
「転職活動で外資系企業のA社に応募して、面接後にオファーレターが届いたので、採用が決まったと思って前の会社を辞めて、引越しも済ませました。ところが出勤開始予定日の前日に、メールでオファーレターを取消すという連絡が来たんです。会社の経営状況も良さそうなのに、なぜ取消されるのかわかりません。取消を撤回してもらうこと、あるいは引越費用等の損害賠償を請求することはできますか?」
当法律事務所では、近年このような外資系企業のオファーレターに関係する相談を頂くことが増えています。オファーレターを始め、外資系企業では契約関係の慣行が日本企業と異なる場合が多いため、双方の意思の食い違いによるトラブルが起こりやすいといえます。そこで、本記事では、外資系企業のオファーレターについて、以下の点を中心に弁護士が解説します。
オファーレターとは、企業が採用候補者との合意に基づいた労働条件提示を行う文書です。
外資系企業のオファーレターには、次のような特徴があります。
発行日から1週間以内等、期限付きで署名・返送を求められることが多いです。
期限付きの返答が求められる一方で、日本企業の雇用契約書と比較すると、給与、勤務地、リモートワーク条件等について交渉できる余地があることも特徴の1つです。
外資系企業のオファーレターは正式文書が英文で、日本語訳は参考資料の扱いになる場合が一般的です。
オファーレターには、”Offer may be rescinded at any time”(オファーは随時、取り消される可能性がある)といった文言が含まれる場合があります。
オファーレターは、採用候補者に対して採用を通知する点で内定通知書と似ています。また、具体的な労働条件を記載しているため、労働条件通知書とも類似します。しかし、オファーレターは内定通知書とも労働条件通知書とも異なる文書です。それでは、三者はどのような点で異なるでしょうか。
オファーレターと内定通知書は、記載内容に共通する点が多い一方で、法的性質に明確な違いがあります。これは、前者が採用の「仮決定」の通知であるのに対して、後者が「正式決定」の通知であるためです。オファーレターは入社を前提としていますが、企業、候補者のどちらも取消(辞退)が可能と解されています。一方、内定通知書は法的に「始期付・解約権留保付労働契約」と解されているため、会社側の内定取消に対しては損害賠償請求等ができる可能性があります。
なお、外資系企業のオファーレターの法的効力は、日本法人の場合と本社の直接雇用の場合で異なる可能性があります。本社(特に米国)の直接雇用の場合は当事者双方の取消が可能であるケースが多いですが、日本法人の場合、会社による不当な取消に対しては、内定の取消と同様不当解雇に準じて無効を主張できる可能性もあります。
オファーレターと労働条件通知書は、法的に発行が義務づけられているか否か、記載内容が法律で定められているか否か等の違いがあります。オファーレターは会社に発行義務はなく、記載内容も法定されていません。労働条件通知書は労基法第15条で発行が義務づけられ、記載内容についても同法施行規則第5条で定められています。
三者の違いをまとめると、以下の表のようになります。
| オファーレター | 内定通知書 | 労働条件通知書 | |
| 目的 | 「仮の」採用・条件提示 | 「正式の」採用通知 | 労働基準法で定められた労働条件の明示 |
| 交付のタイミング | 面接後、入社意思を確認する前 | 入社意思の確認後 (内定確定後) | 内定後~入社日までに交付 |
| 法的効力 | 原則として法的効力なし | 一定の法的効力あり (内定取消には合理的理由が必要) | 法的に交付義務あり (労基法第15条) |
| 記載内容 | 雇用条件の概要 | 採用確定の通知と就業条件 | 労働時間、賃金、休暇等の詳細 |
| 対象者 | 採用候補者(最終面接後等) | 内定承諾者 | 雇用契約締結後の従業員 |
オファーレターには、以下のような事項が記載されています。
| 宛名と発行日 | ・候補者氏名 ・オファーレターの発行日 |
| ポジション情報 | ・職種(Job Title) ・所属部署(Department, Section) ・勤務開始予定日(Start Date) |
| 雇用形態 | ・正社員・契約社員・アルバイト等 ・試用期間の有無、期間及び条件 |
| 報酬・給与 | ・基本給(月給/年俸) ・賞与の有無、支給タイミング、計算方法 ・インセンティブ制度の有無 ・昇給についての説明(時期・評価制度等) |
| 勤務時間・休日・休暇 | ・勤務時間(始業終業時刻、所定労働時間) ・休憩時間 ・残業の有無と取扱い(固定残業代制等) ・休日 |
| 勤務地 | ・本社、支店等 |
| 福利厚生 | ・各種保険(社会保険、健康保険、厚生年金、雇用保険等) ・通勤手当、住宅手当、資格手当 ・退職金制度、産休育休制度、研修制度等 |
| 機密保持・競業避止等の特約 | ・入社後に署名すべき誓約書の案内(NDA、秘密保持契約等) |
