
「コンビニエンスストアの正社員なのですが、店長に昇格してからは手当が月2万ほどつくようになった代わりに、深夜まで働いているのに残業代が出なくなりました。これでは責任だけ重くなってかえって労働条件が悪化しているように思います。会社の規定で店長には残業代が出ないと決まっている以上、残業代請求はできないのでしょうか?」
このように、店長や部長・課長等の管理職者の方から、残業代についての相談を頂くことがよくあります。「管理職者には役職手当が出るので残業代が出ない」と思っている方は、労働者だけでなく経営者でも少なくありません。しかし、裁判では店長・部長等の管理職者による残業代請求が認められたケースが数多くあります。
本記事では、いわゆる「名ばかり管理職」について、以下の点を中心に解説します。
「名ばかり管理職」とは、管理職であることを理由に残業代が支払われない状態にある従業員をいいます。「名ばかり管理職」が存在する原因として、労働基準法第41条2号で「監督もしくは管理の地位にある者」(管理監督者)に対して、時間外労働の割増賃金支払義務(同法第37条1項)等の適用が除外されていることを、会社側が都合よく解釈していることが考えられます。
「名ばかり管理職」という言葉は、マクドナルドの店長による残業代請求が認められた2008年の東京地裁判決(後述)をきっかけに、メディアがこの言葉を使いだしたことがきっかけとなって広まったものです。「名ばかり管理職」の問題には、違法な残業代未払いに加えて、長時間労働による過労死等の労働災害が多く発生していることも含まれます。
ここでは、会社が管理職者に残業代を支払わない根拠としている労基法第41条の「管理監督者」について、時間外労働手当支給の対象外とされる理由や、該当要件等を解説していきます。
労基法第41条は、「同法第四章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない」と定めています。前述のように、管理監督者は同条2号に該当します。第四章に含まれる第37条1項は、法定労働時間を超える労働時間(時間外労働)につき、25%以上の割増賃金の支払いを使用者に義務づけています。
労基法が「管理監督者」を時間外労働手当支給の適用対象外とするのは、次のような趣旨に基づくと考えられています(神代学園ミューズ音楽院判決)。
つまり、労働基準法第41条は「経営者と一体性を持つ重要な職務と権限を与えられ、待遇や勤務形態が優遇されている者に対しては、労働時間関連の規定による権利と保護を与えなくてもよい」という理由で、管理監督者を時間外労働手当の支給の対象外としたものと考えられます。
厚生労働省の通達(2008年9月9日基発第0909001号)※によれば、「管理監督者」とは「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、十分な権限や相応の待遇を与えられている者」をいい、該当するか否かは役職目にかかわらず実態に即して判断されるべきとされています。また、裁判所はこの通達の見解に拠りつつ、おおむね以下の3要件を総合的に判断しています。
※基発:厚労省労働基準局長名で各都道府県労働基準局宛てに出された通達
この要件は、主に以下の点を中心に判断します。
①人事・労務管理等の経営方針の決定に対する影響力を有するといえるか
②少なくとも一部門を統括する立場にあるといえるか
①について、たとえば日本マクドナルド事件では、原告の店長が有している人事の決定権は店舗内に限られているとして、企業全体としての経営方針に関与するものではないとしています。
②については、以前の判例は「企業全体を統括する立場であることを要する」とする見解と、「部門全体を統括する立場で足りる」とする見解に分かれていましたが、近年では後者の見解をとる判例が多くなっています。
自身の労働時間について裁量権を有しているといえるためには、労働時間を管理されていると判断できる事情がないことが必要です。判例上も、以下のような事情がある場合は、労働時間の裁量権を否定しています。
下位の職種との間に明確な待遇差がない場合は、この要件を満たしているとはいえません。たとえば、同程度の残業をした非管理職の従業員の給料が、役職手当を含めた当該管理職者の給料と同程度以上である場合等は、正当な対価を受けているとはいえないことになります。
このように、厚労省の通達や判例によって認められる「管理監督者」の範囲はかなり狭いものとなっています。逆に言えば、以下の要件にあてはまる場合は「管理監督者」にはあたらず、未払いの残業代が発生している可能性があります。
詳しくは次章でご説明しますが、通常は課長や係長、店長等の肩書で上記の要件をすべて満たすことはほとんどないといえるでしょう。
