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サービス業界(飲食店・アパレル・美容師等)の従業員の労働問題を解説! これらの従業員はそもそも労働者と言える?残業代請求や不当解雇、退職勧奨への対処法を弁護士が解説

2026/07/12(日)

サービス業界(飲食店・アパレル・美容師等)の従業員の労働問題を解説! これらの従業員はそもそも労働者と言える?残業代請求や不当解雇、退職勧奨への対処法を弁護士が解説

「アパレルショップで働いています。勤務時間は営業時間内になっているけれど、営業時間の前後も準備や後片付け等、たくさんやることがあります。最近では、店のインスタの更新も任されていて、写真撮影とか動画編集等で結構時間がかかります。また、休憩時間も電話対応等で店から出られません。それなのに、営業時間外の時間は給料が出ないし、休憩時間は仕事をしていても休憩時間扱いです。営業時間外や休憩時間の分の給料が出ないのは仕方がないのでしょうか?」

当法律事務所では、サービス業界で働く方から、このような相談を頂くことが多くあります。サービス業界では店舗の営業時間の前後にも開店準備、後片付け、在庫管理、買出し等数多くの作業をこなす必要があります。しかし、営業時間外やシフトの勤務時間の前後の作業時間が労働時間にカウントされないことが少なくありません。また、契約が業務委託である場合、契約で認められた業務に対する報酬しか受けられない等の問題も起こりやすくなっています。

本記事では、飲食店・アパレル・美容師等サービス業界の従業員が労働者として行使できる権利について、以下の点を中心に解説します。

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はじめに:労働者性の論点

はじめに:労働者性の論点

サービス業の従業員が会社に対して残業代請求等、労働関係法令で認められた権利を行使するためには、労働基準法や労働契約法の適用を受ける「労働者」に該当している必要があります。また、労働契約法、育児介護休業法等の多くの労働関係法令の適用を受ける「労働者」は、労働基準法の「労働者」と同様です。労働基準法等の「労働者」に該当することを「労働者性」といいます。ここではまず、労働者性の判断基準及び、サービス業の従業員が労働者に該当するか否かについて解説していきます。

(1)労働者性の判断基準

労働者性の判断基準について、現在は、厚生労働省が1985年に発表した「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」(以下「厚労省S60報告」)が用いられています。

  • ①他人の指揮監督下において労務を提供している(指揮監督関係)
  • ②指揮監督下における労働の対価として賃金の支払を受けている(報酬の労務対償性)
  • ③事業性・専属性等(上記の2基準のみでは判断が難しい場合)

上記①②をあわせて「使用従属性」と呼びます。使用従属性を判断する上で、特に重視されるのが上記①の「指揮監督関係」の中の次の基準です。

  • 仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無(=依頼や指示を断れるか否か)
  • 業務遂行上の指揮監督の有無(=会社側の指揮監督下に置かれているか否か)
  • 場所的時間的拘束性の有無(=働く場所や時間が決められているか否か)

使用従属性の判断基準等、労働者性の論点について詳しくは、以下の記事を御参照ください。

労働者性についてのコラムはこちらへ

(2)あてはめ

1.サービス業界の従業員は労働者に当たるか

サービス業の中で大きな割合を占める飲食業、アパレル業、美容師業の従業員も、会社に雇用される働き方に加えて、フリーランスの割合が増加しています。前述のように、フリーランスで働く場合であっても、使用従属性が認められれば労働者に該当します。

①飲食店の従業員

飲食業界の従業員のうち、飲食店や飲食店を経営する企業に雇用されている従業員は、正社員・パート・アルバイト等を含め労働者に該当します。一方、業務委託によって調理・接客・清掃等の業務に従事している場合は、原則として労働者にあたらないものの、実際の就業形態によっては労働者性が認められる可能性があります。飲食業界では、調理以外の業務(接客・清掃等)は雇用された従業員が行うことが一般的です。これに対して、調理業務については、専門性や裁量の程度の大きさ等から、業務委託による場合があります。中には、調理技能とインテリアデザインの企画等の能力を兼ね備えたシェフが、オーナーとの業務委託契約に基づいてレストランの経営を任されているケースもあります。

業務委託によって調理業務やサービスの企画等を行うシェフの場合、次のような事情があれば、労働者性が認められる可能性があるでしょう。

【指揮監督関係】
  • 予約が埋まっている場合を除き、客の予約を断ることができない
  • 内装やテーブル等、インテリアのデザイン・配置についてアイディアを出すことはできるが、決定権はオーナーにある
  • 料理のメニューの種類についてオーナーから指示を受けている
  • 勤務日や勤務時間が決められている

