
「就職したときは会社からもOBからも残業がないと聞いていたのに、入社したら毎日遅くまで残業させられていて、退社が終電近くなることもあります。それでも給料の手取りは18万くらいです。残業代を支払ってくれないので転職を考えていますが、転職する場合は今の会社から残業代ももらえずに退職することになるのでしょうか?」
上記の例のように、我々弁護士は、「長時間残業をさせられている、それなのに残業代が出ない」というご相談を頂くことが非常によくあります。会社が法定労働時間を超える労働(時間外労働)をさせる場合は、労使間の協定を締結すること、法律で定められた上限時間を超えないこと、及び割増賃金を支払うことが原則となります。ただし、給与形態や勤務形態によっては、時間外労働に対する割増賃金が発生しない場合もあるので注意が必要です。
本記事では、「時間外労働」、いわゆる残業について、以下の点を中心に弁護士が解説します。
時間外労働、については、会社側が従わなければならないルールが労働基準法で定められています。ここではまず、時間外労働の定義や、前提となる「法定労働時間」について解説します。
労働基準法では、1日及び1週間あたりの労働時間について「この時間数を超えてはならない」とする原則を定めています(法定労働時間)。一方、法定労働時間と似た「所定労働時間」という言葉が使われる場合があります。両者はどのように異なるのでしょうか。
法定労働時間とは、労基法第32条で定められた労働時間をいいます。法定労働時間は、1日あたり8時間、1週間あたり40時間まで(休憩時間を除く)と定められています。従って、会社は法定労働時間を超える時間数の労働時間を所定労働時間として定めることはできません。
労基法第32条の例外として、同法が定める「特定の事業」に該当する事業所で従業員数が常時10人未満である場合については、一週間の法定労働時間が「44時間を超えなければよい」とされています(労基法第40条・労基法規則第25条の2:特例措置)。この「従業員」には、継続雇用されているパート・アルバイト等も含まれます。
同条の特例措置に該当する事業に該当するのは、労基法の別表第1に定められた以下の事業です。所定労働時間とは、企業が事業所ごとに、就業規則や雇用契約書で定めた労働時間をいいます。正社員の場合、1日あたりの所定労働時間を法定労働時間と同じ「8時間」と定めていることが多いですが、8時間よりも短くすることは問題ありません。また、後述する変形労働時間制を採用している場合は、対象期間内の平均労働時間が所定労働時間となります。この場合、平均労働時間が1日8時間・週40時間を超えなければ違法ではありません。
時間外労働とは、法定労働時間を超えた時間の労働をいい、その超過労働分の残業代は請求できます。本来は、法定労働時間を超えて、あるいは法定休日や深夜に働かせることは労働基準法第32条・第35条に違反します。会社が従業員に時間外労働をさせるためには、労働基準法第36条で定められた労使間の協定(36協定)を締結して労働基準監督署に提出する必要があります。
なお、一般的に使われている「残業」という言葉は、厳密には法定労働時間ではなく所定労働時間を超えた時間の労働を指します。ただし、大半の会社では所定労働時間を法定労働時間と等しい時間数に定めているため、事実上は時間外労働と同じ意味になっています。
36協定で定めることができる内容は以下の通りです(労基法第36条2項)。
労使間で書面による協定を締結して労働基準監督署に提出すると、36協定は有効になります。ただし、36協定によって労働者が時間外労働をする義務が発生するわけではありません。36協定締結の効果は、あくまで「時間外労働・休日労働をさせても労働基準法違反にならない」ということに留まるためです。
36協定を締結しても、以下の場合には時間外労働をさせることが法律上禁止されています。
法定労働時間を超える労働時間、及び休日、深夜22時~朝5時の間の労働時間に対しては、使用者は労働基準法第37条各項の定めに従って割増賃金を支払わなければなりません。ここでは、割増賃金の種類、及び時間外労働の上限の原則と例外について解説します。
36協定に基づいて、従業員が時間外労働をした場合には、必ず割増賃金が発生し、残業代を支払う義務が生じます(労基法第37条1項)。賃金割増率については、同条項に示された基準を下回らない範囲で定めた上、就業規則に明示しなければなりません(労基法第89条2号)。