管理職者が、労働基準法上の「管理監督者」に該当する場合は、時間外労働や休日労働の割増賃金は支払われないことになります。一方、午後10時~午前5時に業務を行った場合は、労基法第37条4項が定める深夜労働の割増賃金(25%以上)が支払われなければなりません。これは、勤怠管理されていない管理監督者であっても、深夜・早朝に労働することは通常の業務の範囲内とはいえないためです。
ただし、就業規則・労働契約によって管理監督者の所定賃金に一定額の深夜割増賃金が含まれることが明記されている場合は、その金額に相当する時間の限度では割増賃金が支払われなくても違法ではありません。
また、年次有給休暇に関する労基法第39条は適用除外になっていないため、管理監督者も勤続年数に応じた日数の有給休暇を取得できます。
ここでは、管理職の主な役職別に、残業代請求の可否が争われた裁判例をご紹介します。裁判では残業代請求が認められたケースが多くを占めていますが、個々の事情に照らして管理監督者性が肯定され、残業代請求が認められなかったケースも存在します。
部長や店長レベル以上では、管理監督者性が肯定されたケース、否定されたケースが混在しています。言い換えれば、部長や店長レベル以上の役職であっても残業代請求が認められた判例が数多くあるといえます。
留学・海外生活体験商品の企画・開発・販売等を業とするY社の銀座支店シニアブランチマネジャーの地位にあり、営業を担当していた原告Xが、Y社を退職後に残業代請求した事件です。判決では、未払いの残業代370万円余りに加えて、ほぼ同額の付加金の請求が認められました。
【肩書】支店長(シニアブランチマネジャー:部長相当・非役員では最高等級)
【経営者との一体性】否定
・Xの職務内容は、部門の統括的な立場にあり部下に対する労務管理上の決定権等はあるが、小さなものにすぎない
【労働時間の裁量権】否定
・Y社の代表者は、Xに対して遅い時刻にもメールや電話で営業成績の報告等を強く求めていた
・Y社では全社的に営業ノルマの達成を強く義務づけ、Xを含む従業員一般に対してノルマを達成するよう叱咤激励を繰り返していたところ、ノルマ達成には所定労働時間内の勤務では不十分であることが明らかであった
【対価の正当性】否定
管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において時間外手当が支給されないことを十分に補っていることが必要だが、そのような事実が認められない
部長職である一方、部下がいないスタッフ職でもある「スタッフ管理職」の管理監督者性が争われたケースです。判決では、無効とされた給与減額分を含めて、169万円余りの未払い賃金の支払いが命じられました。
【肩書】工場の営業開発部長
【経営者との一体性】否定
・経営会議に参加していたものの、経営会議では経営に関わる重要事項の決定は行われない
・職務の内容は専門職的色彩が強く、また部下が存在しないことから、人事労務の決定権を持たず、一部門を統括する立場にあるとはいえない
【労働時間の裁量権】否定
・一般の従業員に近い勤務をしていることから、自由に決定できるものではない
【対価の正当性】否定
・社内で管理職としての待遇を受け、役付手当として月11万円の支給を受けていることは認められるが、これらをもってしては未だ労基法第41条2号の管理監督者に該当するとして、労働時間に関する規定の適用除外者とまでは認められない
美容室等を経営するY社の総店長であったXに対して、Y社が営業秘密(顧客情報)無断持ち出し等を不正競争行為として損害賠償請求訴訟を提起したところ、Xが在職時の深夜割増賃金等を求めて反訴を提起した事件です。一審、控訴審ともXは管理監督者に該当するため深夜割増賃金を含む時間外労働手当の請求は認められないとしてXの反訴を斥けました。
最高裁は、管理監督者性については高裁の判断を支持した上で、「管理監督者であっても深夜割増賃金の請求は可能であるが、当該管理監督者の所定賃金が一定額の深夜割増賃金を含む趣旨で定められていることが明らかな場合は、その限度で支払を認めることがない」と判断して、この点について控訴審に法令違反があるとして破棄差戻しました。以下の管理監督者性の判断は、控訴審の東京高裁2008年11月11日付判決が示したものです。
【肩書】理美容室の総店長
【経営者との一体性】肯定
・XはY社の代表取締役に次ぐナンバー2である総店長の地位にあり、Y社の経営する理美容業の5店舗と5名の店長を総括するという重要な立場にあった
・Y社の人事等の経営に関わる事項については、最終的には代表取締役の判断で決定されていたとはいえ、Xは各店舗の改善策や従業員の配置等といった重要な事項について実際に意見を聞かれていた
・Xは毎月営業時間外に開かれる店長会議に出席している
【労働時間の裁量権】肯定
・Xは店舗の営業時間に拘束されていたが、これはXが店舗において顧客に対する理美容業務を担当していたことに基づく合理的な制約である
【対価の正当性】肯定