【報酬の労務対償性】
  • 週単位・月単位の客入りの多寡にかかわらず報酬が固定している
  • 報酬額が、レストランに雇用されるシェフと比較して同等か、大幅に高いとはいえない

【事業性・専属性等】
  • 内装、テーブル等の物品、調理器具等の購入費をオーナーが負担している
  • 雇用保険、健康保険、厚生年金に加入している
  • 報酬から所得税が源泉徴収されている

②アパレル店舗の従業員

現在アパレル業界では、デザイナー、パタンナー、バイヤー、販売員等、アパレル業界専門のフリーランスエージェンシーやマッチングサイトを通して業務委託を行うケースが増えています。契約が業務委託であっても、勤務時間や場所が指定され、行う業務に対して会社から詳細な指示が出ている等の事情がある場合、労働者性が認められる可能性があります。

なお、アパレルメーカーや小売店に雇用されている従業員が労働者に該当することは問題ない一方、アパレル会社が「雇用契約」に基づいて業務を行う従業員に対して、自社の服を自己負担で購入する義務を課すことは、労働基準法第24条に違反する疑いがあります。

労基法第24条1項:賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない
(衣服の購入費を給与から天引きする場合、その旨を労使協定で定めていない限り、同条項の「賃金全額払いの原則」に違反する)

これに対して、業務委託の場合は同様の義務を課しても、原則として違法ではありません。ただし、従業員の働き方の態様によっては、労働者性を主張して労基法違反による損害賠償請求等を請求できる可能性があります。


③美容師

美容師業界の従業員の場合、美容室または美容室を運営する会社に雇用されている美容師は、通常労働者に該当します。また、業務委託契約で働く美容師であっても、働き方の実態に照らして使用従属性が認められれば、労働者性が認められる可能性があります。

2.店長は労働者に当たるか

飲食店、アパレル企業店舗、美容室の店長は、それらを運営する会社に雇用されている場合がほとんどなので、労働基準法等の「労働者」に該当することについては問題ありません。ただし、店長の場合、労基法の「労働時間」の章の規定の適用が除外される「管理監督者」に該当するとして、同章に含まれる労基法第37条に基づく時間外労働手当が支払われないことがよくあります。「店長は管理職だから、労基法第41条2号の管理監督者に該当する」「給与に役職手当が含まれている」というものです。

しかし、会社側が店長を管理職扱いしている場合でも、同法の管理監督者に該当しない「名ばかり管理職」である可能性があります。「管理職」が全て管理監督者に該当するわけではなく、ある役職に就く従業員が管理監督者に該当すると言えるためには、以下の要件を満たしていなければならないからです。

  • ①企業(団体)の経営に関与し、労務管理上の決定権限を有していること(経営者との一体性)
  • ②自身の労働時間についての裁量権を有していること(労働時間の裁量権)
  • ③役職にふさわしい賃金等の待遇を受けていること(対価の正当性)

飲食店、コンビニエンスストア等、サービス業の各店舗の店長については、後述のマクドナルド事件東京地裁判決に代表されるように、裁判で「管理監督者に該当しない」と判断されるケースが大半です。「肩書は店長だが、決定権といってもアルバイトの採用だけだし、労働時間も自分で決められないし、残業代が出ないから実質給料が下がっている」等、上記の要件に照らして「残業代が出ないのはおかしい」と思われる場合、残業代請求ができる可能性が高いです。

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サービス業界の従業員の残業代請求は認められるか

飲食店、アパレル店舗、美容院等を運営する会社に雇用されている従業員は労働者に該当するので、労基法第37条に基づいて未払いの残業代を請求できます。また、業務委託で働く場合も、業務の実態に照らして使用従属性が認められれば、残業代請求が可能です。サービス業界では、店の営業時間外でも開店準備や後片付け、レジ締めや在庫管理等の様々な作業を行う必要がある一方、営業時間外の作業に要した時間が労働時間にカウントされず、未払い残業代が発生していることが少なくありません。ここで、サービス業界の従業員の残業代の請求方法について解説していきます。

