
「外資系銀行に勤めているのですが、リストラで退職勧奨を受けました。もともと転職を考えていたので退職には合意するつもりです。ただ、外資の場合すぐ退職合意書にサインすると色々不利になると聞いたことがあるので、一度考えさせてくださいといって保留しました。退職合意書に書いてある退職条件が良いのか良くないのかわからないのですが、どのように判断すればよいでしょうか?」
「外資系のコンサルティング企業で、退職勧奨を受けてパッケージを提示されたのですが、提示額が少なすぎて納得できません。会社側が強圧的なので増額してほしいといいづらいのですが、弁護士に代わりに増額交渉をして欲しいです。」
当法律事務所において、我々弁護士は、このように、外資系企業で退職勧奨を受けた方から、退職条件やパッケージについての相談を頂くことが増えています。パッケージは解雇制限の厳しい日本で合意退職成立を目指す手段となっていますが、制度が会社ごとに異なるため、対処に迷う方が多いのではないでしょうか。
本記事では、外資系企業の「退職パッケージ」について、以下の点を中心に弁護士が解説します。
外資系企業の退職パッケージとはどのような制度でしょうか。ここでは、まず外資系企業に退職金制度がない理由や、パッケージを含む「外資系企業で退職金制度の代わりにある制度」について解説していきます。
外資系のパッケージの金額について法律上の決まりはありませんが、賃金の3か月分~1年6か月分程度が相場といわれています。金額を決定する要素は、未払い賃金等の客観的なものから、その会社で働き続ける意思等の主観的なものまで様々なものがあり、交渉次第で変動する可能性があります。
会社側が提示するパッケージの金額には、次のような事情が反映されます。
労働者側にパワハラがあった、能力が著しく不足している等、会社を辞めてもらうための正当な理由の有無や程度は、パッケージの金額に影響することがあります。仮に、正当な理由がないのに解雇した場合、労働者側から解雇時に遡った賃金相当(バックペイ)の請求が可能です。このことから、正当な理由がない状況で退職勧奨する場合は労働者側が増額交渉しやすくなります。
会社側がその従業員を辞めさせたい意向が強い場合ほど、パッケージの金額は高くなります。ただし、業績不振でリストラを余儀なくされている場合等は、従業員の要求通りの提示を望めない可能性があります。
外資系企業においても、通常の退職金と同様、勤続年数や退職時の年収が金額に反映されます。ただ、外資系企業の退職勧奨を受けている弁護士の肌感覚としては、外資系企業の退職勧奨におけるパッケージの提示額に勤続年数が必ずしも反映されていないと感じております。
未払いの残業代や、備品の立替費用等がある場合には、その金額がパッケージの金額に反映されます。特に、外資系企業の場合、年俸制の方で残業代の支払いがない方がいます。この場合、我々弁護士は、退職に伴うパッケージの交渉とは別に、残業代の請求をします。
外資系の退職勧奨パッケージは、交渉次第で金額が変動します。ここでは、パッケージを増額してもらうための交渉ポイントをご紹介します。
解雇の場合は会社都合退職扱いとなりますが、退職勧奨についても会社都合退職扱いとして扱われるように交渉します。なお、ハローワークが公開している会社都合退職の該当基準において、「事業主から直接もしくは関節に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者」が会社都合退職扱いとなることが明記されています。退職勧奨を受けた原因が専ら従業員側の問題にある場合であっても、会社から退職を働きかけている場合は、会社都合退職となることが多いです。
退職金の金額は、会社都合退職のほうが上乗せされることが多いです。しかし、早々と自主退職に応じてしまうと、自己都合退職扱いされる可能性があるだけでなく、パッケージの提示すら行われない可能性があります。
パッケージの交渉にあたっては、容易に退職に同意しないことが前提となりますが、退職する場合は会社都合退職扱いになるよう要求することが大切です。
会社側がパッケージを提示する際に、パッケージの一部として「ガーデンリーブ」が提案される場合があります。ガーデンリーブとは、退職前の就労免除期間をいいます。ガーデンリーブの制度については、労使の合意に基づいて就業規則や雇用契約書等の労働条件を示す書類に記載されています。
ガーデンリーブの期間は3か月~6か月が相場とされています。雇用関係は継続しているため、この期間に転職することはできません。ただし、情報収集やスキルアップ等、転職の準備は可能です。労働者にとっては働かずに給料をもらえる期間なので大きなメリットがある反面、最新の企業情報へのアクセスができなくなるためにスキルが陳腐化する可能性や、ガーデンリーブ期間の給料が出る分パッケージの金額が減る、禁止事項によって転職活動が制限される等のデメリットもあります。