| オファーの有効期限 | ・回答期限(何月何日まで等) |
| 署名欄 | ・企業担当者の署名、候補者の署名欄(空欄) |
ここでは、外資系企業のオファーレターの例を、和訳つきでご紹介します。
| [Company Letterhead]Date: March 10, 2026 Mr. Satoshi Tanaka 1-2-3 Miyamae, Suginami Ward Tokyo, Japan 168-0081 Dear Satoshi, We are pleased to offer you the position of Software Engineer with ABC Inc.(the “Company”) starting on “April 1, 2026”. You will report directly to Richard Johnson, Director of Engineering. 1. Compensation and Benefits Annual Base Salary: USD 70,000, payable in accordance with the company’s standard payroll schedule. Annual Bonus: Eligible for a discretionary performance-based bonus Benefits: You will be eligible for company-provided health insurance, retirement plan, and paid vacation in accordance with company policy. 2. Probationary Period Your employment will be subject to a three-month probationary period during which either party may terminate employment with one week’s notice. 3. Conditions This offer is contingent upon: a.Successful completion of a background check. b.Verification of your legal right to work in the United States. 4. Acceptance Please sign and return a copy of this letter by March 17, 2026 to confirm your acceptance of this offer. We look forward to welcoming you to ABC Inc.! Sincerely, Mary Smith Human Resources Manager ABC Inc. ______ Accepter by: Signature: Name: Date: |
| [企業ロゴ] 日付:2026年3月10日 田中聡(応募者名) 杉並区宮前1-2-3 (応募者住所) 東京都 168-0081 (応募者住所市区町村・郵便番号) 田中聡様 この度、ABC社にてソフトウェアエンジニアの職位で、2026年4月1日付での採用をお知らせできることを嬉しく思います。直属の上司はエンジニアリングディレクター リチャード・ジョンソンです。 1.給与及び福利厚生 年俸:USD 70,000 (会社の給与支払スケジュールに従い支給) 年次ボーナス:裁量による業績評価に基づくボーナスの対象 福利厚生:健康保険、退職金制度、有給休暇(会社規程による) 2. 試用期間 あなたの雇用には3か月の試用期間が設けられ、期間内に当事者の一方が1週間前に通知することによって雇用を終了させることができます 3. 条件 このオファーは、以下の事項を条件とします。 a バックグラウンドチェックに合格すること b 米国で就労する法的権利があること 4. 承諾方法 このオファーを受諾される場合は、2026年3月17日までに本書に署名し、御返送ください。 ABC社であなたをお迎えできることを楽しみにしています。 敬具 メアリ・スミス 人事部マネジャー ABC社 [受諾者署名] 署名: 氏名: 日付: |
外資系企業では、オファーレター等の契約関係書類が英語で書かれていることが多いです。そこで、外資系企業の契約関係書類でよく使われる単語やフレーズをご紹介します。
※オファーレターの記載上は各単語の最初の文字が大文字になることがありますが、ここでは便宜上、全て小文字にしています。また、各単語・フレーズの意味は、契約関係書類の文脈上での意味を表しています。
| agreement | 契約(文書) |
| contract | 契約(法的拘束力を有する) |
| effective date | 契約発効日 |