残業時間にカウントされる労働時間

残業代請求する上で、残業時間にカウントできるのは、労働基準法上の「労働時間」として認められる時間です。

1.労働時間に含まれる時間

飲食店従業員、アパレル従業員、美容師の労働時間に含まれる時間として、次のような時間が挙げられます。

業界労働時間に含まれる時間
飲食店従業員・店舗の営業時間(営業時間内のシフト勤務時間)
・営業時間/勤務時間外の仕込み、片づけ、食材買出し時間
・同 メニュー考案に要する時間
・同 レジ締め、売上報告の時間
・同 店舗のSNS更新作業に要する時間
アパレル従業員・店舗の営業時間(営業時間内のシフト勤務時間)
・営業時間外/勤務時間外のレジ準備、清掃、商品陳列作業時間
・同 品出し、検品、在庫管理、売場の整理整頓の作業時間
・同 日報作成の時間
・同 店舗のSNS更新作業に要する時間
美容師・店舗の営業時間(営業時間内のシフト勤務時間)
・営業時間外/勤務時間外の開店準備、閉店後の店内清掃等の後片付け作業時間
・同 技術練習、顧客管理、備品管理に要する時間
・同 店舗のSNS更新作業に要する時間

2.状況によって労働時間に含まれる場合がある時間

また、以下の時間については、状況によって労働時間にカウントできる場合があります。

(1)着替え時間

始業前、終業後等の着替え時間については、以下のような事情がある場合は労働時間に含まれます。

  • 制服や作業着への着替えが必要である
  • 明示黙示に着替えの指令がある
  • 着替え場所が指示されている
(2)飲食店の中休み

店舗でのサービス業の中でも、飲食店では昼間の営業時間と夕方~夜の営業時間の間に、営業時間外の「中休み」が設けられていることがあります。たとえば、昼間の営業時間11時~14時、夕方以降の営業時間17時~23時の店では、14時~17時の3時間が中休みとなります。飲食店では、中休みを全て休憩時間とみなして労働時間にカウントしないことが多いです。しかし、中休みの時間であっても、業務から完全に解放されず、実質的に労働から離れられない場合は「使用者の指揮命令下に置かれている」といえます。たとえば中休みの時間中に以下のような状況にある場合は、使用者の指揮命令下に置かれているといえるため、労働時間にカウントできる可能性が高いでしょう。

  • 来客や電話があれば対応しなければならない
  • 外出が認められず、スマホを見る等の自由利用ができない
  • 皿洗い、店内清掃、夕方の開店に向けた仕込み等が義務づけられている

中休みが労働時間に含まれるか否かについて、後述の「月光フーズ事件」での東京地裁の判断が参考になります。

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残業代の請求方法

サービス業従業員の残業代請求は、以下の方法で行います。

1.証拠を収集する

まず、残業代の証拠となる資料を集めます。残業代の有効な証拠として、次のようなものが挙げられます。

(1)勤務時間の証明となる資料

飲食店店員、アパレル従業員、美容師等の勤務時間を証明できる資料として、以下が挙げられます。

勤怠・出退勤時刻を示す資料・タイムカード
・勤怠アプリ記録(シフト管理システム・LINE打刻等)
・防犯カメラの映像(出退勤時刻証明の補助的証拠となる)
店舗での拘束を示す資料・シフト表や出勤予定表
・開店準備、閉店作業のマニュアルや業務日報(営業時間外の作業が義務付けられていることの証拠となる)
・待機中のルールを示す文書やLINE指示(外出禁止、店舗SNSは勤務時間中に更新する等)
・上記以外の店側とのLINE等のやり取り
実際に業務に従事していたことを示す資料・レジ締め記録、売上報告(閉店後に作業を行っていた事実を証明できる)
・物販商品在庫チェックや清掃の記録(同上)
ミーティング/研修への参加の事実を示す資料・研修案内通知(メール、LINE等)
・参加者リスト(義務的な研修であることを証明できる)

(2)労働契約・給与体系に関する資料

  • 雇用契約書(個人事業主の場合は業務委託契約書)
  • 労働条件通知書
  • 就業規則
  • 給与明細

2.未払残業代を計算する

証拠がそろったら、未払いの残業代を分単位で計算します。残業時間が時間外労働、休日労働、深夜労働のいずれに該当するかについては、判断が難しい場合があります。また、残業代請求権は、「行使できるとき」つまり各月の給料日から3年で消滅時効にかかるため、時効期間を経過した残業代の有無や金額についても調べる必要があります。これらを労働者自身が判断して正確な請求額を算出することは難しいため、弁護士への相談をおすすめします。