そこで、会社がガーデンリーブを提案してきた場合、できるだけ不利な条件がなくなるよう交渉することをおすすめします。ガーデンリーブについて詳しくは、以下をご参照ください。
このように、外資系企業のパッケージは、退職させたい従業員を説得する材料として会社が提示するものです。そのため、パッケージ交渉時に以下のような行動はとらないようにしましょう。
最もとるべきでない行動は、退職届や退職合意書に即時にサインすることです。すぐに退職に同意して書類にサインしてしまうと、「退職を促すためにお金を払う必要がない」とみなされて、パッケージの提案すらされなくなる可能性があります。また、退職勧奨を受けての退職が会社都合退職扱いになることが法的に認められているにもかかわらず、自己都合退職扱いにされてしまうおそれもあります。
会社側から突然面談に呼び出されて「まずこれに署名してください」等と要求された場合は、必ず「一度持ち帰って退職条件を検討したい」旨を伝えて態度を保留することをおすすめします。退職条件に問題がない場合のみ、翌日以降に退職合意書にサインするようにしてください。
退職届や退職合意書への署名は保留したとしても、最初に「退職自体には同意できるが、条件に納得できない部分がある」旨を伝えると、増額交渉には不利になってしまいます。退職に同意しているのであれば、退職を促すためにパッケージを大幅に増額する必要はないと思われてしまうからです。書類へのサインだけでなく、退職の意思についても最初は保留することをおすすめします。
自ら転職を希望して、あるいはPIP等の流れで退職勧奨が見込まれるとして、在籍中に転職活動を行うこと自体は問題ありません。しかし、退職勧奨を受けた際に転職活動の状況を報告することは避けてください。なお、全く転職活動をしていない場合に、その旨を伝えることは問題ありません。
パッケージの金額を最初に提示される前に希望額を伝えることも、交渉では避けるべきです。自ら希望額を切り出してしまうと、その額が会社の当初の提示予定額よりも少なかった場合は「増額しなくてよい」と判断され、本来支払可能だった金額よりも少ない額で決まってしまいます。提示予定額と同程度であった場合や、数万円多い程度であった場合も同様です。会社側の提示を待って、同意するか同意しないかを判断するようにしましょう。
日系企業では、一定以上の勤続年数があれば、懲戒解雇等の例外的な場合でない限り退職金が支払われるのが通常です。しかし、外資系企業では、日系企業のような退職金の制度がない会社が大半です。
なお、会社の退職金制度の有無については、労働条件通知書と就業規則に記載されています。労働条件通知書の場合、「賃金」の欄に昇給、賞与等とともに「退職金」の項目があることが多いです。また、就業規則では、退職金制度がある場合は退職金に関する条項が見つかります。ただし、支払条件等の詳細については、別途定められた「退職金規程」を参照する必要があります。
外資系企業の場合でも、労働条件通知書の退職金の項目の「有」にチェックがある、及び就業規則に退職金に関する条項がある場合には、退職金が支給される可能性があります。
大多数の外資系企業に退職金制度がない理由として、以下が挙げられます。
日系企業では、長きにわたり新卒から定年まで雇用して年功序列で人事評価を行う仕組みがとられてきました。このように終身雇用を前提とする日本企業では、「会社に対する長期にわたる貢献を労い、老後の生活を保障する」目的で退職金制度が存在します。退職金の金額も、勤続年数が長いほど多くなるのが通常です。
これに対して外資系企業では、転職を繰り返しながらキャリアアップしていくことが前提になっているため、一つの会社での勤続年数を高く評価する考え方がありません。従って、同じ会社に長期間勤めた人を優遇する退職金制度は、外資系企業の雇用慣行には適合しません。退職金制度を設けたとしても、支給要件となる一定以上の勤続年数を満たす人は多いとはいえないでしょう。
外資系企業は、昇進や昇給が成果主義に基づいて行われます。成果を上げるほど賃金も上昇するため、日系企業の定年退職者の退職金相当の金額を20代~30代で稼ぐ人もいます。同じ企業で長く勤めた人ではなく、短期間で会社に利益をもたらした人が評価されるシステムの中では、成果によってプラスされる給料に、退職金の分も含まれていると考えることができます。
また、外資系企業に勤める人が、日本的な退職金中心の老後資産形成の考え方をとっていないことも、外資系企業に退職金制度が存在しない理由となっていると考えられます。
近年変化がみられるものの、日本では、定年退職時の退職金を老後の生活資金にあてるという考え方が一般的です。一方、外資系企業に勤める人は、現役時代から給料の一部を貯蓄や資産運用に回して、自力で老後資金を蓄えていく必要があります。