・Xは店長手当として他の店長の3倍にあたる月額3万円の支給を受けており、基本給についても他の店長の約1.5倍程度の給与の支給を受けていた
【肩書】営業部長
【経営者との一体性】肯定
・Xは、Xを含めて9名の従業員が所属する営業部の部長として、従業員の出欠勤の調整、出勤表の作成、出退勤の管理等の管理業務を担当していた
・代表者と各部門責任者のみから構成される経営会議やリーダー会議にメンバーとして出席していた
・最終的な人事権がXに委ねられていたとはいえないものの、営業部に関しては部門長のXの意見が反映され、手続き・判断の過程に関与していた
【労働時間の裁量権】肯定
・遅刻・早退等を理由としてXの基本給が減額されたことはなかった
・Xはタイムカードを打刻していたが、この事実のみからXの労働時間が管理されていたとはいえない
【対価の正当性】肯定
・Xの給与の額は、代表者・工場長に次ぐ高い金額であり、内訳は基本給37万7,500円~38万円、役付手当3万円、資格手当3万円であった。給与以外においても経営幹部として処遇されていた。
次長・副次長レベルの管理職者に対しては、管理監督者性が肯定されて残業代請求が認められなかったケースも存在しますが、大半は管理監督者性が否定されています。
設計・設計管理を業とするY社が、同社の副部長であったXを解雇したところ、Xが自身が管理監督者にあたらないとして在職時の時間外・深夜・休日割増賃金を求めて提訴した事件です。本件では、特に労働時間の裁量権の要件について「勤怠管理をされていなかった」点を認めつつ、これは会社側の労務管理の杜撰さが原因であると判断して、Xに裁量権があったと認めなかった点が注目されます。
【肩書】副部長
【経営者との一体性】否定
・Xは、副部長として担当業務の遂行について、部下に対する指揮命令を含めた裁量を認められていたが、担当職務自体は必ずしも高度な経営判断を要するものではなく、日々の定型作業が中心であったことから、会社の業務全体からみてXの責任及び権限が重要かつ広範なものであったということはできない。
【労働時間の裁量権】否定
・Xに部下が配置された時期はあったものの、Xの部下の勤怠管理に対する意識は希薄であった
・Xの労働時間は、上司によって管理されていなかったものの、これは会社が勤怠管理を放棄していたにすぎないといえる
【対価の正当性】否定・Xには役職手当が支給されていたものの、管理監督者の待遇として十分であったとはいえない
・管理監督者であれば、週末の休日出勤に対しては役職手当が支給されていたはずであったところ、Y社はXの休日出勤に対して役職手当を支給していなかったことは、Xが管理監督者であることと矛盾した行動をとったものといえる
翻訳、印刷及びその企画、制作等を行うY社の制作部で次長として翻訳部の手配、編集等を行っていたXが、(1)退職後に賃金減額の無効を理由とする差額、(2)退職が会社都合であるのに自己都合退職扱いで支払われた退職金との差額、(3)労働条件の切り下げを不法行為とする慰謝料等とともに、(4)未払いの時間外労働手当とその付加金※の支払を求めて提訴した事件です。判決は、請求(4)で問題となった管理監督者性を否定して、時間外労働手当及び付加金の請求を認めました。なお、その他の3つの請求については、(1)の賃金減額を無効と認定し、(2)(3)については棄却しました。
※付加金(労基法第114条):労基法第20条・第26条または第37条の規定に違反した使用者、または第39条9項所定の賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者がこれらの規定に基づく賃金等の請求と併せて請求することができる、賃金等の請求額を上限とする金銭
【肩書】制作部次長
【経営者との一体性】否定
・Xは、Y社において経理部長、営業部長と並ぶ高位の役職である制作部次長の地位に合って、制作部のトップとして担当業務を統括し、部下の労務管理や新規翻訳者の採用といった人事面を含め、相当程度の裁量権を有する重要な職務を担当していたものと認められる
・ただし、Xが実質的な制作部のトップとなったのは入社後それほど年月が経たない1984年ないし1985年頃からであるところ、次長昇進後にXの職務の性質がそれまでとは質的に変化したと認められないことからすれば、部下の労務管理等よりもむしろ翻訳者の選定業務等におけるスペシャリストとしての側面が重視されていたといえる
【労働時間の裁量権】否定
・Xは出退勤時にタイムカードの打刻を義務づけられ、遅刻に対して減給処理されていた
・休日出勤した際には休日労働時間を基準に算定した休日手当が支給されていた
・上記の事情に照らせば、XはY社によって労働時間の管理を受けていたといえる
【対価の正当性】否定
・Xは一般従業員とは異なる役職手当の支給を受けてはいたものの、その金額は時間外労働手当の支給対象であった課長職の役職手当よりも6,000円多いだけであった