3.会社と交渉する

未払い残業代の計算ができたら、会社に対して内容証明郵便で請求書を送付して、交渉を申し入れる必要があります。内容証明郵便による請求書送付が必要なのは、残業代の請求権が消滅時効(労働基準法第115条)にかかるのを防ぐためです。

4.法的手段をとる

会社との任意交渉が成立しなかった場合、労働審判申立てを行うか、訴訟提起によって残業代請求を行います。労働審判結果が無効になった場合や、最初から訴訟提起するのが望ましいと判断された場合は、訴訟提起により解決を目指します先に労働審判を申し立てるか、最初から訴訟提起するかを的確に判断するのは労働者単独では難しいため、弁護士への相談・依頼をおすすめします。

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サービス業界の従業員の残業代請求の可否が争われた裁判例

<サービス業界の従業員の残業代請求の可否が争われた裁判例

ここで、サービス業界の従業員の残業代請求の可否が争われた裁判例をご紹介します。

1.飲食店従業員

(1)飲食店店長の残業代請求が認められたケース

・日本マクドナルド事件(東京地裁2008年1月28日付判決)

「名ばかり管理職」の代表例ともいえるケースです。

【事実の概要】

ファストフードチェーン最大手Y社の直営店店長であったXは、Y社が直営店店長を「管理職」とみなして残業代を支払わないのは労基法第37条違反であるとして、Y社に対して約2年分の割増賃金及び付加金等の支払を求めた事件です。Y社側は、直営店店長に対して手当が支給されていることや、採用権限、予算権限を持っていた等の理由により、直営店店長は管理監督者に当たると主張していました。

【裁判所の判断】

東京地裁は、以下の理由によりY社直営店店長の管理監督者性を否定し、Y社に対して割増賃金約500万円及び遅延損害金、付加金約250万円及び遅延損害金の支払を命じました。

経営者との一体性:否定

  • Y社の店長は、店舗の責任者として、アルバイト従業員の採用やその育成、勤務シフトの決定、販促活動の企画・実施等に関する権限を行使し、Y社の営業方針や営業戦略に即した店舗運営を遂行すべき立場にある。このことから、Y社店長が店舗運営において重要な職責を負っていることは明らかである。一方、店長の職務、権限は店舗内の事項に限られ、「企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、労基法の労働時間の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないもの」といえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められない

労働時間の裁量権:否定

  • 店長は、店舗従業員の勤務シフトを決定する際、自身の勤務スケジュールも決定することとなる。しかしながら、各店舗では各営業時間帯に必ずシフトマネジャーを置くこととされているので、シフトマネジャーが確保できない営業時間帯には、店長が自らシフトマネジャーを務めることが必要となる
  • Xの場合、自らシフトマネジャーとして勤務するため、2004年7月頃には30日以上、同年11月から2005年1月にかけては60日以上の連続勤務を余儀なくされていた。また、2005年2月から5月頃にも、早朝や深夜の営業時間帯のシフトマネジャーを多数回務めなければならなかった。その結果、時間外労働が月100時間を超える場合もあるなど、労働時間は相当長時間に及んでいる
  • 店長は、自らのスケジュールを決定する権限を有し、早退や遅刻に関して上司の許可を得る必要はない等、形式的には労働時間に裁量があるといえる。しかし実際には、店長として固有の業務を遂行するだけで相応の時間を要する上、自らシフトマネジャーとして勤務すること等により長時間の時間外労働を余儀なくされていた。かかる勤務実態からすると、労働時間に関する自由裁量性があったとは認められない

対価の正当性:否定

  • 2005年の年間を通じて店長であった者の平均年収707万184円と、年間を通じてファーストアシスタントマネジャーであった者の平均年収590万円を比較すると、管理監督者扱いの店長と、管理監督者扱いではないファーストアシスタントマネジャーの収入には相応の差異が設けられているようにも見える。しかし、店長の年額賃金(インセンティブを除く)をS・A・B・Cの評価別にみると(下記表参照)、店長全体の10%にあたるC評価の店長の年額賃金は、下位の職位であるファーストアシスタントマネジャーの平均年収より低額である。店長全体の40%にあたるB評価の店長の年額賃金は、ファーストアシスタントマネジャーの平均年収を上回るものの、その差は年額で44万6,943円にとどまる
職位(店長はSABC評価別)
年額賃金(インセンティブ除く)
店長(S評価)779万2,000円
店長(A評価)696万2,000円
店長(B評価) ※店長全体の40%635万2,000円
店長(C評価) ※店長全体の10%579万2,000円
ファーストアシスタントマネジャー(非管理職)590万5,057円
  • 店長の時間外労働時間は月平均39,28時間であり、ファーストアシスタントマネジャーの月平均38.65時間を超えている。店長の勤務実態を考慮すると、店長の賃金は、労基法の労働時間等の規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇として十分であるとは言い難い

