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年俸制とは?メリット・デメリットや残業代請求の可否を弁護士が解説

2026/06/23(火)

年俸制とは?メリット・デメリットや残業代請求の可否を弁護士が解説

「外資系に勤めていて、給料が年俸制です。繁忙期には毎日終電近くまで働いているのですが、給料は毎月同じ額です。プロスポーツ選手も年俸制で、残業代とか聞いたことがないですよね。それと同じように、会社員でも年俸制では残業代は出ないものなのでしょうか?」

このように、年俸制をとる会社に勤める方から、残業代請求についての相談を頂くことがよくあります。外資系企業を中心に、年俸制を導入する会社が増加していますが、年俸制をとる場合も、会社は労働基準法の労働時間や時間外労働に対する割増賃金の規定に従わなければなりません。つまり、年俸制であっても残業代請求は認められるのです。外資系企業に勤務されている方の多くは年俸制で契約している方が多いですが、我々弁護士が法律相談を受けていると、外資系企業勤務のかなりの方から「年俸制だから残業代は請求できないですよね?」と質問を受けます。

そこで、本記事では、年俸制でも残業代請求が可能である点について、その他の年俸制の解説や判例の紹介も含めて弁護士が説明致します。

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年俸制の仕組み

年俸制とは、従業員の成果や業績に応じて、労使間の合意に基づいて年間給料を定める給与形態のことです。ここではまず、年俸制と月給制との違いや年俸額の決定方法、給与の支払方法を解説します。

年俸制と月給制の違い

月給制も年俸制も、給与が毎月支払われる点では共通しています。これは、労働基準法第24条2項で「賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と規定されているためです。一方、両者は「1か月単位で給与額が変動するか否か」の点で違いがあります。月給制では会社や従業員個人の業績によって月ごとに給与額が定められるため、1か月単位で給与額が変動する可能性があります。これに対して、年俸制では、予め給与額を定めた1年の間は給与額が固定されるため、変動することはありません。

年俸額の決定方法

年俸額の決定方法は会社によって異なりますが、多くの場合次の方法で行われます。

①予め定めた賃金規定や計算式に前年度の評価をあてはめて年俸額を算出する②算出した年俸額を会社が従業員に提示する③会社と従業員の合意に基づいて年俸額を決定する

原則として、年俸額の決定には労使間の合意が必要です。合意を経ずに会社のみで年俸額を決める場合は、就業規則に以下の事項を明記することが求められます。

  • 業務の評価基準
  • 年俸額減額の限界の有無・限界を設ける場合の最大減額割合
  • 年俸額決定に対する不服申立手続の方法

給与の支払方法

ここで、年俸制の場合の給与の支払方法を見ていきましょう。

1.支払方式

年俸制をとる会社での給与の支払いは、一般的に以下のいずれかの方式によって行われています。

  • ①年俸を12で割った金額を1か月分の給与とする
  • ②年俸を16で割った金額を毎月の給与とし、残りの4か月分を賞与として年2回所定の月に支払う
    (例:6月と12月に、年俸を16で割った金額の1か月分を通常の給与、加えて2か月分を賞与として支払う)

支払日については、一定の期日であれば、会社側が定めることができます。

2.賞与の支払いについて

上記の①の支払方式をとった場合、年俸に賞与は含まれません。つまり、賞与は毎月の給与とは別に支給され、年俸額と年間賞与額の合計がその従業員の年収となります。毎月の給与額は年俸の一部なので当年度内は変更できない一方、賞与支給の有無や金額については、業績に応じてその都度定めることができます。

②の支払方式をとった場合は、年俸に賞与が含まれるため、年俸額=その従業員の年収となります。この場合、当年度の賞与支給の有無や金額は変更できません。

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年俸制のメリット・デメリット

年俸制には、月給制とは異なるメリットがある一方、デメリットもあります。以下、順に見ていきましょう。

年俸制のメリット

年俸制には、企業側・労働者側双方にそれぞれメリットがあります。

1.企業側のメリット

企業側にとって、年俸制を導入することにより、以下のようなメリットがあります。

(1)給与計算の労力を減らせる

月給制の場合は毎月給与額が変動するため、各従業員の給料を毎月計算しなければなりません。これに対して年俸制では、あらかじめ毎月の支給額が決まっているため、毎月給与計算をする必要はありません。

