
「クラウドソーシングサイトで時給制の仕事を受けています。始業時刻が9時で休憩1時間、終業時刻が18時と決められているのですが、実際には23時くらいまで終わらない日も時々あります。クライアントに指示されたその日の仕事が終わるまでは、自分の判断で切り上げることができません。クライアントは1日あたり8時間分の報酬は支払うが、1日8時間の稼働を想定した業務委託だから残業代は出ないといっています。しかし、クライアントによる指示や拘束が多いのに、業務委託だから1日8時間分の報酬しか払われないのはおかしいと思います。1日あたり8時間を超えた時間分の残業代を支払ってもらうことはできるでしょうか?」
上の例のように、業務委託で働くフリーランスの方等から、残業代請求や契約解除等についての相談を頂くことが増えています。一般的にフリーランスは自由度が高い働き方とされており、業務委託先からの拘束も限定的なため、多くの場合、労働者とはみなされません。もっとも、業務委託というのは名ばかりで、実際には、委託者からの指示や要求、時間的場所的拘束が強いのにも関わらず、契約が業務委託であるために労働者と認められず、労働基準法等に基づく権利行使ができないという問題が生じることが少なくありません。裁判所は、契約書のタイトルが「業務委託契約書」なのか、それとも「雇用契約書」なのかどうかではなく、実質的な面から労働者かどうかの労働者性を判断します。そのため、判例では、「業務委託契約書」という記載に基づき業務を受けていた場合でも、労働者性を認めて労働基準法等の適用を認めたものがあります。そこで、本記事では「労働者性」について、以下の点を中心に弁護士が解説します。
「労働者性」とは、ある人の仕事について、労働基準法・労働契約法等の「労働者」にあたるとして、労働関係法令が適用されるか否かの問題をいいます。まず、労働者性を判断することにどのような意味があるか、及び業務委託契約者やフリーランスと扱われている場合でも労働者性が認められる場合があるかについて解説します。
ある業務に従事している人が法律上「労働者」と認められるか否かを判断することが重要なのは、「労働者」と認められれば、労働者を保護する目的で定められた以下のような法令の適用を受けるためです。
| 労基法第32条 | 法定労働時間(原則1日8時間・週40時間) |
| 労基法第34条 | 休憩時間の付与(労働時間が6時間を超える場合45分以上、8時間を超える場合1時間以上) |
| 労基法第39条 | 一定期間以上雇用されている労働者に対する年次有給休暇付与義務 |
| 労基法第37条1項 | 法定労働時間を超える労働時間に対する割増賃金支払義務 |
| 労基法第37条4項 | 深夜・法定休日に労働させた場合の割増賃金支払義務 |
| 労基法第89条3項の2 | 退職金制度を定める場合の就業規則への関連事項記載義務 |
| 労災補償保険法 | 業務中及び通勤途中の災害により死亡・負傷した場合の補償を受ける権利 |
| 労基法第20条1項 | 30日以上前の予告または賃金30日分の解雇予告手当支払義務 |
| 労働契約法第16条 | 解雇権濫用(客観的合理的な理由・社会通念上の相当性を欠く解雇)の禁止 |
| 労基法第3条 | 労働者の国籍・信条・社会的身分を理由とする解雇の禁止 |
| 男女雇用機会均等法第9条2項・3項・育児介護休業法第10条・第16条 | 妊娠・出産を理由とする解雇、育児休業・介護休業の申し出をしたことを理由とする解雇の禁止 |
| 労働組合法第7条1項 | 労働組合の組合員であること、組合加入・結成等を理由とする解雇の禁止 |
従業者側からみれば、「労働者」と認められることで、労働基準法その他の法令に基づく様々な権利行使が可能になります。一方、会社側からみれば、労務管理コストや残業代支払い等の負担が生じることを意味します。
昨今、働き方が多様化する中で、プラットフォームワーカー等のフリーランスワーカーの労働者性が認められるか否かが問題となっています。プラットフォームワーカー(プラットフォーム労働者)とは、デジタルプラットフォームを介して、企業や個人に労務を提供する働き方をする人を指します。ウーバーイーツ等のフードデリバリーサービスや、クラウドワークス等のクラウドソーシングサイトで仕事を受注する人等がこれに該当します。プラットフォームワーカーの中でも、単発の仕事を請け負う働き方をする人はギグワーカーと呼ばれます。