(2)中休みの労働時間制が争われたケース

・月光フーズ事件(東京地裁2021年3月4日付判決)
【事実の概要】

食品の製造、加工、販売及び輸出入、広島風お好み焼きの飲食店経営等を業とするY社は、2013年12月頃広島風お好み焼き等を提供する飲食店「A」の店舗1を開店し、また2017年4月頃店舗2を開店しました。X1・X2は店舗1及び店舗2の従業員として、おおむね以下の状況で勤務していました。

時間帯業務の状況
14時までランチタイム営業時間内の仕事
14時直前に来店した客の接客(おおむね14時30分頃まで)※1
14:30頃~16:30頃ディナー仕込み、配送食材受取り、不足食材買出し、予約受付、電話対応、シフト表作成、業者との打合せ※2
14時~17時はアルバイト従業員が不在のため店舗バックヤードにある電話の傍で待機していた※3
16:30頃~ディナータイム調理準備(鉄板の温度を上げる等)※4
17時~ディナータイム営業時間内の仕事

Y社はランチタイム・ディナータイムの各営業時間の間の14時~17時を休憩時間扱いとして、労働時間にカウントしていませんでした。これに対してX1・X2は、「実態に照らして、中休み時間はY社の指揮命令下に置かれていたといえるから労働時間に当たる」と主張して、Y社に対して未払いの割増賃金・遅延損害金及び付加金の支払いを求めて提訴しました。裁判では、「中休みが労働時間に含まれるか否か」に加えて、「労基法第34条で付与が義務付けられた休憩時間をX1・X2が取得できていたか否か」や「固定残業代や変形労働時間制に関する合意の有効性」等、6つの争点について判断されています。

【裁判所の判断】

東京地裁は、以下の理由により、X1・X2の請求を認めて、Y社に対してX1・X2の未払い割増賃金及び付加金合計4,500万円余及びこれらに対する遅延損害金の支払いを命じました。

「認定された事実(上記表の※1・2・3・4)を考慮すると、本件休憩時間においても、X1・X2はY社の指揮命令下にあったものと評価できる。また、未払い賃金の金額が2,000万円にも上ることや、(別論点の)固定残業代制度や変形労働時間制度に関する定めが無効であったこと等も踏まえると、悪質な未払い事案といわざるを得ず、付加金の支払い義務も課すのが相当である。」

2.美容師

(1)予約が入っていない時間の労働時間性が争点となったケース

・ルーチェほか事件(東京地裁2020年9月17日付判決)

完全予約制の美容院に勤務する美容師が、予約が入っていない時間も労働時間にカウントした上で、未払いの時間外労働・深夜労働割増賃金の支払い等を求めた事件です。

【事実の概要】

美容師であるXは、雇用契約に基づいてY社の運営する美容院(完全予約制)に勤務していました。XとY社との契約では、給与が月給制であるものの所定労働時間や休憩時間が定められていませんでした。XはYに対して未払いの残業代を請求したところ、Y社は残業代金額の前提となる労働時間の算定に対して、「予約が入っていない時間はすべて休憩時間にあたるので労働時間に含まれない」と主張しました。

また、XはY社代表から以下のようなパワハラ行為を受けて人格権を侵害されたとして、上記残業代と併せて慰謝料を請求しました。

  • Xに対して客の1人が「ドライヤーが熱い」旨の苦情を述べたところ、Y社の代表がXに対して「熱さを自分で感じてみろ」等と述べて、Xの耳から5cm~10cmの位置でドライヤーの熱風を浴びせた
  • Xが退職の意向を示したことに対して「恩を仇で返す行為」「100対0でXが悪い」等と言われた
【裁判所の判断】

東京地裁は、以下の理由により、Xの請求を認めてY社に対して割増賃金の支払いを命じました。また、所定労働時間や休憩時間を定めていなかったことや、労働時間の管理を怠っていたことは割増賃金支払いを不当に免れる悪質な法令違反行為であるとして、同額の付加金の支払いを命じました。また、Y社の代表者がXに対してドライヤーの熱風を浴びせた行為につき慰謝料3万円、その他のXに対する発言につき慰謝料5万円の支払いを命じました。