・役職のない従業員の中には、時間外労働手当の支給を受けることにより、Xより多額の給与を受けている者もいた
・上記の事情に照らせば、時間外手当の支給を受けない管理監督者に対する処遇として十分なものであったとは到底認めがたい
タクシー会社であるY社の乗務員として勤務し、定年退職した元営業次長Xが、在職中の時間外労働・深夜労働の割増賃金及び、退職前に実施された退職金規程の変更の無効を主張して変更前との差額支払いを請求した事件です。判決は、Xは管理監督者にあたるとして時間外労働の割増賃金の請求を退けました。一方、深夜労働の割増賃金の請求については、管理監督者に対しても会社の支払い義務があるとして認められました。また、退職金規程の差額支払請求も認められました。
【肩書】営業次長
【経営者との一体性】肯定
・Xは、営業部次長として、多数の乗務員を直接指導・監督する立場にあったと認められる
・乗務員の募集時も面接に携わって採否に重要な役割を果たしていた
・XはY社の取締役や主要な従業員の出席する経営協議会のメンバーであったことや、唯一の上司というべきZ専務に代わり、Y社代表として会議等に出席していた等の事情も認められる
【労働時間の裁量権】肯定
・出退勤時間については、多忙なため自由になる時間は少なかったと認められるものの、Z専務から何らの指示も受けておらず、会社への連絡だけで出先から帰宅できる状況にあったことから、特段の制限を受けていたとはいえない
【対価の正当性】肯定
・Xは、基本給及び役務給を含めて、Y社の従業員の中で最高額である700万円余の高額の報酬を得ていた
Xは、1986年10月23日頃旅行を目的とする会員制クラブを運営するY社と試用期間3か月、当面の賃金を月額33万400円とする旨の雇用契約を締結して同年11月6日から就労したものの、同年12月22日に退職していました。本件はXが同年11月21日から12月20日までの間に行った時間外労働84時間50分、休日労働4日分、深夜労働13時間10分に対する割増賃金合計29万円余及び年6分の利息を請求した事件です。
【肩書】総務部次長
【経営者との一体性】肯定
・XはY社の総務部次長として任用され、Y社から経理、人事、庶務全般に及ぶ事務を管掌することを委ねられていた
【労働時間の裁量権】
・Xは出社・退社等について厳格な制限を受けていなかった
【対価の正当性】肯定
・Xの給与33万400円の内訳は、基本給のうち年齢給15万800円、職能給7万9,600円、その他手当として役職手当3万円、職務手当5万円、家族手当2万円である・Y社の就業規則には役職手当の受給者に対しては時間外労働手当を支給しない旨の規定がある
支店長・営業所長レベルでは、管理監督者性が認められたケースもありますが、否定されて残業代請求等が認められたケースが大半を占めています。
会員制スポーツクラブを運営するY社の支店長であったXが、Y社に対して時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金合計317万円余り及び遅延損害金、割増賃金請求額と同額の付加金及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めて提訴した事件です。東京高裁は、第一審に続いて管理監督者性を否定し、Y社に対してほぼ請求額通りの割増賃金の他、付加金90万円の支払を命じました。
なお、本件ではウカイ&パートナーズ法律事務所の鵜飼弁護士及び上野弁護士が原告の代理人を務め、労働者側の請求認容判決を得ることができました。
【肩書】支店長
【経営者との一体性】否定
・Xには支店長として一定の権限が認められていたが、支店において提供する商品・サービスの内容の決定やそれに伴う営業時間の変更については、原則としてY社の直営施設運営事業部が行っており、支店長はこれに関わる提案は可能であったものの、独自の判断で決定することはできなかった
・また、多額の出損を伴う重要な事項についての経営会議への参加も原則として求められていなかった
・形式的には支店長が権限を有する事項についても直営施設運営事業部長やエリアマネジャー等による指導等を通じて支店長の裁量が相当程度制限されていた
【労働時間の裁量権】否定
・Xを含めた複数の支店長が、管理業務に限らず、フロント業務やインストラクター業務等、一般の従業員と同様の業務にも日常的に携わらざるをえない状況にあり、そのため恒常的に時間外労働を余儀なくされていた
【対価の正当性】否定
・Xに対する待遇は、役職手当月5万円の支給のみで、支店長に対して管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がされているとは言い難い
播州信用金庫H支店(Y支店)の元支店長代理Xが、退職後に過去1年6ヵ月分の時間外割増賃金と付加金の支払いを求めて提訴した事件です。判決は、Xの管理監督者性を否定し、時間外割増賃金請求及び付加金の一部を認容しました。