36協定で定めることができる時間外労働・休日労働時間は「月45時間・年360時間」が上限となります(労基法第36条3項・4項)。なお、3か月を超える期間を定めた変形労働時間制を導入している場合は、上限は月42時間、年320時間となります。
労基法第36条3項・4項は時間外・休日労働時間の上限の原則です。しかし、以前はこの上限に違反した場合の罰則規定が存在せず、また条件を明記して例外を認める規定も存在していませんでした。そのため、同条項に違反する過酷な長時間労働が横行し、過労死が社会問題となっていました。2019年4月に施行された「働き方改革関連法」の一環として、労基法第36条3項・4項の上限を超える時間数の時間外・休日労働を例外的に認める労基法第36条5項が新設されました。また、同項違反に対する罰則も定められています。
労基法第36条5項では、「当該事業場における通常予見することのできない、業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に特別の事情がある場合」に前2項の限度時間を超えて労働させることが認められています。この「臨時的に特別な事情」の具体的な内容については、「特別条項付き36協定届」により労基署に提出する必要があります。
同項の「臨時的に特別の事情」については、できる限り具体的に定めなければなりません。これは、たとえば「業務上やむを得ない場合」「業務の都合上必要な場合」等の抽象的な文言を使うと、ほぼ常時この状況に該当すると解釈できることになり、同条を定めた意味がなくなるためです。
「臨時的に特別の事情」として想定できる状況として、おおまかには以下が挙げられます。
労働基準監督署は記載の文言が具体性に欠けると判断した場合は特別条項付き36協定届を受理しないため、実際には下記よりもより具体的な言い回しを用いる必要があるでしょう。
「臨時的に特別な事情」が認められる場合でも、時間外労働や休日労働をさせる場合には、労基法第36条6項で定められた以下のすべての事項を遵守しなければなりません。
つまり、時間外労働と休日労働の労働時間の合計が「月100時間未満かつ年720時間を超えない+2か月~6か月の間で月80時間を超えない+年間6か月以上は月45時間を超えない」という条件が課せられます。これらの1つでも違反すれば、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金刑を科される可能性があります(労基法第119条1号)。
「法定労働時間を超えた労働時間」が1時間に満たない場合や、端数時間分は割増賃金(残業代)の対象になるでしょうか。ここでは、割増賃金を計算する上での時間単位の扱いについて解説します。
割増賃金を計算する上で、労働時間は1分単位で認めなければなりません。これは、労基法第24条が「賃金は、その全額を支払わなければならない」と定めているためです。たとえば残業代を15分単位や20分単位でカウントしている場合、15分ないし20分に満たない労働時間とその対価である賃金を切り捨てることになるため、労基法第24条違反となります。
ただし、1か月単位の時間外労働時間を計算するシステムをとっている会社では、厚生労働省労働基準局の見解に基づき、30分未満の切捨て及び30分以上の切上げを行うことが認められています。これは、1か月単位で時間外労働時間を計算するのが「給与計算作業の簡便化」を目的としたものであり、切捨てだけでなく切上げも行うことから、必ずしも従業員の不利になるとはいえないためとされています。
割増賃金(残業代)の計算は、労基法第37条に従って会社が定めた割増率に、所定時間外労働時間を乗じるのが原則です。ただし、勤務形態によっては割増賃金が生じる「労働時間」のカウントの仕方が原則と異なる場合があります。また、それらの勤務形態をとる会社側の誤解によって、算入すべき時間外労働が算入されない(残業代未払い)問題が起こることもあるので注意が必要です。
割増賃金(残業代)の計算方法の原則は「基礎賃金×割増率×所定時間外労働時間」です。
基礎賃金とは、基本給に「諸手当」を加えた、1時間あたりの賃金をいいます。月給制の場合は、1か月あたりの【基本給+諸手当の額】をその月の所定労働時間数で割って算出します。
諸手当のうち、以下のものは基礎賃金に算入しないことが法律で定められています(労基法第37条5項、同法規則第21条)。