①残業代請求について
まず、勤務先の店舗に所定労働時間の定めがなかったため、法定労働時間を超える労働時間を計算する上で、当店舗が法定労働時間を週44時間※とする「常時10人未満の労働者を使用する商業、映画演劇業、保健衛生業、接客娯楽業」(労基法第40条1項、同施行規則第25条の2:以下「特例」)に該当するか否かが問題となりました。裁判所は、当店舗は特例に該当すると判断して、法定労働時間を44時間とした上で割増賃金を算定しました。

※法定労働時間の原則:1日8時間・週40時間(労基法第32条)

主争点となった予約外時間の労働時間性については、以下の理由により、基本的に労働時間に該当すると判断しました。

「Xを含む従業員4名の主業務は、Y社代表の施術の補助業務及び洗濯・清掃等の業務であったが、1人の客に対する施術の補助業務は同時に複数の人数で行う必要はなかった。また、Xが担当していたパソコン入力業務の頻度は高くなかった。これらに照らすと、少なくとも来客がない時間には、Xが実際に業務を行っていない時間は相当程度あったと推認される。

しかしながら、Y社の店舗では完全予約制を採用している一方で当日予約も受け付けており、来客の有無にかかわらず営業終了まで継続して開店し、かつ少なくとも客からの予約の電話がありうる常態であったこと等を考慮すると、営業時間中にXが業務を行っていない時間があったとしても、直ちに労働からの解放が保障されていたとみることはできない。また、『Xが自由に休憩を取得していた』
『Xは店舗の営業時間中に近隣の店で買い物や店員と雑談等をしていた』旨のY側の陳述は直ちに採用することができず、これらをもって来客がない時間帯の大部分において労働からの解放が保障されていたと認めることはできない。」

②慰謝料請求について
Y社代表がXにドライヤーの熱風を浴びせた行為は、耳付近に至近距離から熱風を浴びせることで身体的苦痛や屈辱感を与えたと言えるため、指導の範囲を超えて人格権を違法に侵害するものである。また、「100対0でXが悪い」等の発言は、全体としてみるとXに対する侮辱的・威圧的なものといえるため、退職を慰留するための説得の域を超えて違法に人格権を侵害すると言える。

なお、XはY社代表のパワハラ行為につき、他にも理不尽な叱責や差別的注意が多々あったとして合計11点について慰謝料を請求していましたが、上記2点以外の事実については証拠不在、あるいは違法ないし強要行為とはいえないとして棄却しました。

(2)個人事業主が運営する理容室の運営会社の未払残業代等支払義務が争点となったケース

・QBハウス事件(東京地裁2025年7月17日付判決)

ヘアカット専門店「QBハウス」で働く美容師8人が、店舗の運営者とQBハウスを運営する会社に対して未払残業代支払い等を求めた事件です。

【事実の概要】

美容師X1~X8は、それぞれ2003年~2016年にQBハウスの運営会社(Z社)にスタッフとして採用され、各自神奈川県内の4店舗に配属されて勤務していました。各店舗の運営者Y1~Y4は、Z社と「業務委託契約」を締結した個人事業主の立場で「エリアマネジャー」として店舗を運営していました。Z社は2014年に、X1らに対してエリアマネジャーを雇用主とする雇用契約書を締結するよう要請しましたが、提示された契約書の賃金欄には基本給や固定残業代の金額の記載がありませんでした。

X1~X8は、2023年2月、「Z社とY1~Y4双方が雇用主である」として、Z社及びY1~Y4に対して未払いの割増賃金及び付加金の支払いを求めて提訴しました。裁判では、以下の5つの問題が争点となりました。

  • ①X1らとZ社との間に雇用契約が成立したといえるか
  • ②仮に契約が成立しているのがX1~X8とY1~Y4の間だとすると、Z社は使用者としての責任を負うか
  • ③X1~X8とY1~Y4の間に固定残業代の合意が成立しているか
  • ④Y1~Y4が運営する各店舗は、それぞれ独立した事業場として、例外的に法定労働時間を44時間とする「常時10人未満の労働者を使用する商業、映画演劇業、保健衛生業、接客娯楽業」(労基法第40条1項、同施行規則第25条の2)に該当するか
  • ⑤X1~X8の実際の労働時間
【裁判所の判断】