【肩書】支店長代理
【経営者との一体性】否定
・Xが行っていた「渉外担当職員に関する人事評価についての支店長に対する意見の伝達」は、書面で残るものではないため重要性が高いとはいえず、かかる意見伝達が制度的組織的なものであるとは認められない
・XがH支店の調査役や内勤担当職員についての人事評価に関して意見を支店長に伝えていたことを認めるに足りる証拠がなく、内勤業務に関して調査役に対し指揮命令していたことも認められない
・Xが、支店長不在の時に参加したことがある支店長会議も、実態は各支店の報告会ほどのものであった
・同じく支店長不在の時、2回ほど代行した残業命令についても、H支店にはタイムカードがなく、出勤簿に出勤退勤時刻が記載されていないことからして、形骸化していると評価できる
・従って、XがH支店の経営方針の決定や労務管理に関してY銀行と一体的な立場にあったとは評価できない
【労働時間の裁量権】否定
・Xの出勤時刻や退勤時刻は、金庫の開閉業務があるため、全く自由に決められるということはなく、出社中に関しても、渉外担当職員に対する指示・相談業務があることや、Xの机が支店長の斜め前にあることからみて、いわゆる中抜け等の行動が自由にできたとも考えられない。従って、Xが自己の勤務時間について自由裁量を有していたとは評価できない
【対価の正当性】否定
・Xの給与を、時間外勤務手当等が支給されている調査役と比較すると、Xが本俸・役付手当及び特別残業手当を併せて36万5,000円であるのに対して、調査役は本俸・役付手当合わせて35万8,000円であり、その差はわずか7,000円であり、管理監督者たる地位にふさわしい給与が支給されているとは評価できない
証券会社を退職した元支店長が、会社の不作為が原因で再就職できなかったとして、1か月間の給与相当額の損害賠償を請求するとともに、休日出勤に対する時間外割増賃金を請求した事件です。判決は、損害賠償請求を棄却するとともに、時間外割増賃金についても、Xが管理監督者に該当するとして請求を棄却しました。
【肩書】支店長
【経営者との一体性】肯定
・Xの「経営方針の決定や社員の採否・昇降格・配置等の労務人事管理は専ら本社の副社長の指示によるものであって自身には何らの権限もなかった」旨の主張に対しては、証拠中にはこれに沿う部分がある。しかし、社員の配置や組織変更は、常にXが支店経営上の必要性を考えて自ら発案した者であって、大阪支店を担当する副社長の了解を得ているとはいっても、経営方針の設定や社員の配置等についての実質的な決定権限はXにあったといえる
・本社が試験や面接を実施する新規採用の場合と異なり、中途採用の場合は支店に直接応募してくるか、社員の紹介によるところが多く、面接結果が唯一の資料となるところ、採否についての実質的な決定権限は面接を実施するXに委ねられている
・社員の昇降格についても、Xには自らの人事評価につき意見を述べる機会を与えられていた上、原告の意見が容れられなかった例が実際にあるのかは証拠上明らかでない
・Xは、自らも降格処分を受けていることをもって自身に人事権がなかった証拠であると主張するが、証拠によれば、原告の降格は、部下の営業成績が悪かったことに対する管理者責任を問われた結果であることが認められ、かえって原告に支店の経営責任と労務管理責任があったことを裏付ける
【労働時間の裁量権】肯定
・Xは、外務員日誌の作成を求められる等労働時間の管理を受けており、欠勤控除されなかったのは欠勤したことがなかったからにすぎず、現に後任のZ支店長は欠勤控除されていると主張する。しかし、外務員日誌の作成が交通費の実費精算と営業経過の備忘のためであったことはXも認めているところであって、これをもって労働時間が管理されていたということはできない
・また、証拠によれば、Z支店長に対する賃金控除は、部下に対する監督責任を問われたものと窺われ、少なくとも欠勤に対する控除であったか否かは本件全証拠によっても判然としない
【対価の正当性】肯定
・Xは、以前勤めていた会社では、Y社での給与よりも(残業手当込みで)月額15万円以上高かったので、Y社の待遇は高いものではなかったと主張するが、賃金体系も契約内容も異なる会社での給与額だけを単純に比較してその多寡を決することはできないし、Y社における月額80万円以上の給与が、Xの職務と権限に見合った待遇と解されないほど低額とも言い難い
スポーツクラブの運営等を業とするY社で2003年10月からエリアディレクター兼店長であったXが、2009年10月に副店長に降格した後、2007年11月分から2009年9月分までの時間外手当を請求した事件です。判決は、Xは管理監督者に該当するとして時間外手当の請求を棄却しましたが、深夜労働手当相当額については請求を認めました。
【肩書】エリアディレクター兼店長
【経営者との一体性】肯定