(2)経営計画を立てやすい

また、年度初めに当年度の正社員の人件費がほぼ確定することから、経営計画を立てやすいこともメリットとして挙げられます。

(3)生産性・業績向上

年功序列に関係なく、個々の従業員の成果を評価基準とすることで従業員のモチベーションアップが見込めるため、企業としても生産性や業績向上につなげることができます。

2.労働者側のメリット

また、労働者側にも、以下のようなメリットがあります。

(1)モチベーションを維持しやすい

仕事の成果が翌年の給与に反映されるので、意欲的に仕事に取り組むことができます。

(2)その年の収入が安定する

年俸制では、当年度の1年間は給与が減額されないため、生活を安定させることができます。

年俸制のデメリット

一方、年俸制には、企業・労働者それぞれ次のようなことがデメリットになると考えられます。

1.企業側のデメリット

企業側のデメリットとしては、業績が悪化した場合も当年度の給与削減ができないことが挙げられます。2020年の新型コロナウイルスによるパンデミックが企業にも大きな影響を及ぼしたように、不慮の事態に見舞われる可能性があることも考えると、状況変化に応じた柔軟な人件費調整ができないことによる不利益が生じるおそれがあります。

2.労働者側のデメリット

年俸制は成果主義を前提にしているため、会社側がその従業員に期待した成果を挙げられなかった場合、翌年は減給されてしまいます。また、常に「期待以上の成果を上げる」重圧にさらされることも労働者にとってはデメリットとなるでしょう。

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年俸制の会社でも残業代請求はできる!

年俸制を採用する会社は増加していますが、国内ではまだ馴染みのない制度であることから、誤解されていることも多くあります。その中でも特に、「残業代が発生しない」という誤解されていることが多いです。ここでは、年俸制の会社での残業代請求の可否について解説します。

年俸制でも残業代請求できるのが原則

年俸制の下では、あらかじめ1年間の給与額が確定していることから、労働時間を把握する必要がなく、追加で残業代を支払う必要がないと誤解されがちです。会社側が誤解している場合、出退勤時刻等の勤怠管理が適切に行われていない可能性もあります。

しかし、年俸制をとる場合でも、その従業員が労働基準法の労働者に該当する場合は労働時間の規定が適用されます。従って、労基法第32条で定められた法定労働時間を超える労働時間に対しては、同法第37条に基づいて割増賃金が支払われなければなりません。「毎日夜遅くまで働いているのに残業代が出ない」という場合、残業代が発生している可能性が高いです。

例外的に残業代請求が認められない場合

ただし、以下の1~3の条件にあてはまる場合は、例外的に残業代請求が認められないことになります。

1.固定残業制で残業時間がみなし残業時間を超えていない場合

固定残業制(みなし残業制)とは、事前にある程度の残業時間を見込んで、基本給に加えて定額の残業代を支給する制度です。固定残業制は、毎月一定時間の残業が想定される職場や、業務量の繁閑の差が大きい職場で導入されることが多いです。

固定残業制が法的に有効であるためには、基本給と固定残業代が明確に区別できることが必要です。具体的には、雇用契約書や給与明細に基本給相当の金額と固定残業代相当の金額が記載されている必要があります。

固定残業制のもとでは、残業時間が「給料に含まれる残業代に相当する残業時間(以下「固定残業代相当時間」)を超える」場合には残業代が発生します。従って、残業時間が固定残業代相当時間を超えていない場合は、残業代が発生しません。

2.裁量労働制(みなし労働時間制)で所定労働時間が法定労働時間を超えない場合

裁量労働制とは、業務遂行の手段や時間配分等を労働者の裁量に委ねる制度です。裁量労働制のもとでは「みなし労働時間制」が採用され、労使協定で定めた時間数(みなし労働時間)労働したものとみなされます。例えば「1日8時間労働したものとみなす」と定めた場合、実労働時間に関係なく8時間労働したものとみなされます。ただし、法定時間外労働、休日労働、深夜労働に関する労働基準法は適用されます。

雇用契約で年俸制と裁量労働制が採用されている従業員のみなし労働時間が8時間以内である場合は、実労働時間にかかわらず残業代は発生しません。一方、法定休日に労働した場合や、定時以後の残業で22時以降まで労働した場合は、労働時間分の割増賃金が支払われなければなりません。

3.労基法第41条2号の「管理監督者」に該当する場合

労働基準法第41条2号の「管理監督者」には、労基法の労働時間に関する規定が適用されないため、残業代が発生しません。ただし、労基法上の「管理監督者」の該当要件は厚生労働省通達及び判例によってかなり厳格に制限されているため、会社が定める管理職に就いていても「管理監督者」にあたらないケースが多くあります。