裁判所は、Z社とX1~X8との間に直接の雇用関係は認められなかったとして、①及び②については棄却しました。一方、③についてはX1~X8について個別に判断した上で、5人については合意が成立していたが、3人については合意が成立していたとはいえないとしました。④については、各店舗が場所的に分散し、店長が配置されていること等から相当程度の独立性があり、それぞれが一つの事業にあたるとして、法定労働時間を44時間労基法施行規則第25条の2の特定適用を認めました。

最後の⑤については、以下の理由によりXらの主張を認めました。

  • 労働時間の管理はY1~Y4が行っていた
  • 待機時間や準備時間についても、Y1~Y4の指揮監督者に置かれていたといえるので労働時間に含まれる

以上より、東京地裁は店舗の運営者Y1~Y4に割増賃金等支払義務があるとして、Y1~Y4に対して未払残業代等合計約1,413万円の支払いを命じました。

本判決では、運営会社と業務委託関係にある店舗運営者に対する未払残業代の請求金額の支払い自体は認められています。一方で、運営会社の責任が全て否定されたため、「双方に責任がある」と主張する原告側にとって不満が残るものとなりました。

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不当解雇に遭った場合の対処法

サービス業の従業員の労働者性が認められる場合、不当解雇に対して従業員の地位確認、バックペイ(解雇時から現在までの賃金相当額)や慰謝料等の請求が可能です。会社から解雇通知を受けた場合は、以下のように対処してください。

  • 会社に解雇理由証明書の交付を請求する
  • 請求できる権利を確認する
  • 解雇の違法性を証明する証拠を集める
  • 会社と交渉する
  • (交渉不成立の場合)労働審判申立てまたは訴訟提起
  • 失業保険の仮給付申請(復職を希望する場合)
  • 同・本給付申請(復職を希望しない場合)

解雇通知を受けた場合の対処法について詳しくは、以下の記事を御参照ください。

能力不足を理由とした解雇についてのコラムはこちらへ
整理解雇についてのコラムはこちらへ
懲戒解雇についてのコラムはこちらへ
バックペイの請求についてのコラムはこちらへ

解雇が違法か否かを判断するためには裁判例も含めた専門知識が必要であるため、できるだけ早く弁護士にご相談ください。

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不当な退職勧奨に遭った場合の対処法

日本では解雇に対する法的規制が厳しいため、辞めさせたい従業員に対しては退職勧奨を行うことが多いです。ここでは、退職勧奨が違法になる場合や、退職に応じたくない場合にとるべき対処法について解説していきます。

退職勧奨が違法になる場合

退職勧奨は自発的な退職を促す行為なので本来は違法ではありません。しかし、退職勧奨の方法によっては違法になる場合があります。違法な「退職強要」に該当する可能性があるのは次のような場合です。

  • 暴力や侮辱的な発言、脅迫を伴う退職勧奨(パワハラ行為)
  • 退職勧奨を拒否しても執拗に退職を迫る
  • 欺瞞的な説明により退職に誘導する

退職勧奨の違法を主張する場合、労働者側から退職の取消、慰謝料請求、バックペイ(退職時から現在までの期間分の賃金相当額支払)等の請求が可能です。

退職勧奨に応じたくない場合の対処法

退職に応じたくない場合は、次の対処を行うことをおすすめします。

1.退職合意書にサインしない

退職に応じたくない場合に、一番大切なのは「退職合意書にサインしない」ことです。退職勧奨が行われる場合、会社から面談に呼び出されていきなり退職合意書を提示され、署名を促されるという流れになることがよくあります。さらに、「退職しなければ解雇する」「あなたの成績ではこれ以上うちの会社にはいられない」等の言動により心理的に追い込まれることも少なくありません。

しかし、一度退職合意書にサインしてしまうと、退職の合意の意思表示を取消すことが難しくなります。法律的には強迫による意思表示の取消を主張できる可能性はありますが、そのために必要な証拠が残っていないことが多く、実際には困難です。退職合意書を提示された場合は、拒否するか、応答を保留してください。

2.弁護士に相談する

退職勧奨を受けた場合は、できるだけ1回目の退職勧奨の時点で弁護士に相談してください。弁護士が介入することで、適切な対処法を教えてもらえる他、代理人弁護士による書面送付や会社との交渉が可能になります。

3.書面で退職に応じない旨の意思表示をする

労働者には退職勧奨に応じる義務がない以上、会社に対して退職勧奨をやめるよう求めることができます。退職勧奨の停止を求める場合は、弁護士に依頼して、弁護士名義で会社に送付する受任通知に「従業員に対する退職勧奨行為を停止してください」と記載してもらうことをおすすめします。