基本給:月32万円
算入可能な手当の合計額:月4万8,000円
1か月の所定労働時間:160時間
基礎賃金:(32万円+4万8,000円) ÷ 160 = 2,300円
割増率は、労基法第37条1項・4項及び政令※1で定められた範囲で会社が規定した数値が、就業規則や労働条件通知書に記載されています。
労基法第37条1項・4項で定められた割増率は、以下の通りです。
※1:平成6(1994)年政令第5号「労働基準法第37条1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令」
※2:法定休日(労働基準法第35条で義務づけられた「週に最低1日以上または4週間あたり4日以上」の休日
なお、法定労働時間を超える労働が深夜や休日に行われた場合は、それぞれの割増分を合算しなければなりません。たとえば、定時が9時~18時(休憩1時間)の事業所で、9時に出社した従業員が23時まで残業した場合は、22時~23時の1時間分については基礎賃金プラス、基礎賃金の50%分の割増賃金が支払われることになります。
法定休日と所定休日の違い等、休日労働についてはこちらの記事をご参照ください。
以下の勤務体系では、労務管理が複雑になるため、割増賃金発生の有無やその時間数についての誤解によるトラブルが生じやすくなります。
変形労働時間制(労基法第32条の2・第32条の4・第32条の5)とは、会社が一定期間の間で総労働時間を決定し、週あたりの平均が40時間となるように各週の労働時間を調整する制度です。
変形労働時間制には、1か月単位・1年単位・1週間単位の3種類があります。ただし、1週間単位の変形労働時間制は、従業員数30人未満の小売業、旅館、料理店、飲食店のみが適用できます。
1か月以内の期間内の平均労働時間が週40時間を超えなければ、特定の日や週に法定労働時間を超える労働時間を定めてもよいとする制度です。1か月の中で繁閑の差がある会社や事業所・部署に適しています。
たとえば、月末に特に業務量が多くなる会社で、営業日が20日ある月の場合、月末の5営業日の所定労働時間を1日10時間と定める場合、その他の営業日の労働時間を7時間20分以内に定めることで、週当たりの平均労働時間を40時間以内にすることができます。
1か月を超えて1年以内の期間において、平均労働時間が週40時間を超えない範囲で労働時間を調整できる制度です。たとえばボーナス時期が繁忙期になる会社で、6月・7月・12月の所定労働時間を1日9時間とする代わりに、閑散期の2月・9月・10月の所定労働時間を1日7時間とする等です。ただし、1年単位の変形労働時間制では1日あたりの所定労働時間10時間以内、週あたり52時間以内の上限が設けられています。
1日あたり10時間、週40時間を超えない範囲で、1日単位で労働時間を設定できる制度です。たとえば土曜・日曜の所定労働時間を9時間とする代わりに、平日を7時間と定め、シフト制で平日2日休みが取れるようにする等です。
①②③いずれの場合も、週あたりの平均労働時間が40時間を超えていなければ、割増賃金は発生しません。逆にいえば、労働時間が8時間未満の期間があっても週平均で40時間を超えていれば、超えた時間数分の割増賃金が発生します。
しかし、変形労働時間制では、以下のようなミスや誤解が起こりやすいため、未払い残業代の発生に気づかないことが少なくありません。
変形労働時間制をとっている会社にお勤めの方で、残業代が出ないことを疑問に思われた場合は、法律事務所の無料相談を利用して弁護士に相談してみましょう。
フレックスタイム制とは、会社側が最大3か月の範囲で「清算期間」と呼ばれる一定期間及びその期間内の総労働時間を設定し、1日あたりの労働時間や始業・終業時刻を個々の従業員が決定できる制度です。たとえば、会社が清算期間1か月・総労働時間168時間と定めた場合、ある従業員のその月の総労働時間が168時間を超えていれば、超過時間分の割増賃金が発生します。
フレックスタイム制は、労働時間について個々の従業員にある程度の裁量権を与えられるため、ワークライフバランスを向上させる効果があります。一方で、日ごと・週ごとの労働時間が従業員ごとに異なるため、従業員本人が毎日の始業終業時刻と労働時間を把握していることが必要になります。特に、変動する頻度が高い場合は超過時間を見落としやすくなるので注意が必要です。