日系企業の労働者と外資系企業の労働者の間での老後の資産形成に対する考え方の違いは、資産形成に対する姿勢にも表れています。日本銀行が2024年8月に公表した「資金循環の日米欧比較」の図表2「家計の金融資産構成」を見ると、日本の1人当たりの金融資産の割合は「現金・預金」が半分以上を占めており、投資信託や株式等の割合が米国・ユーロ圏と比べて大幅に少ないことがデータ上明らかになっています。国・地域による違いはあるものの、概して海外では貯蓄以外の手段による資産形成を積極的に行う人が多いといえるでしょう。
| 日本 | 米国 | ユーロ圏 | |
| 現金・預金 | 50.9% | 11.7% | 34.1% |
| 投資信託 | 5.4% | 12.8% | 10.6% |
| 株式等 | 14.2% | 40.5% | 21.5% |
| 保険・年金・定型保証 | 24.6% | 27.7% | 28.7% |
参照 日本銀行「資金循環の日米欧比較」2024
https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjhiq.pdf
外資系企業には日系企業のような退職金制度は存在しないのですが、老後の資産形成の原資が給料のみというわけではありません。実際には、外資系企業に適合する形で、日系企業の退職金制度の代わりになる制度が用意されています。
パッケージ(特別退職金)は、従業員の自主的な退職を促す際に支払われる金銭です。外資系企業では、成果を上げれば報酬も増える反面、成果を出せない従業員は容易に解雇されてしまいます。しかし外資系企業であっても日本国内では日本の法律が適用されるため、解雇に対しては労働基準法・労働契約法等による厳しい規制を受けます。そこで、適法な自主退職を促す手段としてパッケージの提示が行われます。
ただし、パッケージは退職金と異なり、個々の企業が任意に定める制度です。また、パッケージの金額や、金額に反映される要素も企業によって異なります。外資系企業に就職する際には、パッケージ制度の有無や支払条件等を確認することをおすすめします。
外資系企業で利用できる「退職金に代わる制度」として、パッケージの他には以下が挙げられます。
確定拠出年金(Defined Contribution Plan)とは、加入者が拠出した一定の掛金を運用し、拠出額と運用益との合計で給付額が決まる年金制度です。外資系企業での老後資金対策としてよく利用されています。
確定拠出年金には、個人が加入して運用する「iDeCo(個人型確定拠出年金)」と、会社が運用して運用益を積立金に上乗せして退職時に支払う「企業型DC(企業型確定拠出年金)」があります。
インセンティブ制度とは、従業員が個人目標や企業目標を達成した場合に報奨(インセンティブ)を付与する制度です。外資系企業では、基本給とは別に成果に応じてインセンティブを支給するのが一般的です。上げた成果によっては、支給額が基本給と同程度かそれ以上になる場合もあります。インセンティブを貯蓄や運用に回すことによって、老後資金作りに役立ちます。
RSU(Restricted Stock Units:株式交換単位権付与)とは、会社が従業員に対して、一定期間経過後に一括して、または一定期間ごとに分割して、株式と等価のユニット(交換単位権)を無償で交付する制度です。たとえば、入社時に給与とは別に①自社株300株を3年後に付与する、または②1年ごとに3回に分けて100株ずつ付与するという条件を含めた雇用契約書にサインした場合、①では3年後に300株、②の場合は1年後・2年後・3年後にそれぞれ100株取得することができます。
RSUの付与方式は会社が任意に定められるので、インセンティブ方式で成果に応じて付与する会社もあります。株式の場合はリスクもありますが、外貨での株式投資資産を無償で受けられることは、老後の資産形成の上でも大きなメリットになるといえます。
外資系企業のパッケージも課税対象となりますが、通常退職金と同様の「退職所得」として扱われるかどうかは、名目によって異なります。ここでは、外資系企業のパッケージの税務上の取扱いについて、名目が特別退職金の場合と解決金の場合に分けて解説します。
なお、会社の退職金制度の有無については、労働条件通知書と就業規則に記載されていままず、「特別退職金」の名目で支給される場合は、通常退職金と同様「退職所得」として処理されます。所得税は源泉徴収されますが、他の所得と分離して所得税額を計算します。
退職所得の所得税額は、支給を受ける人が会社に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しているか否かで異なります。同申告書を提出している場合は退職所得の金額に応じた所得税額が源泉徴収されますが、提出していない場合は、一律20.42%(所得税額及び復興特別所得税額)が源泉徴収されます。多くの場合、提出していない方が課税額が多くなるため、必ず会社に申告書を提出しましょう。
なお、会社の退職金制度の有無については、労働条件通知書と就業規則に記載されていま申告書に記載する退職所得の金額は、原則として以下の式により計算します。