電話相談はできませんので、渋谷の事務所にご来所下さい。

弁護士への相談について

会社とトラブルになった場合、労働者性が認められるか否かが重要な意味を持つ一方、その判断には専門知識が必要です。適切に対処するために、我々弁護士に相談することをおすすめします。労働トラブルについて弁護士に相談することには、次のようなメリットがあります。

「労働者」に当たるか判断してもらえる

残業代請求等、労働関係法令に基づく請求を行うためには、その法律で定義される「労働者」の要件(ほとんどの場合、労働基準法第9条と同義)を満たしている必要があります。サービス業界の場合、会社に雇用されている従業員が労働者に該当することについては問題ありません。一方、個人事業主の場合、個別の事情により労働者性が認められるか否かが異なり、その判断が難しい場合も少なくありません。弁護士に相談することで、判例や業務経験に基づいて、相談者様が「労働者」に該当する可能性について、的確に判断してもらうことができます。

どのような請求ができるか判断してもらえる

労働者性が問題になるケースでは、残業代や不当解雇のバックペイ(解雇後の期間分の賃金相当額)の請求の可否が争われることが多いですが、可能な請求は個別の事案により異なります。また、業務委託のケースで労働者性が認められる可能性が低い場合でも、債務不履行や不法行為に基づく損害賠償請求等、何らかの請求ができる可能性があります。

弁護士に相談することで、労働者性を主張できる場合とできない場合でそれぞれどのような請求が可能であるか、的確に判断してもらうことができます。

証拠収集のアドバイスとサポートが受けられる

残業代等を請求する場合、主張を証明できる証拠を揃える必要があります。しかし、従業員自身で有効な証拠を揃えることは容易ではありません。また、労働者性が問題となる場合は、使用従属性があることを証明する資料も必要となります。

弁護士に相談することで、労働者性と請求それぞれを証明するためにどのような証拠が役立つか、それらはどのように収集するか等について、詳しく教えてもらうことができます。また、会社側が保持している証拠の開示請求等、適宜証拠収集のサポートも受けられます。

相手方との交渉を任せられる

会社に対して残業代等の請求を行う場合、請求書類を内容証明で会社宛てに送付した上で、請求を認めてもらえるように交渉する必要があります。しかし、従業員本人が、労働者性の根拠を主張して請求を認めてもらうことは困難です。会社が交渉に応じてくれないことも多く、また顧問弁護士に依頼して一方的に請求を拒否される可能性もあります。弁護士に相談することで、対等な立場で冷静に交渉を進めることができます。

ウカイ&パートナーズ法律事務所では、初回30分無料で法律相談をお受けしています。「営業時間後毎日残業しているのに、中休みを理由に残業代を支払ってもらえない」「業務委託を理由に、売上げが少ないと最低賃金以下の報酬しかもらえない」等、労働トラブルでお困りのことがありましたら、お気軽に当法律事務所の無料相談をご利用ください。

電話相談はできませんので、渋谷の事務所にご来所下さい。

まとめ

サービス業界では、営業時間内の勤務時間以外にも開店準備、閉店後の後片付け、店舗SNS更新等の日常的な作業が義務付けられていることが多くあります。勤務時間以外の作業時間は、会社の指示に基づいて行う限り労働時間に該当しますが、これらの時間がカウントされないために未払い残業代が発生しているケースもあります。さらに、飲食店の中休み時間は、電話対応義務等の実態によって労働時間と認められる場合があります。給与明細を見て納得できないことがあれば、弁護士への相談をおすすめします。

また、業務委託で働く方は、勤務時間外の作業時間が多いことがわかっていても「業務委託契約だから残業代請求できない」と諦めてしまっているかもしれません。しかし、労働者に当たるかどうかは、契約の名目ではなく、働き方の実態によって客観的に決まるものです。個人事業主として業務委託で働く場合も、実態に照らして使用従属性が認められる場合は、労働基準法や労災補償法等で認められた権利を行使できます。

ウカイ&パートナーズ法律事務所では、所属する弁護士全員が、サービス業の従業員の労働者性の判断や会社側の行為の適法性を検討・判断した上で、とりうる対処法について懇切丁寧にお答えします。当事務所では、初回30分無料で法律相談をお受けしています。飲食店従業員やアパレル店員、美容師の方が、未払残業代や不当解雇、退職強要等でお困りの場合は、ぜひ当事務所の無料法律相談をお申込みください。

電話相談はできませんので、渋谷の事務所にご来所下さい。

 

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