・Xは6店舗を統括するエリアディレクターとある店舗の店長を兼任しており、新卒採用には関与できないものの、その他の人事採用、人事考課、昇格には相当程度関与できる上、担当エリアにおける予算案の作成権限等を有し、労務管理、人事、人事考課等の機密事項に一定程度接しており、予算を含めこれらの事項について一定の裁量を有していた
【労働時間の裁量権】肯定
・Xは、自己の勤務時間については、人事部に勤務状況表を提出するために部下であるチーフインストラクターの承認を受ける以外誰からも管理を受けておらず、実際にXが遅刻、早退、欠勤によって賃金が控除されたことがないことからすると、出退勤の時間を拘束されずに自己の裁量で勤務していたといえる
【対価の正当性】肯定
・エリアディレクターの基本年俸の月額は53万4,000円であり、執行役員、部長、室長、次長に次いで高く、一つ下の役職である副店長の基本給(月額28万4,100円)と比較してはるかに高額である。また業績給の上乗せもあることから、管理監督者として十分な待遇を受けていたといえる
課長レベルでは、管理監督者性が否定され、残業代請求が認められるケースがほとんどです。ただし、下記の徳洲会事件のように、管理監督者に該当するとして残業代請求が認められなかったケースも少数存在します。
大手自動車会社Y社の課長職を務めていたXの相続人(妻)が、Y社に対して(1)2014年9月から2016年3月までの時間外労働手当及び遅延損害金、並びに(2)労基法第114条に基づき(1)と同額の付加金及び遅延損害金の支払いを求めた事件です。判決は、管理監督者の該当要件を総合的に考慮した上でXの管理監督者性を否定し、(1)につき一部認容しました。一方、(2)については、Y社がXを管理監督者に該当すると認識したことに相応の理由があるとして棄却しました。
【肩書】課長
【経営者との一体性】否定
・ダットサン・コーポレートプラン(以下「DCP」)部配属当時のXの役割は、経営意思の形成に直接的な影響力を行使しているPD(プログラムダイレクター)の補佐であり、経営意思の形成に対する影響力は間接的であった。その他の職責及び権限を考慮しても、当時のXが実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職責及び権限を付与されていたとは認められない
・日本LCVマーケティング部(以下「LCV」)配属当時のXの役割についても同様に経営者との一体性は認められない
【労働時間の裁量権】肯定
・XはDCP及びLCVにおいて、所定労働時間よりも遅く出勤し、早く退勤することも多かったが、遅刻・早退により賃金が控除されたことがない。
【対価の正当性】肯定
・Xの給与は年俸1,234万円に達し、部下より244万円余り高かったのであるから、待遇としては管理監督者にふさわしいものと認められる
衣料品及びスポーツ用品のデザイン、製造、加工、販売を業とするY社生産統括本部の技術課課長であったXが、退職後に時間外・休日及び深夜労働の割増賃金の支払いを求めた事件です。判決はXが管理監督者に該当しないとした上、Y社就業規則の「所定労働時間週48時間」の規定それ自体が無効であるとして、労基法第32条に基づき、週40時間を超える労働時間を時間外労働として算出した割増賃金の646万3,150円及び、同額の付加金の支払いを命じました。
【肩書】課長
【経営者との一体性】否定
・Xは、製造現場のいわば「職長」という立場に過ぎず、具体的な職務内容、権限及び責任等に照らし、Xが管理監督者であるとすることはできない
・Xが月2回程度実施される経営会議に出席していた事実については争いがないが、この会議においてXがY社の経営に関する重要事項に関して何らかの積極的な役割を果たしたことを認めるに足りる証拠はない
【労働時間の裁量権】否定
・Xの時間外労働、休日労働、深夜労働の時間数は非常に大きく、そのほとんどが現場でのプリント作業に費やされている
・Xの労働時間はタイムカードで管理されていた
医療法人Yの事務職員として1977年11月10日に雇用され、大阪本部人事第二課長として1982年3月31日に退職するまで看護婦(現看護師)募集業務を行っていたXが、退職後に時間外・休日・深夜割増賃金を請求した事件です。判決では、Xは管理監督者に該当するとして、Xの請求を棄却しました。
【肩書】課長
【経営者との一体性】肯定
・Xは看護婦の採否の決定、配置等労務管理について経営者と一体的な立場にあった
【労働時間の裁量権】肯定
・出張を除く出勤日の出退勤時刻についてタイムカード打刻義務を負っていたものの、これは拘束時間の長さを示すにとどまり、その間の実際の労働時間はXの自由裁量に任せられていた
【対価の正当性】肯定
・Xは、基本給月額15万円~16万円前後、責任手当月額25,000円または3万円に加えて、深夜労働を含む包括的な時間外手当の趣旨で特別調整手当月額3万円または5万円の支給を受けていた