年俸制とは、会社が予め当年度の年間給料を定めておく制度をいいます。年俸制の下では、以下のいずれかの方法で給与が支払われるのが一般的です。
年俸制には、従業員個人の成果次第で翌年度の給料が大幅に上がる可能性があるというメリットがあります。その反面、会社側・労働者側ともに日ごと・週ごとの労働時間の概念があいまいになりやすく、「残業代は発生しない」と思われがちです。また、年俸制とともに後述の裁量労働制や固定残業制が適用されているケースが多いことも、割増賃金(残業代)の発生に気づきにくい原因となっています。
しかし、年俸制をとる場合でも労働基準法の適用を受ける以上、法定時間を超える労働時間に対する割増賃金(残業代)が発生するのが原則です。これは、年俸制に加えて裁量労働制ないし固定残業制を併用している場合であっても同様です。
年俸制の場合の基礎賃金は、年俸額を1年間の総労働時間で割った金額となります。
【例】
年俸600万円、土日祝日+年末年始休み(当年の年間休日数128日)、1日あたり所定労働時間8時間、時間外労働の割増率25%の場合
※諸手当は年俸に含まれるものとする
年間の総労働時間:(365-128)×8=1,896時間
基礎賃金:600万円÷1,896=3,164円(1円未満切捨て)
時間外労働の割増賃金(残業代):3,164円×1.25=3,955円
裁量労働制とは、労使協定で予め定めた時間数を労働時間とみなして賃金を支払う制度です。たとえば、「1日8時間労働したものとみなす」と定めた場合は、実際の労働時間にかかわらず8時間労働したものとみなされます。従って、みなし労働時間が8時間を超えない場合は、時間外労働手当は発生しないことになります。他方、みなし労働時間が8時間を超える場合や、休日・深夜労働に対しては労働基準法が適用されます。
裁量労働制の下では、労働者の裁量で業務遂行手段や労働時間を管理できるため、自由度の高い働き方ができるというメリットがあります。一方で、特にみなし労働時間が8時間を超えない場合、会社側が深夜労働・休日出勤の割増賃金を支払わなくてよいと誤解しているケースが多くあるので注意が必要です。
裁量労働制が適用されている労働者が午後10時~午前5時の間に労働した場合は、基礎賃金×深夜早朝時間内の実労働時間×25%(以上)の割増賃金が発生します。同様に、法定休日に労働した場合は、基礎賃金×法定休日の実労働時間×35%(以上)の割増賃金が発生します。
固定残業制(みなし残業制)とは、毎月基本給に加えて、定額の「固定残業代」を支払う制度です。固定残業制の下での給与支払い方法は、時間外・休日・深夜労働の割増賃金を基本給に組み入れて支払うか、一定額を手当として支払うかのいずれかとなります。
固定残業制をとる会社や事業場では、就業規則に「賃金の計算方法に関する定め」として以下の記載を行い、従業員に周知することが義務づけられています(労基法第89条2号)。就業規則の作成義務がない会社や事業場の場合は、個別の従業員との間での合意が必要です。
固定残業制を適用する従業員に対しても、固定残業代に相当する残業時間を超える時間の時間外労働を行った場合は割増賃金が発生します。
労基法第41条2号は、「監督もしくは管理の地位にある者」(管理監督者)について、労基法の労働時間・休憩・休日に関する規定の適用を除外しています。このことから、課長、店長、マネージャー等一般的に「管理職」とみなされる役職に就いている労働者に対して、同条項を根拠に時間外労働手当を支払わない会社が多くあります。
しかし、厚生労働省の通達※によれば、労基法第41条2号の管理監督者とは、以下のような立場にある者に限定されています。
※2008年9月9日 基発第0909001号 (基発:厚労省労働基準局長名で各都道府県労働基準局長宛てに出された通達)
従って、役職名にかかわらず、上記の基準にあてはまらない場合は「管理監督者」にあたらないので、時間外労働に対して割増賃金(残業代)が支払われなければなりません。
ここでは、時間外労働に関して、「時間外労働時間」として認められるか否かや、割増賃金(残業代)請求が認められるか否かが争われた裁判例をご紹介します。
ビル管理会社従業員の深夜勤務中の仮眠時間に対して、時間外労働手当・深夜労働手当の請求が認められるかが争われた事件です。