【源泉徴収される前の金額ー退職所得控除額※】× 0.5 =退職所得の金額
※退職所得控除額は、勤続年数20年以下の場合と20年を超える場合で、それぞれ以下の式により計算します。
| 勤続年数 | 退職所得控除額の計算式 |
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数 (80万円未満の場合、退職所得控除額は80万円) |
| 20年超 | 800万円+70万円 × (勤続年数-20年) |
なお、1年未満の月数・日数は「1年」に繰り上げます。
【例1】A社に19年11か月勤めた人の退職所得控除額:40万円 × 20年 = 800万円
【例2】A社に20年1か月勤めた人の退職所得控除額:800万円+70万円 ×(21年-20年) = 870万円
「解決金」の名目で支給される場合は、「一時所得」として処理されます。一時所得に対しては源泉徴収が行われないため、労働者自身が確定申告する必要があります。
パッケージが「解決金」の名目で支給される場合、所得と税額は下記の方法で算出します。
一時所得額: 総収入金額 - 収入を得るために支出した金額※ - 特別控除額(最高50万円)
※その収入を生じた後遺をするため、またはその収入を生じた原因の発生に伴い、直接要した金額に限ります。例えばパッケージの交渉を弁護士に依頼した場合の弁護士費用は、これに含まれると考えられます。
一時所得については、上記の方法で算出した所得金額の2分の1相当額を、給与所得等の他の所得金額と合計して総所得金額を求めた上で、納める所得税額を計算します。このため、賃金として支給される場合よりも節税効果が高いといえます。
「賃金」の名目で支給される場合は、給与所得となります。税金については源泉徴収され、社会保険料も控除されます。このため、特別退職金や解決金の名目で支給される場合に比べて、経済的な負担は大きくなるといえます。
参照
国税庁|No.1420 退職金を受け取ったとき
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
国税庁|No.2732 退職手当等に対する源泉徴収
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2732.htm
国税庁|No.1490 一時所得
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1490.htm
パッケージを提示するか否かや、提示する場合の金額については、会社側に決定権があります。また、日系企業の退職金に比べると基準が明確でないため、法的にみて金額が適正かどうか弁護士でも判断が難しいことは否定できません。しかし、退職勧奨を拒否しても執拗に繰り返される場合や、退職勧奨の前に当該従業員に対するパワハラ行為があった場合等、会社側に何らかの違法行為の疑いがある場合、これらを増額交渉の際に主張することが可能です。
退職パッケージ交渉について弁護士に相談することには、以下のようなメリットがあります。
まず、退職勧奨に対して納得できない場合、弁護士に相談することで退職勧奨が違法かどうかを的確に判断してもらえます。弁護士に相談すると相談料がかかりますが、多くの法律事務所では初回の法律相談、または初回法律相談の一部の時間を無料で行っています。退職勧奨の適法性については、無料相談の時間内で判断してもらえる可能性が高いでしょう。
パッケージの増額交渉を労働者本人が行うことは容易ではありません。しかし、パッケージを増額できる根拠が少しでもある場合は、弁護士が介入することで、大幅に増額できる可能性があります。弁護士が代理人として交渉することで、会社側が顧問弁護士に依頼したとしても対等に交渉できます。
また、退職に合意した上で増額交渉したい方にとっては、交渉に時間と労力を費やすよりも、できるだけ早く転職したいところでしょう。弁護士に交渉を任せることで、増額の可能性が高まるとともに、転職活動に専念できます。
外資系企業の退職パッケージは、金額を左右する要素が会社によって異なる上、増額交渉には知識や駆け引きのノウハウも必要となってきます。退職勧奨自体が違法な退職強要にあたる可能性がある場合や、労働者側に会社に残る意思がある場合等は、弁護士の介入によりパッケージを増額できる可能性があります。弁護士に相談する場合は、労働問題に知見があり、かつ外資系企業の労働者側の交渉代理の実績のある弁護士のいる法律事務所へのご相談をおすすめします。
ウカイ&パートナーズ法律事務所では、所属する弁護士全員が、外資系企業の退職勧奨の適法性や、パッケージ増額の可能性等を検討・判断した上で、とりうる対処法について懇切丁寧にお答えします。当事務所では、初回30分無料で法律相談をお受けしています。外資系企業で退職勧奨を受けて対処にお困りの方、退職パッケージを増額できる方法があるかお悩みの方は、ぜひ当事務所の無料法律相談をお申込みください。