厚生労働省の通達によると、労基法上の「管理監督者」は「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、労基法で定められた労働時間、休憩、休日の制限になじまない者をいう」とされています。「経営者と一体的な立場」にあるか否かについては、以下の基準によって判断されます(札幌地裁2002年4月18日付判決)。

  • 事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限が認められていること
  • 自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること
  • 一般の従業員に比べてその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇が与えられていること

判例上、管理監督者に該当すると判断されたケースは部長レベル以上が多く、課長レベル以下では稀です。なお、管理監督者にあたる場合でも、深夜労働(午後10時~午前5時の間の労働)に対しては労基法第37条が適用され、25%以上の割増賃金が発生します。

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年俸制で残業代請求する方法

ここでは、年俸制の会社で残業代請求する方法を解説します。

残業代を算定する

まず、残業時間を証明できる証拠を揃えた上で、発生した残業代を算定します。

1.証拠となる資料

年俸制で残業代請求する場合、次のような資料が証拠となりえます。

  • 労働契約書・就業規則の写し
  • 給与明細・源泉徴収票
  • 出退勤時刻を証明する資料(タイムカード、会社システムへのアクセス記録等)
  • 残業指令があったことを証明する資料(メールやチャット履歴等)

上記の資料のうち、会社側が所持・保管しているものについては、開示請求が可能です。残業代の証拠について詳しくは、当法律事務所の弁護士が記載した以下の記事を御参照ください。

残業代の証拠についてのコラムはこちらへ

2.基礎賃金の算定

年俸制の場合、基礎賃金は【年俸額÷12÷1か月の所定労働時間】で計算した額です。なお、年俸に賞与が含まれる場合と含まれない場合で、以下の理由により【年俸額】に賞与が含まれるか否かに違いがあります。

(1)年俸に賞与が含まれる場合

年俸に賞与が含まれる場合(前述の②のように、年俸の一定の割合を賞与として所定の月に支払う場合)は、賞与相当額は労基法第12条の「臨時に支払われた賃金」及び「3か月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当しません。よって、賞与は基礎賃金の計算式の[年俸額]に含まれます。この場合、1時間ごとの基礎賃金は、賞与を含む年俸額を1年間の総労働時間で割った金額となります。

(2)年俸に賞与が含まれない場合

年俸に賞与が含まれない場合(前述の①のように、年俸÷12=1か月分の給与とする場合)は、賞与は労基法第12条4項の「臨時に支払われた賃金」及び「3か月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当します。よって、賞与は基礎賃金の計算式から除外されます。残業代計算の前提となる1時間あたりの基礎賃金は、賞与を含まない年俸額を1年間の総労働時間で割った金額となります。

3.割増率

割増率は、労基法第37条1項・4項及び政令※1で定められた範囲で会社が規定した数値が、就業規則や労働条件通知書に記載されています。

労基法第37条1項・4項で定められた割増率は、以下の通りです。

  • ①時間外労働:25%以上(月60時間を超える場合は超過時間分につき50%以上:同法第37条1項但書)
  • ②深夜労働(午後10時~午前5時):25%以上
  • ③休日労働※2:35%以上

※1:平成6(1994)年政令第5号「労働基準法第37条1項の時間外及び休日の割増賃金にかかる率の最低限度を定める政令」

※2:法定休日(労働基準法第35条で義務づけられた「週に最低1日以上または4週間あたり4日以上」の休日

また、法定労働時間を超える労働が深夜や休日に行われた場合は、それぞれの割増分を合算しなければなりません。たとえば、定時が8時30分~17時30分(休憩1時間)の会社で、8時30分に出社した従業員が23時まで残業した場合は、以下の残業代が発生します。

  • 17時30分~22時:基礎賃金×1.25(以上)×4.5(時間)
  • 22時~23時  :基礎賃金×(1+0.25+0.25)×1(時間)

3.消滅時効に注意

残業代請求権は、「行使することができるときから3年」(労基法第115条・同法附則第137条)で消滅時効にかかることに注意が必要です。年俸制の場合も、時効の起算点は月給制の場合と同様に、毎月の給料日の翌日となります。たとえば、給料日が毎月25日の場合、2025年12月31日の時点では、2022年12月25日支払い分以前に発生した残業代は消滅時効期間が経過していることになります。