ビル管理会社であるY社の従業員Xらは、深夜時間帯の勤務中に仮眠時間を与えられていました。仮眠時間中は、配属先のビルからの外出を原則として禁止され、仮眠室在室や電話接受、警報作動時に必要な措置をとること等が義務付けられ、飲酒も禁止されていました。Y社は仮眠時間について労働時間に算入せず、宿泊勤務手当のみを支給していました。ただし、残業申請をすれば、実作業時間に対して時間外労働手当及び深夜労働手当が支給されていました。
Xらは、Y社に対して仮眠時間に対する時間外勤務手当及び深夜労働手当ないし労基法第37条(当時)所定の深夜割増賃金の支払を求めて提訴しました。
一審はXらの請求を認容しましたが、控訴審は一審を一部変更したため、Xらが上告しました。
最高裁は、以下の理由により、控訴審判決を破棄差戻しました。
「実作業に従事していない仮眠時間(以下[不活動仮眠時間]と表記)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動仮眠時間において、使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価できるか否かにより、客観的に定まる。
本件仮眠時間は、全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労働契約上の役務の提供が義務づけられていると評価できる。このことから、本件仮眠時間は労基法上の「労働時間」と評価されるため、Y社は本件仮眠時間について、労基法第13条、第37条に基づいて時間外割増賃金、深夜割増賃金を支払う義務があると解すべきである。
(判決理由ここまで)
本判決は、以下の点で注目されます。
なお、本件のような仮眠時間を含む深夜の宿直業務については、労働基準監督署の「宿日直許可」を取得していれば労基法第41条3号の「監視または断続的労働」にあたるものとして、通常賃金・割増賃金の支払は不要になります(本件の被告Y社は宿日直許可申請を行っていませんでした)。
月間総労働時間が法定労働時間を超えていても、180時間を超えない限り残業代が出ないという雇用契約内容につき、労働者が自由意思で割増賃金の請求権を放棄したといえるかが争われたケースです。
人材派遣会社Y社の派遣労働者Xは、2004年4月26日、下記の条件のもとに雇用されました。
Xは、Y社を退職する際に、①月間総労働時間180時間を超える労働に対する時間外労働手当の未払い分及び、②180時間以下で法定労働時間を超える分に対する未払い分の支払を求めて提訴しました。一審及び原審は、①についてはXの請求を認めましたが、②に対しては「雇用契約においてXが自由意思で時間外労働手当の請求権を放棄した」として、支払を認めませんでした。
最高裁は、以下の理由により、②についても「Xが自由意志に基づいて時間外労働手当の請求権を放棄したとはいえない」と判断して、判決を高裁に差し戻しました。
本件雇用契約は、基本給を月額41万円とした上で、月間総労働時間が180万円を超えた場合には、その超えた時間1時間につき2,560円を支払い、140時間に満たない場合にはその満たない時間分1時間あたり2,920円を減額する旨の約定を内容とするものである。
この約定によれば、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働が行われた場合でも、基本給自体が増額されることはない。また、上記約定においては月額41万円の全体が基本給とされており、その一部が他の部分と区別されて(当時の)労基法第37条1項の割増賃金とされていた等の事情は伺われない。その上、上記の割増賃金の対象となる1か月の時間外労働の時間は、月によって勤務すべき日数が異なること等により相当大きく変動しうるものである。
そうすると、月額41万円の基本給について、「通常の労働時間の賃金にあたる部分」と同項の規定する「時間外の割増賃金にあたる部分」とを判別することはできないものといえる。
これらのことから、Xが時間外労働をした場合に、月額41万円の基本給の支払いを受けたとしても、その支払いによって、月間180時間以内の時間外労働について割増賃金が支払われたとみなすことはできない。従って、Y社は、Xに対して、月間180時間を超える時間外労働分のみならず、180時間以内の時間外労働についても、基本給とは別に割増賃金を支払う義務を負うものと解する。