フリーランスとして働く人は、個人や企業との間で雇用契約とは異なる「業務委託契約」を締結しています。「業務委託契約」は、請負契約(民法第632条)、委任契約(同第643条)、準委任契約(同第656条)を総称したものです。業務委託契約に基づいて就業する人は、原則として「労働者」に該当しません。
しかし、契約形態が業務委託契約であるから絶対に労働基準法等の適用を受けない、というわけではありません。フリーランスであっても、後述する「労働者性」の判断基準に照らして、業務委託者との間で使用従属関係があると認められる場合があります。業務委託者との間で使用従属関係が認められる場合には、労働基準法上の「労働者」として、残業代請求や不当解雇に基づく賃金請求、労災申請等ができる可能性があるのです。
言い換えれば、契約書の記載が「雇用契約書」ではなく「業務委託契約書」であっても、契約の内容次第では雇用契約として扱われ、従業者の法律上の立場は個人事業主(受託者)ではなく労働者となります。裁判所は、労働者性の判断につき、実質的な観点から判断すると考えて下さい。
ここではまず、「労働者」とはどのような人を指すか、労働者にあたるといえるための判断基準について解説していきます。
法律上、「労働者」の定義には、大きく分けて労働基準法上の定義と、労働組合法上の定義があります。裁判や労働審判、労働基準監督署の行政処分等で「労働者性」が問題になる場合、労働基準法の「労働者」の定義に基づいて判断されます。
労働基準法第9条は、同法の適用を受ける「労働者」は「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています。
労働基準法の「労働者」にあたるといえるためには、次の2つのいずれにも該当していることが必要です。
上記①②を合わせて「使用従属性」と呼びます。労働基準法の「労働者」の定義は、労働契約法・雇用保険法・男女雇用機会均等法等の「労働者」と同じであると解されています。
一方、労働組合法の「労働者」は、「職業の種類を問わず、賃金や給料、その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義されています。労働組合法の定義と労働基準法等の定義の違いは、「使用される」という文言の有無に違いがあります。これは、労働基準法等は「現在、会社等の組織に雇用されて働いている人」への適用を前提としているのに対して、労働組合法は「過去に賃金を受けていた経験があり、将来的に賃金を得て生活する意思のある人」を適用対象とするためです。
労働組合法の「労働者」は、使用従属性を必要としないため、失業者や、業務委託契約に基づいて従業する個人事業主等も含まれる可能性があります。たとえば、個人事業主が労働組合法上の労働者と認められる場合、労働組合を結成して会社と団体交渉すること等の労働組合法上の権利行使ができます。
労働基準法上の労働者には含まれないが、労働組合法上の労働者に該当すると認められた例として、以下の職業が挙げられます。
労働者性の判断基準について、現在は、厚生労働省が1985年に発表した「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」(以下「厚労省S60報告」)が用いられています。厚労省S60報告では、労働者性の判断基準の要素として、以下の3つを挙げています。
まず、他人の指揮監督下において労務を提供していると判断できること(指揮監督関係)が必要です。指揮監督関係の有無は、以下の4つの基準に基づいて判断します。
業務の内容及び遂行方法について具体的な指揮命令を受けていれば、指揮監督関係を認める要素となります。
勤務場所と勤務時間が指定された上で管理されている場合は、指揮監督関係が認められやすくなります。
本人に代わって他者が労務を提供することが認められていない場合は、指揮監督関係を肯定する方向に判断されます。
さらに、「労働の対価として報酬が支払われている」といえるか(報酬の労務対償性)を判断します。「労働の対価として報酬が支払われている」とは、ひらたく言えば「労働の成果ではなく、労務を提供したこと及び、稼働した時間に対してお金の支払いを受けている」ということです。ここでいう「報酬」には、給与に加えて、手当や賞与等、支払われるすべての金銭をいいます。
労働基準監督署や裁判所において労働者性が問題となる場合、ケースによっては上記の指揮監督関係・報酬の労務対償性の基準のみでは使用従属性の判断が難しいことがあります。その場合、「労働者性」の判断を補強する要素として、以下のものが考慮されます。