残業代請求権の消滅時効について、当法律事務所の弁護士が記載した詳しくは下記記事を御参照ください。

残業代請求の時効についてのコラムはこちらへ

会社と交渉する

証拠を集めて残業代を算定したら、内容証明郵便を利用して会社に請求書を送付します。請求書を内容証明郵便で送るのは、「催告」(民法第150条)を行ったと認められるため、残業代請求権の消滅時効完成を6か月間延長する効果が生じるためです。

年俸制の労働者が会社に対して残業代請求した場合、会社から次のような反論が出てくることが想定されます。

  • 残業指示を出していない
  • 固定残業代が年俸に含まれているのでそれ以上の残業代は発生しない
  • 労働時間について裁量を与えているので勤怠管理をしていない
  • 管理職には残業代が出ない

個別の業務形態や実態に照らして出てきそうな反論を推測して、その反論に対応できるだけの準備をすることをおすすめします。

法的手段をとる

任意交渉が成立しなかった場合、労働審判申立てを主なうか、訴訟提起によって残業代請求を行います。

1.労働審判

未払残業代が発生していることを会社が認めているが、時間数や残業代総額で争いがある等、相手方に譲歩の余地があると思われる場合は、労働審判申立てを行うという方法があります。

労働審判は、訴訟と比較すると以下の点でメリットがあります。

  • 原則として3回の期日で手続が終わるため、早期解決が可能
  • 審理が非公開で行われるためプライバシーが守られる

一方、次の場合は審判結果が無効になります。改めて訴訟提起が必要になるため、いわば審判に費やした時間や労力が無駄になってしまいます。このため、先に労働審判を申し立てるか、労働審判を経ずに訴訟提起するかを予め判断しておかなければなりません。

  • 審判結果に対して一方が異議を申し立てた場合
  • 労働審判委員会の判断で審判を終了させた場合

2.訴訟提起

労働審判結果が無効になった場合や、最初から訴訟提起するのが望ましいと判断された場合は、訴訟を提起して解決を目指します。訴状を提出する裁判所は、以下の条件に従って決まります。

労働審判を経ている労働審判を経ていない
請求額140万円以下労働審判を行った地方裁判所会社の所在地を管轄する簡易裁判所
請求額140万円超労働審判を行った地方裁判所会社の所在地を管轄する地方裁判所
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年俸制で起こりうるその他の問題

年俸制で起こりうるトラブルとして、残業代未払いの他に以下が挙げられます。

年度途中に解雇された場合の残余期間の給料が支払われない

年俸制で給与が支払われている従業員が、年度途中で解雇されたり会社都合で退職した場合、その年度の残りの期間の給与や賞与については会社に支払義務があります。ただし、雇用契約書に「会社都合による解雇または退職の場合、残余期間の給与は支払われない」旨の記載があれば、残余期間の給与が支払われなくても違法ではありません。

従って、年度途中に解雇されたり、会社都合で退職した場合は、就業規則や雇用契約書に上記の記載があるか否かを確認してください。就業規則や雇用契約書に上記の記載が存在しないのに、残存期間の給与やボーナスが支払われなかった場合は、会社に対して請求できます。

契約期間途中で賃金を引き下げられた

「年度途中で降格されたため降格時点から年俸を引き下げられた」等、契約期間の途中での賃金引下げも、年俸制で起こりやすい問題です。判例上、「年俸額は、労使間の話し合いにより期間当初に確定しているため、年俸額を期間途中で変更することは、労働条件の変更となり、当事者の合意がなければ認められない」と解されています。

ただし、就業規則、賃金規定、雇用契約書等に「役職の変更があった場合には、年度の途中であっても年俸額を変更することができる」旨の定めをおくことは違法ではありません。そして、このような定めに従って年度途中の降格に伴い給与を引き下げることは、労働条件の不利益変更にはあたらないと考えられます。上記のような定めが存在しない場合には、既に確定している年俸額を途中で引き下げることは認められません。

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年俸制の会社の賃金支払いの適法性が争われた裁判例

ここでは、年俸制の会社での残業代請求その他、賃金支払いの適法性が争われた裁判例をご紹介します。

年俸制で残業代請求の可否が争われた裁判例

年俸制で残業代請求の可否が争われたケースとして、医療法人社団康心会事件、モルガン・スタンレー・ジャパン事件が挙げられます。また、次項の中山書店事件では、賃金引下げの適法性とともに残業代請求の可否が争われています。

1.医療法人社団康心会事件(最高裁第二小法廷2017年7月7日付判決)