労働者による賃金債権の放棄がされたというためには、その旨の意思表示があり、それが当該労働者の自由な意思に基づくことが明確でなければならないと解すべきである。しかるに、本件雇用契約の締結当時、またはその後にXが時間外労働手当の請求権を放棄する旨の意思表示をしたことを示す事情は伺われない。
加えて、上記の通りXの毎月の時間外労働時間は相当大きく変動しうるのであり、Xがその時間数を予測することが容易ではないことからすれば、Xの自由な意思に基づく時間外手当の請求権を放棄する旨の意思表示があったとはいえず、Xが月間180時間以内の時間外労働に対する時間外労働手当の請求権を放棄したということはできない。
(判決理由ここまで)
本件判決は、以下の点で注目されます。
(1)「一定額以内の時間外労働手当が基本給に含まれる」つまり、時間外労働時間が一定の時間を超えるまでは割増賃金を支払わないとする労働条件(約定)の有効性について、以下の判断を示した
(2)労働者が当該約定に同意したことにより月180時間以下の時間外労働に対する割増賃金の請求権を放棄したとみなされるか否かについて、以下の理由により否定した
残業代・時間外労働手当の未払いや、上限規定違反の長時間残業等でお困りの方は、できる限り早く弁護士に相談することをおすすめします。時間外労働、残業代請求のトラブルを弁護士に相談することには、以下のようなメリットがあります。
時間外労働手当は、通常の労働日の法定労働時間を超える時間だけでなく、法定休日以外の休日に出勤した場合にも発生する可能性があります。また、深夜労働や休日労働(法定休日に出勤した場合)に対しては、時間外労働とは別に割増賃金が発生します。しかし、長時間の残業や休日出勤等が頻繁に行われていると、労働者自身が「毎月どのくらい割増賃金が発生しているか」を正確に把握することが難しくなっているかもしれません。
弁護士に相談することで、実際にどのくらい時間外労働手当等が発生していて、それに対してどのくらい未払いになっているかを正確に計算してもらうことができます。
また、労基法第115条により、時間外労働手当を含む「賃金」の請求権は、これを行使できるようになった時点から3年間(2025年4月時点)で時効によって消滅すると定められています。初回の無料相談の段階で、既に時効にかかっている、あるいは時効が迫っている時間外労働手当やその他の未払賃金の有無や金額についても確認できます。
未払いの時間外労働手当を請求する上で、時間外労働手当が発生する労働時間や、未払いの事実について証拠を揃える必要があります。しかし、必要な証拠を労働者が自力で収集することは容易ではありません。給与明細等の書類を紛失していたり、重要な証拠を会社側が保持していることもよくあります。
弁護士に相談することで、必要な証拠の種類や、収集方法について詳細にアドバイスを受けられます。また、会社側が保持している証拠については弁護士が開示請求を行い、会社側が開示しなかった場合は裁判所に対して証拠保全申立てを経て証拠開示命令を出してもらうという手段をとることができます。弁護士のサポートによって証拠収集という壁を乗り越えられれば、解決に向けて大きく前進できるでしょう。
未払いの時間外手当の請求にあたっては、会社側との交渉が必要になります。しかし、労働者本人が交渉して請求を認めてもらうことは困難です。会社が取り合ってくれないことも少なくないほか、顧問弁護士に依頼して一方的に請求を拒否されることもあります。
弁護士に交渉代理を依頼することにより、会社との交渉を対等に行うことができます。
時間外労働に対しては、労働基準法に基づいて割増賃金(残業代)が発生します。しかし、勤怠管理が正確に行われていないことや、変則的な勤務形態に対する会社側の知識不足、あるいは経営悪化などが原因で、割増賃金が発生しているのに支払われないことがあります。
しかし、残業代請求をするためには、時間外労働手当の計算、証拠収集、内容証明郵便送付、会社との交渉等、労働審判・訴訟等、煩雑な作業や手続きを行わなければなりません。弁護士に相談することで、迅速な解決が可能になります。
ウカイ&パートナーズ法律事務所では、所属する全弁護士が、残業代請求に関し、時間外労働の時間数や上限規制違反の有無等を検討・判断した上で、とりうる対処法について懇切丁寧にお答えします。当事務所では、初回30分無料で法律相談をお受けしています。時間外労働のトラブルでお困りの方は、ぜひ当事務所の無料法律相談をお申込みください。