独立した事業者といえる事情があるかを判断します。事業性が肯定される場合は、労働者性が否定されやすくなります。事業性の有無の判断は、以下の要素に基づいて行います。
業務に必要な機械や器具に関わる費用を負担している場合、事業性を肯定する方向に判断されます。
雇用契約に基づいて同等の業務に従事している者と比べて、受けている報酬額が著しく高額であるといえる場合は、事業性が認められやすくなります。
①・②以外にも、以下のような事情がある場合は、事業性が肯定されやすくなります。
特定の事業者に専属して働いているといえるかを考慮します。他社の業務に従事している場合は、専属性が否定されやすくなります。他社の業務に従事していれば必ず専属性が否定されるというわけではなく、特定の事業者で受けている報酬の金額や内訳、他社業務に従事する時間や頻度、報酬額等を総合的に判断します。
事業者性・専属性以外にも、以下のような事情の有無を考慮します。それぞれ、肯定される場合は労働者性が認められる要素となります。
ここでは、労働者性が問題になることが多い職種別に、労働基準法等の「労働者」に該当するか否かについて解説していきます。
医師に対しても、労働者に該当する場合には労働関係法令が適用され、36協定締結、時間外労働の割増賃金支払義務、解雇規制等が及ぶことになります。医師については以下のような事情があるため、使用従属性の判断が難しい場合があります。
【指揮監督関係の判断を難しくする事情】
・高度の専門性に基づき、業務の遂行に対する裁量権を広く認められている
・勤務時間が厳格に管理されていないことが多い
【報酬の労務対償性の判断を難しくする事情】
・医師が受け取る金銭の名目が「給与」ではなく「報酬」とされることがある
医師の労働者性について、裁判所は、役職名や金銭支払名目等にとらわれず、具体的な事情に照らして使用従属性を判断しているといえます。以下、医師の労働者性が問題となった裁判例を見ていきましょう。
大学病院や総合病院等の勤務医については、ほとんどの場合労働者性が認められています。一方、以下のケースのように、家族が経営するクリニック等の小規模の医院に勤務する医師の残業代請求の可否が問題となることがあります。
母親であるYが経営するクリニックで医師として週5日業務に従事していたXは、Yから「解雇」されたことに対して、未払い賃金の一部の支払いを求めて提訴しました。Yは、以下のような根拠に基づき、Xは労働者にあたらず、労働基準法は適用されない旨主張しました。
これに対して、裁判所は、以下の理由により、XはYの使用従属下で労務を提供していたと認定し、Xは労働者にあたると判断しました。ただし、解雇は有効であるとしてXの請求自体は棄却しました。
医療法人が経営する病院の院長の肩書を持つ医師(いわゆる「雇われ院長」)の労働者性が問題になったケースがあります。
病院の理事長として事実上経営者の立場にあった医師Xが、病院を運営する医療法人Yから「解雇」の通知を受けたことに対して、労働者としての地位の確認等を求めた事件です。本件では、Y法人がXに対して「基本給」の名目で報酬を支払っていたことや、上記の「解雇」通知等の事実が認定されていました。
裁判所は、一般論として「医師としての診療行為は当然に理事長としての委任契約に随伴するものとはいえず、理事の地位とは別に医師としての雇用契約が成立する場合がありうる」という見解を示しました。しかし、以下の事実に基づいて、XY間の指揮監督関係が認められないとしてXの請求を棄却しました。
以前は、研修医は臨床研修という教育プログラムを履修する、学生に準じた立場であるから労働者にはあたらないと考えられていましたが、下記の最高裁判決では、研修医の労働者性が認められました。
研修医Xは、1998年6月1日からY大学で研修医として勤務を始めましたが、同年8月6日に過労を原因とする急性心筋梗塞症で死亡しました。遺族である両親は、Y大学に対して使用者責任等に基づく損害賠償請求訴訟を提起しました。同時に、Xが大学附属病院で支給を受けていたのが奨学金(月額6万円)と宿日直手当(1回あたり1万円)のみであったため、損害賠償請求訴訟とは別に、支給された金額と最低賃金との差額の支払を求めて提訴しました(本件)。
大学側は、「研修医が行う診療行為は「研修」の時間内に行われるため、病院の指揮監督下での労務遂行にはあたらず、研修医に最低賃金法は適用されない」「支払っていたのは給与ではなく奨学金である」等と主張しました。
最高裁は、以下の理由により、Xの遺族の請求を認めました。