固定残業代を含む年俸額に合意していた医師による残業代請求の可否が争われたケースです。

【事実の概要】

医師Xは、医療法人Y(以下「Y法人」)が運営するN総合病院との間で、以下の条件で雇用契約を締結しました。

①年俸額1,700万円(本給月額86万円、諸手当合計34万1,000円、賞与本給3か月分相当額(成績により勘案)
②週5日勤務:1日の所定勤務時間は午前8時30分~午後5時30分を基本とするが、業務の必要がある場合にはこれ以外の時間帯でも勤務しなければならない
③業務上の必要がある場合における時間外勤務に対する給与は、以下の内容の「医師時間外勤務給与規定(以下「本件規定」)の定めによる

  • 時間外勤務の対象となる業務は、原則として病院収入に直接貢献する業務、または必要不可欠な緊急業務に限ること
  • 緊急業務における実働を対象として、管理責任者の認定によって支給すること
  • 時間外手当の対象となる時間は、勤務日の午後9時から翌日の午前8時30分までの間、及び休日に発生する緊急業務に要した時間とすること
  • 通常業務の延長とみなされる時間外業務は対象とならないこと
  • 当直・日直については、別に定める当直・日直手当を支給すること

また、XとY法人の間では、以下の事実関係が認められました。

  • 雇用契約においては、本件規定以外の時間外労働等に対する割増賃金について、年俸に含まれることが合意されていたが、年俸のうち時間外割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかった
  • Y法人はXに対して、本件規定に基づき、深夜労働7.5時間分を含む合計27.5時間分の時間外労働に対する時間外手当として15万3,000円、当直手当として42万円を支払っていた
  • 上記時間外手当の時間単価の計算は、Xの1か月当たり平均所定労働時間と本給月額86万円を基礎として算出されるもので、深夜割増はされていたが時間外労働の割増はされていなかった

Y法人がXを解雇したのに対し、Xは、解雇の無効を主張し、雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、「本件給与規定に基づき支払われた時間外手当は、実残業時間に対応する通常賃金の部分及び深夜労働割増の部分のみであり、時間外労働を理由とする割増はされていない」旨主張し、時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金及びこれに対する付加金の支払等を求めて提訴しました。

一審(横浜地裁2015年4月3日付判決)及び控訴審(東京高裁2015年10月7日付判決)は、解雇を有効とし、時間外労働手当等についても本件規定に基づき実際に支払われた時間外労働賃金と、当直手当以外の通常の時間外労働賃金はいずれも年俸に含まれると判断して、Xの請求をすべて棄却しました。

【裁判所の判断】

Xの上告に対し、最高裁は、解雇についてXの請求を棄却した一方、以下の理由で時間外労働・深夜労働手当の請求については原審の判断に誤りがあるとして、事件を高裁に差し戻しました。

(1)年俸に固定残業代を含めることの適法性について

労基法第37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務づけているのは、使用者に割増賃金を支払わせることによって、時間外労働等を抑制し、もって労働時間に関する同法規定を順守させるとともに、労働者への補償を行おうとする趣旨によるものと解される。このことから、労働者に支払われる基本給や諸手当(以下「基本給等」)に予め含めることにより割増賃金を支払うという方法自体が直ちに同条に反するものではない。

(2)固定残業代の適法要件と本件へのあてはめ

労基法第37条の上記趣旨によれば、割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法で支払う場合においては、上記の検討の前提として、労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別できることが必要であり、上記割増賃金に当たる部分の金額が労基法第37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。

このうち、時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったというのであり、Xに支払われた年俸について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。従って、Y法人のXに対する年俸の支払いにより、Xの時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない。

(判決理由ここまで)

本件判決は、①原告労働者が高額の給与を支給される高度専門職であること ②年俸制により給与支払いを受けていること 及び③年俸の中に固定残業代が含まれているが固定残業代に当たる部分が明確に区別できなかったという事情の下で、固定残業代を含む年俸の支払いによって時間外労働等に対する割増賃金が支払われたとはいえないと判断したものです。

特筆すべき点として、「高度専門職者に対する年俸制の場合も残業代請求が認められうる」旨示したことに加えて、Y法人が就業規則(医師時間外勤務給与規定)に従って一定の時間外割増賃金を支払っていたにもかかわらず、直近の下級審判決で用いられた判断基準を踏まえて、Xの時間外労働等割増賃金請求を認めたことが挙げられます。高度専門職者に対する年俸制と固定残業代制の併用は今後も増加すると考えられるため、同様の事例での残業代請求が認められるか否かの判断がより注目されます。