| enter into | (契約を)締結する |
| parties | 契約当事者 |
| start date | 勤務開始予定日 |
| attendance record | 勤怠 |
| benefits | 福利厚生 |
| designate work hours | 所定労働時間 |
| discretion | 裁量 |
| expire | (期間が)終了する |
| here- | 本契約の(of the agreement) 例:herein (この契約の文中に) |
| notice | 通知 |
| obey | (契約に)従う |
| observe | (契約条項・法令・社内規則等を)遵守する |
| permanent employee | 正社員 |
| principal office | 本社 |
| trial period(またはprobation period) | 試用期間 |
| annual base salary | 年俸 |
| annual bonus | 年次ボーナス |
| discretionary performance-based bonus | 裁量による業績評価に基づくボーナス |
| monthly base salary | 月給 |
| payroll schedule | 給与支払スケジュール |
| cancellation | 契約の終了に伴う解雇(有期雇用契約の場合は雇止め) |
| dismissal | 能力不足/重大な規律違反を理由とする解雇 |
| retiring age | 定年 |
| severance | 退職手当 |
| cf. offer severance package | 退職勧奨する |
| termination | 雇用契約終了(解雇を含む) |
| cf. termination notice | 解雇通知 |
| acceptance | 署名の期限と返送方法 |
| amendment | (契約条項の)修正 |
| eligible | (主に労働者側が利益を受ける制度の)対象となる |
| entire agreement | 完全合意条項 (契約書の記載が、当事者間の全ての合意であることを明確にして、契約締結前の交渉過程での口約束や書面等、契約書の記載以外の合意を全て失効させる条項) |
| force majeure | フォース・マジュール/不可抗力 (自然災害・戦争・ストライキ等、人の力では予測や制御ができない外的要因。契約上の義務が果たせなくなった場合の免責条項で使われる言葉) |
| governing law | 準拠法 |
| jurisdiction | (裁判・労働審判・労働基準監督署等の)管轄 |
外資系企業のオファーレターは、日本企業の内定通知に比べると雇用契約に近い内容である一方、最終的な効力は「雇用契約書」(Employment Agreement)により決定されます。ここでは、外資系企業のオファーレターの法的効力に関連して、オファーレターが違法になるケースや、会社側にオファーレターを取り消された場合の対処法について解説していきます。
外資系企業のオファーレターも、日本国内の事業所が発行するものであれば日本の法令に照らして適法性が判断されます。従って、労働基準法や労働契約法、民法等の法令に違反する記載を含むオファーレターは違法無効となります。
労働基準法や、男女雇用機会均等法等で禁止された差別的な条件が含まれている場合は、法令違反で違法となります。
外資系企業であっても、日本の労働基準法や最低賃金法等の適用を受けます。1時間あたりの給与が所在地の都道府県の最低賃金以下である場合等は違法となります。
退職時の違約金支払い等、契約解除条項に日本の労働基準法に違反する不当な内容が含まれる場合は違法となります。
業務外の行動の制限、過度な競業避止義務 退職後3年間同業界での就労を一切禁止する等、法律で禁止されている義務を課す場合も違法となります。
実際には存在しない役職や給与費目を提示している、ボーナスや昇給を保証するかのような記載をして実際は支払わない等の場合、労働者側がその記載内容を入社動機の1つとして契約を締結した場合は詐欺(民法第96条1項)や錯誤(同第95条1項2号)による取消が可能です。
会社がオファーを取り消すと、オファーレターに記載された提示条件も取り消されたことになります。会社側からオファーレターを取り消された場合、以下のような対処を行うことをおすすめします。
まず、オファーレターが取消された理由を確認しましょう。
取消の理由の適法性を判断する上で、取消されたのが労働契約成立前と成立後で以下のような違いがあります。
取消されたのが労働契約が成立する前であった場合、オファーレターの法的効力は内定通知と同等であるため、やむを得ない理由があれば会社側からの取消が可能です。やむを得ない理由としては以下のようなものが挙げられます。