※1980年当時の給与所得者の平均年収294万円、賞与含む平均給与月額24万3,439円
なお、課長レベルよりも下位の主任・課長補佐・係長レベルでは、ほぼすべてのケースで管理監督者性が否定され、残業代請求が認められています。
飲食業・サービス業・小売業の店舗の店長レベルでは、裁判で管理監督者性を肯定される可能性は低く、ほぼ残業代請求が認められるといえます。しかし、日本マクドナルド事件判決以後も、店長レベルの名ばかり管理職のケースは多く存在します。
【肩書】ファストフードチェーン直営店店長
【経営者との一体性】否定
・Y社の店長は、店舗の責任者として、アルバイト従業員の採用やその育成、勤務シフトの決定、販促活動の企画・実施等に関する権限を行使し、Y社の営業方針や営業戦略に即した店舗運営を遂行すべき立場にあるから、店舗運営において店長は重要な職責を負っていることは明らかであるものの、店長の職務、権限は店舗内の事項に限られるのであって、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、労基法の労働時間の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められない
【労働時間の裁量権】否定
・店長は、店舗従業員の勤務シフトを決定する際、自身の勤務スケジュールも決定することとなるが、各店舗では各営業時間帯に必ずシフトマネジャーを置くこととされているので、シフトマネジャーが確保できない営業時間帯には、店長が自らシフトマネジャーを務めることが必要となる
・Xの場合、自らシフトマネジャーとして勤務するため、2004年7月頃には30日以上、同年11月から2005年1月にかけては60日以上の連続勤務を余儀なくされ、また、2005年2月から5月頃にも早朝や深夜の営業時間帯のシフトマネジャーを多数回務めなければならなかった。その結果、時間外労働が月100時間を超える場合もあるなど、労働時間は相当長時間に及んでいる
・店長は、自らのスケジュールを決定する権限を有し、早退や遅刻に関して上司の許可を得る必要はない等、形式的には労働時間に裁量があるといえるものの、実際には店長として固有の業務を遂行するだけで相応の時間を要する上、自らシフトマネジャーとして勤務すること等により長時間の時間外労働を余儀なくされるのであるから、かかる勤務実態からすると、労働時間に関する自由裁量性があったとは認められない
【対価の正当性】否定
・2005年の年間を通じて店長であった者の平均年収707万184円と、年間を通じてファーストアシスタントマネジャーであった者の平均年収590万円を比較すると、管理監督者扱いの店長と、管理監督者扱いではないファーストアシスタントマネジャーの収入には相応の差異が設けられているようにも見える。しかし、店長の年額賃金(インセンティブを除く)をS・A・B・Cの評価別にみると(下記表参照)、店長全体の10%にあたるC評価の店長の年額賃金は、下位の職位であるファーストアシスタントマネジャーの平均年収より低額であり、店長全体の40%にあたるB評価の店長の年額賃金はファーストアシスタントマネジャーの平均年収を上回るものの、その差は年額で44万6,943円にとどまる
| 職位(店長は評価別) | 年額賃金(インセンティブ除く) |
| 店長(S評価) | 779万2,000円 |
| 店長(A評価) | 696万2,000円 |
| 店長(B評価) ※店長全体の40% | 635万2,000円 |
| 店長(C評価) ※店長全体の10% | 579万2,000円 |
| ファーストアシスタントマネジャー | 590万5,057円 |
・店長の時間外労働時間は月平均39,28時間であり、ファーストアシスタントマネジャーの月平均38.65時間を超えている。店長の勤務実態を考慮すると、店長の賃金は、労基法の労働時間等の規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては十分であると言い難い
コンビニエンスストアや飲食店の経営を業とするY社が経営するコンビニA店の店長であったXが、退職後にY社に対して未払給与、時間外労働手当、付加金等の支払いを求めた事件です。判決では、Xの管理監督者性を否定し、Y社に対して時間外割増賃金743万円の支払が命じられました。一方、付加金請求については所轄の労働基準監督署からの勧告、指導がなかったこと等を理由に棄却されました。
【肩書】コンビニエンスストア店長
【経営者との一体性】否定
・Xは、A店の店長として、人件費等の諸経費やシフト原案作成等店舗経営に一定の裁量権があったが、アルバイト従業員募集等についても募集・採用・解雇につき本部の了解を不要とするような実質的な権限はなく、人事考課への実質的な関与も認められない。また副店長の超過勤務について本部に報告を要する等、労務管理の実質的権限はなかった