2.モルガン・スタンレー・ジャパン事件(東京地裁2005年10月19日付判決)

外資系投資銀行の元従業員が、約1年半にわたり合計535時間の所定時間外労働をしたにもかかわらず、その所定外労働時間に対する割増賃金の支払いがなかったとして、会社に対して約800万円の支払いを求めた事件です。

【事実の概要】

外資系投資銀行Y社の従業員は、専門職の「プロフェッショナル社員」と、秘書業務や事務等の補助的な業務につく「一般社員」で構成されていました。また、プロフェッショナル社員はオフィサーとノン・オフィサーに分類され、オフィサーは上位から順にマネージング・ディレクター、エクゼクティブ・ディレクター、ヴァイスプレジデントに分類されていました。Xは1998年10月にY社東京支店に入社し、エクゼクティブ・ディレクターの地位にあるプロフェッショナル社員として、同社の外国為替本部において外国為替関連取引の営業に従事していました。本件超過勤務手当請求の対象となった時期のXの年俸は2,200万円でした。

Y社の就業規則には、通常の勤務時間は平日午前9時~午後5時30分とする規定があり、一般社員については厳格な労働時間管理が行われていました。一方、プロフェッショナル社員は労働時間の管理を全く受けていませんでした。

賃金については、Y社就業規則では一般社員に基本給・超過勤務(時間外労働)手当・食事手当・通勤手当が支給されていた一方、プロフェッショナル社員には年間基本給(年俸)及び裁量業績賞与が支給されるのみで、超過勤務手当についての規定がなく、超過勤務手当の名目での支払いが行われたこともありませんでした。

Xが所属していたY社東京支店外国為替本部では、平日午前7時30分ごろから本部長のもとでミーティングが開かれていました。

Xは、ミーティングに加わるために2002年11月から2004年4月までの平日午前7時20分から午前9時までの間、時間外労働を行ったと主張し、Y社に対して当該期間の合計535時間分の時間外労働手当を求めて提訴しました。裁判では、①Xが超過勤務を行ったと認められるか ②Xの管理監督者性 ③Y社は超過勤務手当を支払ったと認められるか 及び④超過勤務手当の請求は権利濫用ないし信義則違反にあたるかの4点が争点となりました。

【裁判所の判断】

東京地裁は、上記争点③について、以下の理由によりXの請求を棄却しました。

(1)Xの時間外労働の対価が基本給に含まれているといえるか

Xは、所定時間外労働をすれば超過勤務手当が発生することを知っていたのに、何ら異議を述べていない。また、入社時のオファーレターに超過勤務手当の記載が存在しない。Xの給与は相当に高額であり、Xは自分の判断で営業活動や行動計画を決め、Y社はそれに対して何等の制約も加えていなかった。外資系投資銀行においては、プロフェッショナル社員に対して所定時間外労働に対する対価も含んだものとして極めて高額の報酬が支払われるのが一般的である。これらに鑑みると、Xが所定時間外に労働した対価は、基本給の中に含まれていると解するのが相当である。

(2)基本給の中で所定時間内労働の対価と所定時間外労働の対価が区別できないことの適法性

Xの給与は、会社にもたらした営業利益の内容や程度によって決定されるため、そもそも労働時間を把握することが困難である。また認定事実によれば、Xは、年次総額報酬(年俸+賞与)以外に超過勤務手当が支給されるとは考えていなかったといえる。さらに、Xは高額の報酬を受けており、超過勤務手当を基本給に含めて支払う合意をしたからといって、Xの保護に欠ける点はないといえる。従って、基本給の中に所定時間労働の対価と所定時間外労働の対価とが区別されることなく入っていても、労基法第37条の制度趣旨に反することにはならない。

(判決理由ここまで)

本件判決は、給与が労働時間数ではなく業績に基づいて決定されていたことや、高額の報酬の中に時間外労働に対する対価も含まれているとみなしうること等を理由に、年俸制の労働者の時間外労働手当の請求を棄却したものです。本件では、通常賃金と固定残業代との区分の明確性についての判断が、他の裁判例に比べて厳密さに欠けるともいえます。しかしこれは、年俸額が極めて高額であったことが原因と考えられます。

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年俸制の会社による賃金引下げの有効性が争われた裁判例

また、前述のように、会社が一方的に行った賃金引下げの有効性が争われたケースとして、下記が挙げられます。

1.シーエーアイ事件(東京地裁2000年2月8日付判決)

