。労働基準法第22条1項は、「労働者が解雇理由証明書の発行を請求した場合は、会社は遅滞なく発行しなければならない」旨定めています。ロックアウト型解雇の場合も、会社は解雇理由証明書の発行を拒否することはできません。
解雇理由証明書の交付を求める前に会社から締め出されていて、アクセスを拒否されている場合には、弁護士にご相談ください。
ロックアウト型退職勧奨の場合、会社に対してできる請求は「出社させてもらうこと」及び「出社が認められない場合も自宅待機期間の給与を支払ってもらうこと」です。いずれの請求についても、会社に対して明確に業務指示を求めることが大切です。
ロックアウトは、従業員の就労意思にかかわらず事実上労務提供できなくさせる行為で、退職に追い込むために紛争も辞さない強硬な手段といえます。ロックアウトを行っている会社に対して復職を求めたり、残業代やロックアウト行為に対する慰謝料等の金銭的請求を行うためには、弁護士に相談するのが得策です。ウカイ&パートナーズ法律事務所では、外資系企業に勤務する方の労働相談として、初回30分無料の法律相談を受け付けております。外資系企業のロックアウトでお困りの方はお気軽に我々弁護士にご相談下さい。
ここでは、外資系企業のロックアウトの適法性が争われた裁判例として、日本IBM事件(東京地裁2016年3月28日付判決)をご紹介します。
米国の大手コンピュータ関連企業の子会社であるY社は、米国本社から派遣された社長が就任した2012年7月以降、従業員50名余りを解雇しました。解雇にあたり、Y社は従業員を呼び出して「業務成績が低く、改善の見込みがない」という理由で解雇を通告すると同時に、従業員を物理的に会社オフィスから追い出して立入禁止にするロックアウトを行っていました。Y社から解雇されたXら5名は、解雇無効を主張し、従業員の地位確認と解雇後の賃金支払い、及びロックアウトに対する慰謝料支払いを求めて提訴しました。
東京地裁は、以下の理由により、解雇を無効としてY社に対して解雇日以降の賃金支払いを命じました。一方、ロックアウトについては違法とは言えないとして、慰謝料請求については棄却しました。
Xらに業務成績不良であることは認められる一方、勤務評価は相対評価で3であり、最低の評価ではなかった。また、他の部門ないし部署への配置転換が困難であったとは認められない。
これらのことからすれば、Xらの執務上の対応の不適切さが、解雇を検討すべきほどまでに重大な程度に至っているとは認めがたく、今一度その適性に合った職への配置転換や、業務上の措置を講じることを検討すべきであった。よって本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、権利濫用として無効というべきである。
Y社が解雇予告をしたことにより、対立状態となった従業員が機密情報を漏洩するおそれがあり、漏洩が一旦生じると被害の回復が困難であることに鑑みると、当該措置に違法性があるとはいえない。
なお、Xら及び、既にロックアウト型解雇に遭った50名のうち34名がY社の組合員であったことから、労働組合法で禁止された「組合員であることを理由とする解雇」に該当するか否かも争点となりました。この点については、当判決は「Xらが組合に加入したのは解雇される旨の不安による」として、組合員であったことを解雇理由とするものではないと判断しました。
解雇の場合も退職勧奨の場合も、ロックアウトに遭うと会社や会社情報へのアクセスが絶たれてしまうため、労働者本人が的確に判断して行動することがより難しくなります。外資系企業でロックアウトに遭った場合は、できるだけ早く弁護士にご相談ください。外資系企業のロックアウトに対して、弁護士に相談することには以下のようなメリットがあります。
ロックアウト型解雇・退職勧奨に対して対処するためには、まずその解雇や退職勧奨が適法かどうかを的確に判断する必要があります。弁護士に相談することで、判例や業務経験に照らして、解雇や退職勧奨が適法といえるかの判断が可能です。
ロックアウトに遭った場合、会社から物理的に締め出された上、オンラインでのアクセスもできなくなっているため、精神的にもショックを受けてしまうと思います。弁護士に相談することにより、解雇・退職勧奨等の状況に応じた対処法について丁寧なアドバイスとサポートが受けられます。
ロックアウトが行われる場合、会社が強硬な手段をとるに至った原因として従業員との間で何らかのトラブルが発生していたケースが多いです。このため、労働者本人が会社と交渉してバックペイや損害賠償等の請求を認めてもらうことは非常に難しいでしょう。弁護士に相談して、交渉代理を依頼することで、会社と対等な立場で、冷静に交渉を進めることができます。
ロックアウトは、主として労働者を自主退職に追い込む目的で行われるものです。貸与品を取り上げて物理的にオフィスから追い出すという強硬な措置であるだけに、ロックアウトに遭った方は精神的にショックを受けてしまうかもしれません。しかし、そのまま何の行動も起こさずにいると、そのまま退職手続きをとられてしまいます。ロックアウトに遭った場合は、できるだけ早く弁護士にご相談ください。
ウカイ&パートナーズ法律事務所では、所属する弁護士全員が、外資系企業による解雇や退職勧奨の適法性について的確に判断し、とりうる対処法について懇切丁寧にお答えします。当法律事務所では、初回30分無料で法律相談を行っています。「解雇通知と同時に職場から締め出され、PCも没収された」「退職勧奨を拒否したら自宅待機を命じられて会社情報にアクセスできなくなった」等、外資系企業のロックアウトを伴う解雇や退職勧奨に遭って対処にお困りの方は、是非当法律事務所の無料法律相談をお申込みください。