取消が労働契約成立後であった場合、「内定」は始期つき解約権留保付き労働契約とみなされるため、オファーレター取消は解雇と同じ扱いになります。従って、労働契約法第16条に基づき、客観的合理的な理由及び社会的相当性が認められなければ取消は無効となります。
同時に、取消によりどのような損害を受けたかを整理しましょう。労働契約締結前と締結後では、取消によって受ける損害が異なります。労働契約締結前の場合、その時点で受けた損害の賠償請求が可能です。例えば入社を前提に前職を退職したり転居していた場合等は、退職による逸失利益や転居費用等が損害となります。また、日本法人であれば、契約締結前であっても労働契約法第16条に準じて、客観的に合理的な理由を欠く内定取消の無効を主張できる可能性があります。
契約締結後に取り消された場合は、一定期間分の給与相当額や、精神的苦痛等が損害として考えられます。日本法人であれば、労働契約法第16条による不当解雇の主張が可能です。
理由を確認して、受けた損害の把握ができたら、会社に連絡して、取消の撤回かつ/または受けた損害の賠償または補償※に応じてもらうための交渉を求めてください。会社への連絡はメールでできる場合もありますが、予定の勤務先が日本国内のオフィスである場合、裁判等の証拠とするために内容証明郵便で行うことをお勧めします。
※損害に対して金銭の支払いを求める場合、取消が違法である場合は「賠償」、違法でない場合は「補償」を求めることになります。
日本法人の場合は、勤務地の会社オフィスを管轄する裁判所への労働審判申立てまたは訴訟提起によって、オファーレター取消の無効確認や損害賠償の請求が可能です。海外本社の直接雇用の場合、本社所在国の法律によって異なりますが、日本法人の場合に比べると取消が違法にならない可能性が高いでしょう。
オファーレターの内容に不明な点があったり、不意にオファーレターを取消されたりした場合、対応を誤ると労働者側が不当な不利益を受けてしまいます。オファーレターについて何か問題が生じた場合は、外資系企業の労働問題に知見のある弁護士に相談しましょう。オファーレターに関わるトラブルや疑問について、弁護士に相談・依頼することには、以下のようなメリットがあります。
オファーレターの法的効力は同一ではなく、単なる条件提示に過ぎない場合もあれば、日本企業の内定通知と同じ法的効力を持つ場合もあります。また、日本の労働基準法等で禁止された差別的取扱い等の違法な記載が含まれる可能性もあります。弁護士に相談することで、受け取ったオファーレターの効力や、記載の適法性について的確に判断してもらうことができます。
たとえば、オファーレターを取り消された場合、不当な内定取消にあたるとして取消の無効を主張する、転居費用等の損害賠償を請求する等、いくつかの請求ができる可能性があります。しかし、それらの請求が法的に認められるか、損害賠償等の金銭的請求の場合は適正な請求額がどのくらいになるか等を的確に判断するには専門知識や業務経験が必要となります。弁護士に相談することで、可能な請求の内容や金額について教えてもらうことができます。
オファーレターに関して会社とトラブルが起こった場合、労働者側の請求を認めてもらうためには証拠が必要になります。弁護士に相談することで、どのような資料が有効な証拠となるか、その証拠をどのように収集すればよいかを詳しく教えてもらうことができます。また、会社側が保持している証拠について、労働者を代理して開示請求することも可能です。
特にオファーレターを取消された場合、取消撤回や賠償・補償等を認めてもらうためには、会社と交渉する必要があります。しかし、労働者本人が会社と交渉することは容易ではありません。会社が交渉に応じてくれないことも多く、また交渉に応じたとしても、会社の顧問弁護士に請求を拒否されることが少なくないためです。弁護士に交渉を依頼することで、請求を筋道立てて伝え、対等な立場で冷静に交渉することができます。
ウカイ&パートナーズ法律事務所では、初回30分無料で法律相談をお受けしています。条件交渉や取消等、外資系企業のオファーレターに関わるトラブルやご質問がありましたら、お気軽に当法律事務所にご相談ください。
資系企業では文書が英語で書かれていることが多いため、言葉を理解する上で専門知識が必要な場合があります。また、オファーレターのように、発行する事業所の所在国や会社側の意図によって法的効力が異なる場合もあります。オファーレターの取消に同意できない場合や、オファーレターを含む契約関係の文書について、疑問や不安等がありましたら、弁護士にご相談ください。
ウカイ&パートナーズ法律事務所では、所属する弁護士全員が、オファーレターの効力や適法性、取消の適法性を検討・判断した上で、とりうる対処法について懇切丁寧にお答えします。当事務所では、初回30分無料で法律相談をお受けしています。「オファーレターや契約関係書類の記載事項について疑問や不安な点がある」「オファーレターを不当に取消されてしまった」等、外資系企業の契約関係の問題でお困りの方は、ぜひ当事務所の無料法律相談をお申込みください。