業績悪化を理由とする年俸減額の適法性が争われた事件です。

【事実の概要】

ソフトウェアの研究開発を業とするY社の従業員Xは、年俸620万円(月額36万5,000円)、裁量労働制による勤務形態でソフトウェア研究開発業務に従事していました。Y社が、急速な財政状態悪化に伴う就業規則・賃金規則の改訂を行い、Xの給与が月額16万5,000円に減額されたことから、Y社に対して①未払賃金・②賞与支払及び③債務不履行または不法行為に基づく損害賠償等を求めて提訴しました。

【裁判所の判断】

東京地裁は、以下の理由により、上記①と②を一部認容し、③を棄却しました。

(1)未払い賃金について

本件においては、XとY社は期間を1年とする雇用契約により、旧賃金規定の支給基準等にかかわらず、支払賃金額は月額36万5,000円、年俸額620万円の確定額として合意しているのであり、このような合意が存在している以上、Y社が賃金規則を変更したとして合意された賃金月額を契約期間の途中で一方的に引き下げることは、改訂内容の合理性にかかわらず許されないと言わざるを得ない。

(2)賞与について

本件雇用契約は、年俸額を620万円と合意した内容のもので、「年俸」とは1年間に支給される賃金額をいうと解すべきであるから、本件雇用契約の合意内容は年俸額の17分の12を月当たりの賃金として支払、残りの5か月分については、賞与2回文合計の最低保証として確定的に支給する旨を合意したと解する。ただし、本件雇用契約の文言上は6月賞与として2.5か月分を支給するとの記載はなく、かかる合意がされた事実も認められない。しかし、年俸額が確定額で定められ、賞与として5か月分を2会に分けて支給するが、計算方法に特段の合意がない場合に、契約期間途中で退職した原告の賞与請求権については、少なくとも契約期間中勤務した日数により按分した額の具体的支払請求権を有すると認められる。

(3)債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求について

Y社の賃金規則の変更の必要性、内容の相当性が認められる以上、合意された賃金額を引き下げられることは許されないが、新賃金規則の適用に応じることを求めること自体に違法性があるとはいえない。従って、Xには債務不履行または不法行為によって生じた損害があるとはいえない。

2.日本システム開発研究所事件(東京高裁2008年4月9日付判決)

公益法人の正規職員らが、業績悪化に伴う年俸引下げに対して、前年度の年俸との差額支払いを求めた事件です。

【事実の概要】

X1~X4は、中央官庁等からの受託調査・研究などを行う公益財団法人Y(以下「Y法人」)の研究室長または研究員として、期間の定めのない雇用契約を締結していました。Y法人では、20年以上前から年俸制を導入していましたが、年俸制について就業規則に定めずに運用を続けていました。

Y社は、業績悪化に伴い年俸の評価方法を改め、X1~X4について前年度よりも大幅に減額した年俸(752万円~1,200万円)と算定し、減額した年俸の支払を開始しました。X1~X4は、Y社に対して前年度の年俸との差額支払いを求めて提訴しました。

第一審(東京地裁2006年10月6日付判決)は、就業規則に手続の記載がなければ、不利益を受ける労働者の同意を得る必要があったがこれがなされていないとして、研究手当の減額分の支払を命じました。

なお、本件では、非年俸者1名も原告に含まれていますが、複雑化を避けるため非年俸者の請求については省略しています。

【裁判所の判断】

東京高裁は、以下の理由により一審の判断を支持し、控訴を棄却しました。

(1)会社側に一方的な年俸額評価決定権を認める判断基準

期間の定めのない雇用契約における年俸制において、労使間で新年度の賃金額についての合意が成立しない場合は、年俸額決定のための成果・業績評価基準、年俸額決定手続き、減額の限界の有無、不服申立手続等が制度化されて就業規則等に明示され、かつ、その内容が公正な場合に限り、使用者に評価決定権があるというべきである。

上記要件が満たされていない場合は、労基法第15条、第89条の趣旨に照らし、特別の事情が認められない限り、使用者に一方的な評価決定権はないと解するのが相当である。

(2)本件Y法人に一方的な年俸額評価決定権が認められるか

Y法人の年俸制は、20年以上前から実施されてきたものであり、その支給方法や年俸交渉の方法等については当事者間に争いがないが、年俸額決定のための成果・業績評価基準、減額の限界の有無、不服申立手続等については、これが制度化され、明確化されていたと認めるに足りる証拠はない。