【労働時間の裁量権】否定
・X自らの出退勤はタイムカードで管理され、遅刻によって不利益な処分を受けたこともある
【対価の正当性】否定
・Xの給与は店長手当も含めて月額25万円~28万円であったが、勤務時間及び金額に照らし、役職者以外の従業員と比べて、時間外手当を支払わなくとも十分といえるほど厚遇されているとはいい難い
店長レベルで管理監督者性が肯定され、残業代請求が認められなかったケースは見当たりませんでした。なお、ゴルフ場及び宿泊施設を運営する会社のレストラン部門の最上位の職位である「料理長」に対して、管理監督者に該当するとしたケースがあります(ダイワリゾート事件:東京地裁2018年7月27日付判決)。この事件の原告の肩書の「料理長」は、通常は店長レベルの職位とされていますが、当該事件での原告の業務内容や待遇等は実質的に部長レベルであったと考えられます。
このように、残業代が支払われていない役職であっても、法的には管理監督者にあたらず、残業代請求ができる可能性があります。管理監督者性を的確に判断した上で、休日出勤を含めた残業代を確実に払ってもらうために、弁護士へのご相談をおすすめします。管理職の方が残業代請求について弁護士に相談することには、以下のような多くのメリットがあります。
「残業代が出ないのはおかしい」と思っても、管理監督者性の判断には判例知識や実務経験が必要になります。また、自身の判断で会社に対して残業代請求をしても、就業規則等を理由に拒否される可能性が高いでしょう。弁護士に相談することで、管理監督者に該当する可能性が高いか、「名ばかり管理職」である可能性が高いかを的確に判断してもらえます。また、仮に管理監督者に該当する可能性が高い場合でも、午後10時~翌朝5時の労働時間に対しては深夜労働割増賃金の請求が可能です。
名ばかり管理職であった方が、長時間労働を強いられた上に能力不足等を理由に不当に解雇されるケースや、より上位の管理職や役員等からのパワハラ被害に遭うケースもあります。例えば不当解雇に対しては、残業代とは別に解雇後の賃金相当額や慰謝料、復職を希望される場合は従業員地位の確認等の請求が可能です。弁護士に依頼することで、残業代請求と同時に不当解雇等の他の労働問題にも対応してもらうことができます。
残業代請求で必要な証拠は、就業規則の写しや労働契約書等、自身が保管していれば利用できるものに限られません。タイムカードや社用パソコンのログイン履歴等の有効な証拠は、会社側が管理している場合が多いです。弁護士に相談することで、容易に入手できない証拠について、収集する必要があるか、必要であればどのように入手すればよいか等のアドバイスが受けられます。また、会社に対する証拠開示請求を代理してもらうこともできます。
残業代請求にあたっては、会社側と交渉が必要です。しかし、労働者本人が会社と交渉して請求を認めてもらうことは困難です。会社が対応してくれないことも多く、また顧問弁護士に依頼して請求を拒否したり、少額の解決金のみで終わらせようとしたりする可能性もあるからです。弁護士に交渉を依頼していれば、対等な立場で残業代請求に向けての交渉を進めることができます。
残業代請求にあたり、証拠収集や交渉とともに、労働者にとって壁となるのが労働審判や訴訟等の法的手続です。弁護士に依頼していれば、先に労働審判を申し立てるか訴訟提起するかの判断を含め、すべての手続きを任せられます。
ウカイ&パートナーズ法律事務所では、初回30分無料で法律相談をお受けしています。無料相談の時間内で、次のような事項について回答とアドバイスが受けられます。
「自分も名ばかり管理職かもしれない」と思った方は、是非当所弁護士にご相談ください。
「店長」「部長」等の肩書があるというだけで、残業代が出なくても仕方がないと諦めてしまっていないでしょうか。「名ばかり管理職」という言葉が広まるきっかけとなった日本マクドナルド事件の判決から長い時間を経た現在も、管理職者に対して違法な残業代未払いが横行しています。しかし、法的に「管理監督者」と認められるケースはごく一部です。労働問題に知見のある弁護士に相談することで、労基法第41条の「管理監督者」に該当するか、残業代の請求ができるかを的確に判断することができます。少しでも「残業代が出ないのはおかしい」と思われたら、弁護士への相談をおすすめします。
ウカイ&パートナーズ法律事務所では、所属する弁護士全員が、管理職者の残業代請求が可能か否かを検討・判断した上で、とりうる対処法について懇切丁寧にお答えします。当事務所では、初回30分無料で法律相談をお受けしています。「少額の役職手当のみで長時間労働や休日出勤を強いられている」「管理職で残業代なしといいながら勤務時間を管理されて経営への関与もできない」など、名ばかり管理職問題でお困りの方は、ぜひ当事務所の無料法律相談をお申込みください。