※給付型奨学金は、所得税法上非課税所得に該当します。例外的に、法人から給付型奨学金の支給を受ける場合に、給与所得として課税される場合があります。本件では被告の主張通り「奨学金」扱いとすれば源泉徴収されないはずが、実際には源泉徴収されていた点で、労働者性を肯定する事情の1つになったといえます。
一般的なタクシー業の場合、法人タクシーに雇用されて乗務している運転手が労働者にあたることは問題ありません。また、個人タクシーの運転手は個人事業主であるため、労働者に該当しません。
2024年4月から、一部地域で「日本版ライドシェア」のサービスが開始されました。新しい働き方として注目されるライドシェア運転手は、労働者に該当するでしょうか。
ライドシェアとは、一般のドライバーが自家用車を使って、アプリ等でマッチングした利用者を有料で運ぶサービスのことです。日本では、ライドシェアはタクシー事業者が運営主体となり、ドライバーの教育や管理、車両の整備等を行っている点や、営業できるのがタクシーが不足する地域や時間帯に限定される点に特色があります。
ライドシェアの運転手は、タクシー会社に雇用される形での就労が一般的ですが、いわゆる副業で個人事業主として働くケースもあります。タクシー会社に雇用されている運転手は労働者に該当しますが、個人事業主であってもタクシー会社の指揮命令を受けて業務に従事することから、労働者性を認めるべきという意見が強まっています。海外でも、米国や英国、フランス等でライドシェア企業のUberの運転手をUberの従業員と認める裁判例が出ています。
運送業界のドライバーについては、まず、運送業者に雇用され、会社が所有するトラック等の車両を運転して運送業務に従事するドライバーが労働者に該当することについては問題ありません。労働者性が特に問題となるのは「傭車運転手」、つまり、自己所有の車両により、他人の依頼・命令等に基づいて製品等の運送業務に従事する者の場合です。
傭車運転手の労働者性の判断については、厚労省S60報告が示している基準が参考になります。
| 指揮監督関係 | (1)仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無 諾否の自由がある:指揮監督関係の存在を否定する重要な要素 諾否の自由がない:指揮監督関係の存在を補強する一要素にすぎない (2)業務遂行上の指揮監督の有無 ・業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無 運送物品、運送先及び納入時刻の指定は運送業務の性格上当然であるため、これらが指定されていることは指揮監督の有無に関係しない 運送経路、出発時刻の管理、運送方法の指示等がなされ、運送業務遂行が「使用者」の管理下で行われていると認められる場合は業務遂行上の指揮命令を受けていると考えられる ・その他 当該傭車運転手が、契約による運送の他、使用者の依頼・命令により他の業務に従事する場合がある→運送業務及び他の業務全体を通じて指揮監督を受けていることを補強する重要な要素となる (3)場所的時間的拘束性の有無 勤務場所・勤務時間が指定、管理されていないことは指揮監督関係の存在を否定する重要な要素となるこれらが指定、管理されている場合も、業務内容から必然的に必要となる場合もあり指揮監督関係の存在を肯定するひとつの要素となるに過ぎない (4)代替性の有無 他の者が代わって労務提供を行う、補助者を使う等が認められている→指揮監督性を否定する要素となる 代替性が認められていない→指揮監督関係の存在を補強する要素となる |
| 報酬の労務対償性 | 報酬が出来高制ではなく時間・日単位で支払われる場合は、金額の多寡に関わらず報酬の労務対償性が強い |
| 労働者性の判断を補強する要素 | (1)事業性(事業者性)の有無 ①業務に必要な機械・器具類の負担 傭車運転手は高価なトラック等を所有しているため、事業者性があるものと推認される ②報酬額 報酬額が同社の同種業務に従事する正規従業員と比較して著しく高額な場合、当該報酬は「事業者に対する運送代金の支払い」と捉えられ労働者性を弱める要素となる(報酬の算定方法によっては、報酬額が著しく高額であっても労働者性を弱める要素とならない場合もある) (2)専属性の程度 ・他社の業務に従事することが制約され、または他社の業務に従事する場合であってもそれが「使用者」の紹介、斡旋等による場合は、専属性の程度を高め、労働者性を補強する要素のひとつとなる場合もある (3)その他 ・報酬について給与所得としての源泉徴収を行っているか、雇用保険の適用対象としているか、服務規律を適用しているか等は労働者性の判断にあたって重要な要素とはならないが労働者性を補強する要素となる |