Y法人は、年俸額の決定基準は、その大則が就業規則及び給与規則に明記されていると主張する。しかし、当該就業規則及び給与規則には、年俸制に関する規定は全くない上、Y法人は第一審において、年俸額の算定基準を定めた規定が存在しないことを認めていたものであり、年俸制に関する明文の規定が存在しないことは明らかである。

2005年度及び2006年度の年俸額について、各年度中にX1らとY法人の間で合意が成立しなかったことは争いがない。従って、2005年4月1日から2007年3月31日までの年俸額は、X1らの主張の通り、2004年度の年俸額と同時に確定したというべきであるから、Y法人は、同年度の賃金として、X1らに対し、2004年度の年俸額と同額の賃金支払義務を負うことになる。

2007年度以降の賃金請求については、同年度の末日が経過していないことから、同年度の年俸額は確定していないというべきであるから、理由がなく、棄却すべきである。

(判決理由ここまで)

本判決は、年俸額変更に関する交渉が合意に至らなかった場合の対処も含めて就業規則に明記されていない限り、合意に至らなかった場合には(合意が存在する)前年の年俸を維持するという判断を示した点で意義があると考えられます。

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年俸制のトラブルは弁護士にご相談ください

年俸制のもとでは、未払い残業代が発生しやすい他、合理的な理由なく年俸額が引き下げられる等の問題が起こることもあります。「給与は1年分確定しているから残業代は出ない」「成果主義だから年俸額を下げられても仕方ない」と決めつけず、不当だと思ったことがあれば弁護士へのご相談をおすすめします。年俸制に関するトラブルを弁護士に相談することには、以下のようなメリットがあります。

残業代発生の有無や金額を教えてもらえる

年俸制を採用している会社では、会社側が「残業代は発生しない」と誤解している場合が少なくありません。また、年俸制は固定残業代制と併用されているケースも多く、「固定残業代以上の残業代は払う必要がない」等と思われている可能性もあります。弁護士に相談することで、残業代が発生しているか、何時間分請求できるか等を正確に教えてもらうことができます。

また、退職勧奨により退職した場合や解雇された場合等の残存期間の賃金や、未払いの賞与の有無や金額についても算定してもらうことができます。

会社への請求に必要な証拠の収集方法を教えてもらえる

残業代請求にあたっては、請求額分の証拠が必要となります。年俸制の場合、タイムカードが存在しない等、会社の勤怠管理が適切に行われていないことが多く、労働時間の証拠収集が困難になることがよくあります。弁護士に相談することで、経験に照らして、労働時間を証明できる証拠を可能な限り集める方法等を教えてもらうことができます。また、会社側が所持・保管している証拠について、労働者を代理して開示請求することができます。

会社との交渉を任せられる

未払残業代の請求にあたっては、会社側と交渉しなければなりません。しかし、労働者個人で会社と交渉して、請求を認めてもらうことは容易ではありません。会社が交渉に応じてくれないことも少なくなく、交渉に応じる場合には顧問弁護士を立ててくることが多いです。弁護士に依頼することで、対等に交渉を行うことができます。

ウカイ&パートナーズ法律事務所では、初回30分無料相談をお受けしていますので、年俸制の会社の給与等の問題でお困りの方は是非当所にご相談ください。

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まとめ

年俸制であっても、残業代請求は認められます。外資系企業に勤務されている方の多くは年俸制で契約している方が多いですが、我々弁護士が法律相談を受けていると、かなりの方から「年俸制だから残業代は請求できないですよね?」と質問を受けます。また、年俸制は、労働者にとってパフォーマンス次第で給料を増やせる、年間の収入が安定する等のメリットがある一方で、期待する業績を上げられなければ翌年度の年俸を大幅に減額されるリスクもあります。そして、労使双方の誤解による残業代の未払いも生じやすくなっています。年俸制で給与の支払いを受けている方で、「長時間労働が続いているのに残業代が出ない」「年度途中で退職したら残りの期間の給料はもらえるか」等、お困りの点や疑問点がありましたらぜひ、弁護士にご相談ください。

ウカイ&パートナーズ法律事務所では、所属する弁護士全員が、年俸制の会社に対する残業代等の賃金請求が可能か否かを検討・判断した上で、とりうる対処法について懇切丁寧にお答えします。当事務所では、初回30分無料で法律相談をお受けしています。年俸制の会社での賃金等のトラブルでお困りの方は、是非当事務所の無料法律相談をお申込みください。

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