傭車運転手の労働者性が問題となった主な裁判例として、以下の横浜南労基署事件最高裁判決及び、名古屋高裁判決があります。両事件では、原告運転手の働き方に共通する部分が多い中で、異なる結論が出ています。なお、横浜南労基署事件では、一審は労働者性を認めましたが、控訴審(東京高裁1994年11月29日付判決)では労働者性を否定しました。
| 事件名・判決年月日 | 結論 | 労働者性の考慮要素 (〇:肯定要素 △:判断困難 X:否定要素) |
| 横浜南労基署事件 最高裁第一小法廷1996年11月28日付判決 | 労働者性を否定 | (1)諾否の自由:専属的に被告会社の運送業務に携わっていたため運送係の指示を拒否できなかった(〇) (2)指揮監督の有無:業務遂行に関する指示は原則として運送物品、運送先及び納入時刻に限定(△) 運送以外の仕事が指示されることがなかった(X) (3)拘束性の有無:始業時刻・終業時刻は定められていなかった(X) 運送係の指示内容によって事実上決定されていた(〇) (4)事業者性の有無:トラックの購入代金、ガソリン代、修理費、運送の際の高速道路料金等をすべて原告が負担していた(X)報酬は出来高払い制でトラックの積載可能量と運送距離によって定まる運賃表に基づいて決定(X) (5)その他:所得税の源泉徴収、社会保険、雇用保険の保険料の控除はされておらず報酬を事業所得として確定申告していた(X) |
| 名古屋高裁2014年5月29日付判決 | 労働者性を肯定 | (1)諾否の自由:専属的に被告会社の運送業務に携わっていたため諾否の自由なし(〇) (2)指揮監督の有無:配送先、積載量、配送時間についての指示はあったが運送経路、休憩場所、有料道路使用の有無等は運転手の判断に任せられた(X) (3)拘束性の有無:勤務場所及び勤務時間が指定されていた(〇) (4)事業者性の有無:トラックの購入代金、ガソリン代、修理費、運送の際の高速道路料金等をすべて原告が負担していた(X)報酬は出来高払い制で会社が作成した運賃表に基づいて決定(X) (5)その他:被告会社が原告を社会保険に加入させていた(〇) |
サービス業の中で大きな割合を占める飲食業、アパレル業、美容師業の従業員についても、会社に雇用される働き方に加えて、フリーランスの割合が増加しています。前述のように、フリーランスで働く場合であっても、使用従属性が認められれば労働者に該当します。
飲食業界の従業員のうち、飲食店や飲食店を経営する企業に雇用されている従業員は、正社員・パート・アルバイト等を含め労働者に該当します。一方、業務委託によって調理・接客・清掃等の業務に従事している場合は、原則としては労働者にあたらないものの、実際の就業形態によって労働者性が認められる可能性があります。飲食業界では、調理以外の業務(接客・清掃等)は雇用された従業員が行うことが一般的です。これに対して、調理業務については、専門性や裁量の程度の大きさ等から、業務委託による場合があります。中には、調理技能とインテリアデザインの企画等の能力を兼ね備えたシェフが、オーナーとの業務委託契約に基づいてレストランの経営を任されているケースもあります。
業務委託によって調理業務やサービスの企画等を行うシェフの場合、次のような事情があれば、労働者性が認められる可能性があるでしょう。
現在アパレル業界では、デザイナー、パタンナー、バイヤー、販売員等、アパレル業界専門のフリーランスエージェンシーやマッチングサイトを通して業務委託を行うケースが増えています。契約が業務委託であっても、勤務時間や場所が指定され、行う業務に対して会社から詳細な指示が出ている等の事情がある場合、労働者性が認められる可能性があります。
なお、アパレルメーカーや小売店に雇用されている従業員が労働者に該当することは問題ないのですが、アパレル会社が雇用契約に基づいて業務を行う従業員に対して、自社の服を自己負担で購入する義務を課すことは、労働基準法第24条に違反する疑いがあります。
これに対して、業務委託の場合は同様の義務を課しても、原則として違法ではありません。このことから、業務委託契約の従業員に対して、自社の服を自己負担で購入することが義務づけられている場合、従業員の働き方の態様によっては、労働者性を主張して労基法違反による損害賠償請求等を請求できる可能性があります。
美容師業界の従業員の場合、美容室または美容室を運営する会社に雇用されて従業する美容師は、通常労働者に該当します。ただし、以下の裁判例のように、指揮監督関係が否定される事情が多いケースでは、労働者性が否定される可能性があります。
交際関係があるY(会社代表)の名義で賃借した店舗で美容室を開業したXは、Yと不仲になり、YはXとの契約を解除するとともに、店舗の賃貸借契約を解除してXに立ち退きを要請しました。Xは店舗から退去する直前から、シェアサロンを借りて旧店舗とは別の商号を用いてカット等の業務を行いました。Xは、Yに対して雇用契約上の地位確認を求めて提訴しました。
裁判所は、以下の要素を考慮して、Xは労働者に該当しないと判断しました。
(以下、〇:肯定要素 △:判断困難 X:否定要素)
①Xは、特段Yに指示を仰ぐことなく業務をこなしていた(X)
②YからTというアプリを用いて顧客の予約状況を管理するよう提案を受けて従っていたが、これが指揮命令を基礎づける事情とはいえない(△)
Xは、予約が入っていないときは美容室から外出することもある等、自由に行動していた(X)
①Yから毎月一定額の給与を支給されていたが、残業や欠勤の際に報酬が増減した等の事実はなかった(△)
②給与は給与所得として源泉徴収及び雇用保険料を徴収されていた(〇)←「これをもって他の事情から得られる推認を覆すほどの強い事情とまではいえない」と判示
①Xは美容室を開業するにあたり、もともと経営していた美容室からシャンプー台、受付用テーブル、ソファ等の一定の物品を持ち込み、椅子、鏡等の新規購入費用を負担していた(X)
②Yに店舗からの退去を求められる前後を通じて、独自の称号を用いて他の場所で営業を行っていた(X)
①X・Yが交際関係にあったことから、通常の雇用契約に想定される面接、採用等の手続がなく、就業規則や服務規律、退職金制度、福利厚生の有無等の定めも一切なかった(X)
②上記についてXが不満を訴えた事情もない(X)
美容業界や整体・リラクゼーション業界の仕事は、個人でのサロン開業も可能である等独立性があるため、働き方によっては労働者にあたるか否かが問題となります。
まず、治療院やサロン(またはそれらを運営する会社)に正社員またはアルバイトとして雇用されている場合は、労働者に該当します。一方、独立して治療院やサロンを開業している場合は労働者に該当しません。労働者性の判断が難しくなることがあるのは、業務委託契約により治療院やサロンで終業する場合です。
リラクゼーションサロン経営等を業とするY社の運営する店舗で、整体やリフレクソロジー等の施術等の業務に従事していたXらは、XらとY社の契約は業務委託契約ではなく雇用契約であると主張して、Y社に対して、未払いの時間外割増賃金及び遅延損害金の支払い、及び同額の付加金の支払いを求めて提訴しました。
大阪地裁は、以下の各要素を考慮して、Xらの労働者性を肯定し、時間外割増賃金及び付加金の請求を認めました。
Xらは、顧客からの業務依頼を自由に断れるわけではなかった(〇)
①Xらは研修を受けることが義務づけられ、発注者が求める水準のサービスを提供する必要があった(〇)
②発注者に対して、各日の売上、顧客数、リピート顧客の数、顧客の性別、作業状況等について詳細な業務報告をしていた(〇)
①契約書に「委託時間は1日8時間~10時間を目途とする」と記載され、送付されたハンドブックにも「10分前出勤を徹底」「休憩は8時間勤務で1時間」「(※休憩中でも業務に入らなければいけない場合あり)」等の記載があった(〇)
②店舗はスタッフ不足を理由とする閉店ができないため、スタッフ間で休日の希望日が重なれば、業務に従事せざるを得なかった(〇)
③2人体制の日にシフトで割り当てられた業務時間中の中抜け(休憩や私用等の都合で一時的に業務から外れること)が困難だった(〇)
④配置されているスタッフの休日希望日が重なった場合に、(他店からの従業員に勤務してもらう等の)スタッフが自由に休む体制が構築されていなかった(〇)
⑤出勤簿において出退勤時間を報告していた(〇)
⑥契約書において、業務従事場所である店舗が定められていた(〇)
報酬は歩合制であったが、1日あたりの最低保証額が定められており、従業時間が8時間に満たない場合には減額されていた(〇)
①店舗はYが賃借しており、施術に必要な設備や道具類はすべてYから提供を受けていた(〇)
②報酬は最低保証額であって最低賃金を下回るものであり、Yの他の従業員と比較して高額ではなかった(〇)
①業務委託契約を締結した者と労働契約を締結した者とで、従業時間の管理や報酬、評価制度の有無等で異なった取扱いがされていた(X)
②業務委託契約を締結した者の契約書に「遅刻」や「始末書」等、労働契約を前提とした文言が記載されていた(〇)
ここでは、前章でご紹介した職種以外の職種で、労働者性の有無が争われた裁判例をご紹介します。
アイドルタレントの労働者性が認められ、マネジメント会社による違約金請求が棄却されたケースです。
芸能マネジメント会社であるX社がマネジメントする男性アイドルグループのメンバーであった被告Yは、同社との専属マネジメント契約の解除を通知してグループを脱退しました。XY間の専属マネジメント契約には、「Yが契約に違反した場合、違約金として1回につき200万円を支払う」旨の条項がありました。
X社はYに対して、当該違約金条項に基づいて、違約金1,000万円から未払い報酬11万円を控除した989万円を請求しました。Yは、就業形態に照らして労働者に該当すること、及び違約金条項は労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定することを禁止した労働基準法第16条に違反すると主張しました。加えてYは、労基法第37条1項に基づき未払い残業代を請求する反訴を提起しました。
大阪地裁は、以下の事情を考慮して、アイドルタレントYの労働者性を認めてX社の請求を棄却しました。また、Yの反訴の請求を認めてX社に対して未払い残業代の支払いを命じました。
①X社は、アイドルグループのメンバーに対して、可能な限り調整して仕事を受けることを要望されていた(〇)
②契約上、YはX社の推奨するレッスンを受けなければならないとされていた(〇)
③Yは、X社の代表者から依頼を受けたAから、具体的な指示を多数受けていた(〇)
④契約上、「Yは契約期間中X社の指示に従い芸能活動を誠実に遂行するもの」とする義務が課せられており、これに違反すると200万円の違約金を支払わなければならない」とされていた(〇)
Yは、Y代表者の息子Bを通じて、またはAから直接、活動内容について具体的な指示を受けており、指示に従わなければ違約金を支払わされるという状況にあった(〇)
YのスケジュールはBによって決められており、Bは「アイドルグループの知名度アップにつながる仕事であれば、基本的に仕事を断らない」という方針であったため、仕事と私用が重なる場合にはできる限り仕事を優先することがメンバー間で了解事項となっており、スケジュール通りの行動を要請されていた(〇)
Yはアイドルグループのメンバーとして芸能活動をしていた(〇)
X社からYに対して固定給が支払われていた(〇)
報酬額は、在籍期間が長くなるにつれて漸次増額されていた(〇)
①契約上、Yが諸経費を負担することとされていたが、実際にはX社が負担していた(〇)
②契約上、交通費はX社が負担することになっていた(〇)
①契約上は、副業・アルバイト等は事前の届出があれば可能であるとされていたが、実際にはスケジュール的に困難だった(〇)
②固定給が支払われており、生活保障的な要素が強かった(〇)
幼稚園の園長が、労働契約法上の「労働者」に該当するとされた事件です。
私立幼稚園の教諭であったXは、2009年4月にY園の園長に就任するとともに、Y園の理事・評議員にも選任されました。2017年11月に、Y園の当時の理事長から「来年度は契約を更新しない」旨を伝えられたため、Xが労働契約上の地位の確認を求めて提訴しました。一審(横浜地裁2020年2月27日)は、Xは労働者に該当するとしてXの請求を認めたため、Y園が控訴しました。
東京高裁は、以下の事情を考慮してXの労働者性を認め、Y園の控訴を棄却しました。
①Xは、幼稚園の予算や職員の人事について、常に理事長または理事会の承認を得る必要があった(〇)
②園長は、現場の責任者として相当の裁量をもって独立して事務を処理することが可能だった(△)
←「しかし労働者である現場の責任者が一定の裁量を持って日常業務を行うことは通常考えられることであり、園長として一定の裁量を有していたことは、労働契約の存在を直ちに否定する事情とはならない」と判示
①契約書に勤務場所や勤務条件の記載があり、実態と異ならなかった(〇)
②勤務場所は当該幼稚園と指定され、Xは他の職員と同様の勤務時間の拘束を受けていた(〇)
①XはY園から固定残業手当及び賞与名目の金銭の支給を受けており、報酬の支払い形態等について他の従業員の賃金と大きく異なる点はなかった(〇)
②報酬から源泉徴収及び社会保険料が控除されていた(〇)
①XY間で1年ごとに取り交わされた契約書等は、表題が「雇用に関する契約書」「労働条件通知書」「雇用契約書」であり、雇用契約を前提とした表現が使われていた(〇)
②上記につき、Xや歴代延長、Y園関係者いずれからも別段の違和感や疑念を持たれたことを窺わせる事実はなかった(〇)
参照
厚生労働省「労働者性に関する主要な裁判例集」
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001483497.pdf
労働者性が認められるのは、雇用契約に基づいて労務を提供している従業員だけとは限りません。裁判所は、契約書の記載が「雇用契約書」か「業務委託契約書」かという形式面よりも、指揮命令下にあったか否か等の実質的な側面から労働者性を判断します。業務委託を受けている場合も、就業の形態によっては使用従属性が認められることがあります。また、逆に、労働者だと思い契約形態を意識せずに働いていて会社とトラブルになり、後から契約書を見たら雇用ではなく業務委託だったというケースもあります。
労働トラブルでは、労働者性が認められるか否かが重要な意味を持つ一方、その判断には専門知識が必要です。適切に対処するために、我々弁護士に相談することをおすすめします。「そもそも労働者にあたるかどうか」が問題となるトラブルについて、弁護士に相談することには、次のようなメリットがあります。
労働者性の判断は難しく、同じ職種であっても労働者性が認められるか否かは個別の事情により異なります。弁護士に相談することで、判例や業務経験に基づいて、相談者様が「労働者」に該当する可能性について、的確に判断してもらうことができます。
労働者性が問題になるケースでは、残業代や不当解雇のバックペイ等の請求の可否が争われることが多いですが、可能な請求は個別の事案により異なります。また、労働者に該当する可能性が低い場合でも、債務不履行や不法行為に基づく損害賠償請求等、何らかの請求ができる可能性があります。弁護士に相談することで、労働者性を主張できる場合とできない場合でそれぞれどのような請求が可能であるか、的確に判断してもらうことができます。
労働者性を主張して残業代等を請求する場合、主張を証明できる証拠を揃える必要があります。しかし、従業員が単独で証拠を揃えることは非常に難しいといえます。また、労働者性が問題となる場合は、労働者性についての証拠も収集しなければなりません。弁護士に相談することで、労働者性と請求それぞれの証明にはどのような証拠が役立つか、それらはどのように収集するか等について、詳しく教えてもらうことができます。また、会社側が保持している証拠の開示請求等、適宜証拠収集のサポートも受けられます。
会社に対して残業代等の請求を行う場合、請求書類を内容証明で会社宛てに送付した上で、請求を認めてもらえるように交渉する必要があります。しかし、従業員本人が、労働者性の根拠を主張して請求を認めてもらうことは困難です。会社が交渉に応じてくれないことも多く、また顧問弁護士に依頼して一方的に請求を拒否される可能性もあります。弁護士に相談することで、対等な立場で冷静に交渉することができます。
ウカイ&パートナーズ法律事務所では、初回30分無料で法律相談をお受けしています。業務委託や単発請負等で働く方が、報酬や契約解除等のトラブルに遭った場合や、契約内容と実際の業務内容の違いに違和感を持った場合等、お困りのことがありましたら、お気軽に当法律事務所の無料相談をご利用ください。
近年では、ライドシェアやフードデリバリー等、従来の枠組みでは労働者性の判断が難しい職業や働き方が増えています。また、専門性が高く業務の裁量の幅が大きい職種でも、働き方によって労働者性が認められるケースと認められないケースがあり、その判断には専門知識が必要です。企業側は、残業代や社会保険等の負担を避けるために、契約の名目を業務委託にすることが少なくありません。たとえ契約時に契約内容について合意していたとしても、労働者性を主張して残業代や不当解雇等を主張することは可能です。トラブルがあった時に「業務委託契約だから何も言えない」と諦めたりせず、弁護士に相談することをおすすめします。
ウカイ&パートナーズ法律事務所では、所属する弁護士全員が、労働者性の判断や使用者・業務委託者の行為の適法性を検討・判断した上で、とりうる対処法について懇切丁寧にお答えします。当事務所では、初回30分無料で法律相談をお受けしています。業務委託者やプラットフォーム業者との賃金、契約解除等のトラブルでお困りの方は、ぜひ当事務所の無料法律相談をお申込みください。
